
米国のトランプ大統領は最近、イラン中部のナタンズ、フォルドゥ、イスファハンにある3つの核施設に対し、米軍による精密攻撃を実施したと発表した。この攻撃は、イスラエルによるイラン核施設への先制攻撃に続くもので、米国が直接軍事介入に踏み切った初の事例である。この行動は、中東地域だけでなく、世界各地での反米・反イスラエル感情の高揚を誘発し、テロのリスクを増大させる可能性がある。海外に駐在員を置く企業は、社員の安全という観点からリスク管理を撤退する必要がある。
【写真】日本企業駐在員が抱える拘束リスク。スパイとみなされないための対策は?
反米・反イスラエル感情の増幅
イランの最高指導者ハメネイ師は、トランプ大統領の「無条件降伏」要求に対し、「イランは降伏しない」と強く反発し、報復の意志を表明した。
イラン国営メディアは、フォルドゥ施設の被害を「限定的」と報じる一方で、攻撃を「侵略行為」と非難し、今後あらゆる形態での報復が予測される。イランはカタールやUAE、バーレーンなどにある米軍基地を標的として示唆しているが、中東各国にある米国大使館や米国企業などあらゆる米国権益が対象になるリスクがある。
中東以外の地域でも反米・反イスラエルテロのリスクが高まっている。ブルガリア・ブルガス空港では2012年7月、イスラエルからのチャーター便が到着し、イスラエル人観光客がバスに乗った直後に爆発があり、6人が死亡、30人以上が負傷した。この事件では親イラン勢力の関与が指摘されている。また、インドでは2012年2月、首都ニューデリーにあるイスラエル大使館付近を走行していた同大使館の車が爆発し、イスラエル外交官の妻ら4人が負傷する事件があった。アルゼンチンやタイ、ジョージアなど他の国々でも同様のケースが見られ、最近の軍事的緊張はテロのリスクをグローバルに拡大する恐れがある。
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在外邦人が取るべき対策
無論、日本が明確に米国やイスラエルを支持すれば、日本が直接の標的となるリスクは決して排除できないが、現時点で、現在の軍事的緊張が在外邦人に直接のテロのリスクを与えるものではない。しかし、テロに巻き込まれるリスクは常に存在する。海外に駐在員を置く企業などは、以下のような対策を講じることでリスクを最小限に抑えるべきである。
情報収集の徹底:外務省の海外安全情報や現地大使館の発表を定期的に確認し、渡航先の安全情報を把握する。SNSや現地メディアも活用し、情勢の変化をリアルタイムで追う。
危険地域の回避:反米・反イスラエル感情が強い地域や、各国にある米国・イスラエル関連施設(大使館、企業、観光地)へ近づかないよう駐在員に注意喚起する。また、デモや集会が予定されている場所には近づかない。
緊急時の対応準備:緊急連絡先(大使館、領事館、現地当局)を事前に確認し、避難計画を策定する。必要に応じて、早急な帰国や安全な地域への移動を検討する。
文化的配慮:現地での言動に注意し、誤解を招くような政治的発言や行動を控えるよう駐在員に注意喚起する。
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◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。