
日米ともに金融政策の決定会合が開かれたが、どちらも合言葉は「関税政策の不確実性」。その不確実性を生み出している“トランプ関税”を巡る合意はどうなる?
【写真で見る】「トランプ氏は中東で頭がいっぱい」首脳会談で合意に至らず“関税見直し”はいつ?
関税見直し「合意」はいつ?G7サミットに出席するためカナダを訪問した石破総理は16日、トランプ大統領との30分間の直接交渉に臨んだものの、関税措置の見直し合意には至らなかった。
石破総理:
「今なお双方の認識が一致していない、そういう点が残っているので、パッケージ全体としての合意には至っていない。“自動車というのは本当に大きな国益”。国益を守り抜くために我々として最善の努力を重ねるということに尽きる」
一方のトランプ氏は、中東での緊張状態の高まりを受けサミット2日目の日程をキャンセルして急遽帰国。アメリカに戻る機内でメディアに対しー
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トランプ大統領(17日):
「合意のチャンスはある。日本は手ごわいが、理解すべきなのは『しなければならないことをやらないならば、私たちとビジネスはできない』との手紙を送ることになるということだ。しかしチャンスはある」
では、合意はいつになるのか?
日米の通商交渉に詳しい細川昌彦さんは「自動車関税をめぐる交渉でせめぎあいになっている」と話す。
『明星大学』教授 細川昌彦さん:
「総理自身がコメントで『国益として自動車』とわざわざ話しているということは“ここが主戦場”。自動車関税というのは根拠になる法律も商務省が所管して、キーパーソンはラトニック商務長官。赤沢大臣もそれは十分よくわかっているので5回目6回目の協議では個別にラトニック商務長官中心で会いに行っている。これはもう明らかに自動車で突っ込んだ議論になっている証」
5月の貿易統計では、自動車の対米輸出額が2024年の同じ時期と比べて「24.7%減少」。関税交渉が長期化するほど日本経済への影響拡大が懸念される。
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細川さん:
「今回トランプ大統領は心ここにあらず。もう“中東のことで頭がいっぱい”。さらに残念ながら関税交渉は米中の方がアメリカから見ればもっと大事。そうするとトランプ大統領の頭がどれだけ日本に割けるか。“いつまでにというのは向こうも言えない”と思う。トランプ大統領の気分次第だから。そこをどう上手くラトニック商務長官とベッセント財務長官が説明できるようにしてあげるか。その知恵を日本が出していくプロセスだ」
関税交渉の先行きが不透明な中、日銀は17日、政策金利を現在の0.5%程度に据え置くと決めた。
【植田総裁発言要旨】
▼“経済・物価が見通し通りであれば”金融緩和の度合いを調整していくことになる
▼関税など不確実性が極めて高く“経済・物価ともに下振れリスクが大きい”
引き続き「追加利上げを目指す方針」は示しているものの、4月の日銀の展望レポートでは、2025年度は成長率も下がり、2026年度には物価も大きく下がる見通しだ。
【日銀展望レポート(4月)】※前年度比
▼実質GDP
(24年度)0.7%⇒(25年度)0.5%⇒(26年度)0.7%⇒(27年度)1.0%
▼消費者物価指数(除く生鮮・エネルギー)
(24年度)2.3%⇒(25年度)2.3%⇒(26年度)1.8%⇒(27年度)2.0%
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「特に注目なのは2026年度」と話すのは、物価の実証研究の第一人者でもある渡辺努さんだ。
『東京大学』名誉教授 渡辺努さん:
「26年度になると消費者物価指数が1.8%で、日銀ターゲットの2%を下回ってくるのが大事なポイント。今と正反対の“物価が弱すぎる”状態が生まれる。本当に1.8%になるなら利下げをすべき局面。日銀の仕事としてはターゲットの2%に戻していくのが仕事なので、本当にこうなるのであれば26年度は利下げだと思う」
ーーただ、足元の2025年5月の数字は▼生鮮除く⇒前年同月比3.7%▼生鮮・エネルギー除く⇒3.3%。下がったとしてもそんなに下がらないのではという見立てもできる。
渡辺さん:
