移籍市場は謎解きパズルだ。飛び交う情報は真実なのか、大幅に脚色されたものか、あるいは100%デマなのか、注意して見極めなければならない。
特に今夏は、FWヴィクトル・ギェケレシュが厄介だ。本人、エージェント、所属するスポルティング、そして交渉中のクラブが「発信したとされる」情報は、あまりにも自由すぎる。
「アーセナルと交渉決裂」
「スポルティングは8000万ポンド(約158億円)以上のオファーがあれば即決」
「唯一の公式オファーはユベントス」
「レアル・マドリードはギェケレシュに興味なし」
「すべての情報がウソ」
何がなんだかさっぱりわからず、ポルトガル発の一報には苦笑するしかない内容まで含まれる。市場の動向分析を得意とするメディアも、競合他社の報道を後追いするに留まっている。したがって、セルティックの前田大然に関する情報も慎重に取り扱わなくてはならない。
「ブレントフォードをはじめとするプレミアリーグの数クラブがリストアップ」
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昨シーズンのエネルギッシュな攻守が各方面から高く評価され、即戦力候補と考えられているようだ。
具体名が挙がったブレントフォード(2024-25シーズン10位。以下同)は、昨シーズンにひとつの集大成を迎えた。クラブ史上最多の16勝を挙げ、最終節までヨーロッパのコンペティションに出場する可能性を残していた。ヨアヌ・ウィサは19ゴール、ブライアン・ムベウモは大台の20ゴール。トーマス・フランク監督による7年目は、満足感とともに幕を閉じている。
とはいえ、新シーズンに向けて大きな変化が生じた。最も懸念すべき点は指揮官の交代である。フランク監督がトッテナム・ホットスパー(以下スパーズ/17位)に引き抜かれた。「ビッグクラブを率いるのは時間の問題」と、マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督が認めていたように、フランクはその手腕をプレミアリーグの古豪で試されることになった。
【ブレントフォードの不安点は?】
現時点でブレントフォードの後任は未定だ。前田の個性を生かせるタイプなら問題ないが、テクニカルな選手を欲する指揮官が着任した場合は、ブレントフォードへの移籍には熟考が必要だろう。監督が決まっていないにもかかわらずオファーを届けていたのだとしたら、強化の権限をめぐって上層部が対立するリスクが生じる。火中に飛び込んではならない。
マンチェスター・C(3位)の補強ポイントは右サイドバックで、アーセナル(2位)は9番タイプのストライカーを求めている。リバプール(1位)はレバークーゼンからMFフローリアン・ヴィルツを獲得しただけでは満足せず、チャンピオンズリーグ奪還のために中盤をさらに増強する予定だ。
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マンチェスター・ユナイテッド(15位)とスパーズ、チェルシー(4位)はヨーロッパ5大リーグで実績のあるストライカーを追い、エバートン(13位)が前田をチェックした事実は確認できなかった。
また、三笘薫を擁するブライトン(8位)は守備陣の立て直しが急務であり、新シーズンからプレミアリーグに昇格するリーズ、バーンリー、サンダーランドは、無尽蔵のスタミナを誇る日本人FWに今のところ興味を持っていない。
こうして、前田を欲しているとされるプレミアリーグのクラブは、ニューカッスル(5位)、アストン・ヴィラ(6位)、ノッティンガム・フォレスト(7位)、ボーンマス(9位)、フラム(11位)、クリスタル・パレス(12位)、ウェストハム(14位)、ウルヴァーハンプトン・ワンダラーズ(以下ウルブズ/16位)に絞られた、とも考えられる。
今夏のニューカッスルは慎重だ。『Profit and Sustainability Rules』(以下PSR/収益性と持続可能性に関する規則)の関係で、強化よりも現状維持を優先する。高いプレー強度を保ち、鋭く縦に仕掛けるエディ・ハウ監督のスタイルに、前田はマッチするに違いない。だが、オファーが届く公算は小さい。
【前田が得意とするエリアは...】
人件費の高騰で財政に大きな問題を抱えるアストン・ヴィラも、人員整理が喫緊の課題だ。今年1月にサウジアラビアのアル・ナスルへ移籍したFWジョン・デュランに続き、GKエミリアーノ・マルティネス、FWレオン・ベイリー、SBリュカ・ディニュといった主力を手放しても不思議ではない状況だ。前田を獲得する余裕はない。
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ウルブズも同様だ。オーナー企業の『復星国際』が深刻な財政難に陥り、すでにFWマテウス・クーニャが6250万ポンド(約123億円)でマンチェスター・Uへ、DFラヤン・アイト=ヌーリは3100万ポンド(約61億円)でマンチェスター・Cに移籍している。弱体化する一方のチームは、前田の進路として適切ではない。
ボーンマスも大騒ぎだ。DFディーン・ハイセンがレアル・マドリード、DFミロシュ・ケルケズはリバプールへ移籍が決まり、DFイリア・ザバルニーもパリ・サンジェルマンとの交渉が順調に進んでいる。レギュラーDFの3選手がチームを去るのだから、補強ポイントは明らかだ。
このような今夏の動きに伴い、前田の選択肢として推せるクラブは、ノッティンガム・F、フラム、クリスタル・パレス、ウェストハムだろうか。
ノッティンガム・Fはカウンターを主武器とし、自陣での戦いを甘んじて受け入れる。ただ、マイボールになった際の仕掛けは素早く、鋭い。前田の個性を生かせるチームのひとつだ。
フラム、クリスタル・パレス、ウェストハムは、基本コンセプトがよく似ている。ボール保持・非保持にかかわらず、各選手ができるかぎり均等の距離を保つ。
では、各クラブの基本フォーメーションをチェックしてみよう。ノッティンガム・Fとクリスタル・パレス、ウェストハムは3-4-2-1、フラムは4-2-3-1だ。前田が得意とするエリアは2列目の左サイド、あるいはトップである。シャドーではないだろう。
【51試合33ゴール・11アシスト】
フォーメーションを軸に考えるのなら、フラムが最適だ。昨シーズンは平均50%を超えるボール占有率を武器に、リバプールやチェルシーから勝ち点3を奪い、ニューカッスルにはダブル(ホーム・アウェーとも勝利)を食らわせている。
2列目の左にはマルチプレーヤーのアレックス・イウォビ、トップには復調著しいラウル・ヒメネスとライバルは多いものの、足を止めない前田のプレスが昨季11位のフラムをさらに上位へ導く可能性は小さくない。
51試合で33ゴール・11アシスト。昨シーズンの前田はすさまじかった。セルティックで「完全回答」を出した今、プレミアリーグへのチャレンジはプロとして非常に健康な考え方だ。
前田とセルティックの契約は2027年6月まで。クラブ側が設定した移籍金は2500万ポンド(約49億円)と伝えられている。
「PSRの問題を抱えていたとしても、プレミアリーグのクラブなら2500万ポンドは許容範囲だ」
セルティックのOBで、プレミアリーグでも活躍したクリス・サットンは、前田の移籍を暗示するかのようなコメントを発した。果たして、前田大然の来シーズンはいかに──。