「私もそこは強くそう思っている。やはりここ3〜4か月の物価は異常に強い。もちろんコメ高騰もあるが、サービスも含めそれ以外のところでも上がってきていて、少し潮目が変わってきている。そうなると26年度に関税の影響がこれから本格化したとしても本当に2%を下回るのかわからない。下回らない可能性もそれなりにある」
また日銀は、現在3か月ごとに4000億円ずつ減らしている「国債の買い入れ」について、2026年4月以降は減額幅を2000億円程度に縮めることも決定した。
植田和男総裁:
「あまり早めに減額を進めて国債金利が異常なボラティリティ(変動)を示す、それが経済にマイナスの影響を与える、そういうことが起こらないようにという配慮からの今回の措置」
2024年12月末の時点で、日銀の保有国債残高は561兆円となっている。
ーー2つの見方があり、〔1〕すでに大量保有しているのだから今まで通りのペースで減らせばいい。財政に忖度すべきではないというもの。〔2〕今は超長期の金利が上がってきているから減額は当然、と両方の意見がある。
『東京大学』名誉教授 渡辺努さん:
「今回の国債買い入れの話については、私は意外だった。これまで総裁や他の幹部も減額計画については、予見可能性を高めるというのが大事だと。あまり増やしたり減らしたりしないと言っていた。そうであれば原則は4000億円を続けるのが一番予見可能性が高いわけで、2000億円に減らしたということはそれなりの意味がある」
渡辺さんが考える背景は、やはり超長期金利の不安定な動きだ。
渡辺さん:
「日銀は元々、超長期の金利は物価や景気にあまり関係がないという見方だったが、そうは言ってもそれなりに不安定性を持ってくると色んな意味でまずいと判断をしたのではないか。それが2000億円への減額という形になった。やはり財政への配慮があったのではと私には見える」
一方18日、アメリカの中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)も現在4.5%としている政策金利を4会合連続で据え置いた。
【FRBパウエル議長 発言要旨】
▼景気見通しに関する不確実性は低下したが依然として高い
▼(物価上昇率は)夏にかけてさらに上昇する見込み
ーーパウエル氏はどちらかというとインフレの方を心配している印象だ
『東京大学』名誉教授 渡辺努さん:
「インフレの数字は徐々に下がり大きな懸念はないわけだが、やはり関税の影響が本格化してくる中で、【関税はインフレ率を上げていく】。また関税に伴い輸入品ではなく国産品に切り替えることによって、【生産の効率が悪くなり物価を上げていく】。この辺をFRBが注視しているのだと思う」
また、利下げについてパウエル氏は「2025年中に2回行う」という想定を示したが、FRBの経済見通しでは、成長率は鈍化し失業率も物価も上昇という“悲観的な状況”を予想している。
【アメリカ 2025年経済見通し】
▼実質GDP:(3月公表)1.7%⇒(今回)1.4%
▼失業率:4.4%⇒4.5%
▼PCEインフレ率⇒2.7%⇒3.0%
ーー政策金利の見通しでも、委員の中で「年2回の利下げ」は1人減少。「1回も利下げできない」は4人から7人に増加している。
渡辺さん:
「FRB幹部の発言を聞くと、インフレ予想がまた高まってしまうのではないか、不安定化するのではないかということを強く懸念しているようだ。なので利下げはするだろうが、今まで想定されたペースよりは、もう少しゆっくりな形になる可能性は強い」
また渡辺さんは「関税を課す国と課される国では影響の出方が違う」と話す。
▼関税を課す国(アメリカ・中国・欧州)
【物価が上昇】【成長率・雇用が下落】⇒スタグフレーション
▼課される国(日本)
【物価・成長率が下落】⇒デフレーション
『東京大学』名誉教授 渡辺努さん:
「中国やヨーロッパも報復関税があるので関税を課す側。日本は純粋に課される国なので、この差は大きい。課す国は関税に伴って物価が上がり、また全体の生産効率が悪くなるので成長率も下がる。景気が悪くなる中で物価が上がる<スタグフレーション>の状況。一方課される国は基本的には供給サイドの変化はなく需要が変化していく」
ーーつまり、輸出が減ると
渡辺さん:
「輸出減にともない日本国内の需要が減り、物価も下がる。そして成長率も下がる。両方とも下がる方向になっていきデフレというか、いわゆる<ディスインフレ>、インフレ率が下がる現象が起こってくる。日本が最も望んでいない方向に行ってしまう可能性がある」
(BS-TBS『Bizスクエア』 2025年6月21日放送より)