
ゲリラ豪雨や台風など、水害に見舞われることが多い日本列島。建物や地下通路などの出入り口には、厳重な浸水対策が求められる。これまで、浸水対策といえば、土嚢(どのう)を積んで防水壁を構築することが一般的に行われていた。しかしこれは準備に時間がかかる上、重い土嚢は扱いが面倒だった。
そんな土嚢の欠点を克服して簡単に設置できる浸水対策として登場したのが、置くだけで設置できるABS樹脂製の止水板だ。開発したフジ鋼業株式会社(以下、フジ鋼業)の代表取締役社長・藤井健吾さんに話を聞いた。
土嚢や水嚢は重くて準備が大変
大雨が降ったときや台風などの影響で道路や地面が冠水し、建物内に浸水する恐れがあるとき、これまでは一般的に土嚢を積んで応急対策がとられることが多かった。
ところが、アスファルト舗装で覆い尽くされた都市部では、土嚢を用意しようにも土を入手することが難しい。土を入れたまま保管しておくと、土嚢袋が劣化したり破損したりして、肝心なときに役に立たないこともある。また、ある程度の防水効果を土嚢で実現しようとすると、それなりの数を用意しなければならないため、大きな労力を要する。
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土嚢のほかに水嚢もあるが、水嚢は完全に水に浸かってしまうと流されてしまうことがあるという。
浸水の危険がある切迫した状況では、速やかに対策しなければならない。そこでフジ鋼業では、ABS樹脂製でL字型のパーツを繋げて壁をつくり、浸水を防ぐ止水板「Flood Guard F」を開発した。これは藤井さんが、自ら設計したそうだ。
はめ込んでいくだけで長さを足せて、カーブに対応したパーツで曲線にも対応でき、しかも軽量で扱いやすいため昨年あたりから問い合わせが増えている。
「土嚢は1個20〜30kgの重さがあって、しかも防水対策をしようと思ったら1個や2個では済みませんから体力を消耗します。Flood Guard Fは高さ50cmのタイプでひとつ4.4kgと軽いですから、取り扱いやすいです」
「Flood Guard F」は高さ50cm、65cm、80cm、100cmの4タイプあり、設置する場所に合わせて横へ連結していくだけで、簡単に止水板を設置できる。連結方法も下部のソケットにフックを引っ掛けて、上部をクリップで止めるだけ。
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設置にどれだけ時間がかかるのか、筆者が実際に試してみた。
事前に練習をせず口頭でやり方だけを聞いて、バラバラのパーツが現場に用意されている状態からぶっつけ本番で実施した。14枚を接続するのにかかった時間は、2分8秒だった。
「Flood Guard F」の底面には水漏れを防ぐゴムとスポンジが施してあり、実際に浸水してきたときは水圧で地面に押し付けられることで密着する形状になっている。
「完全防水ではありません。接地面に凸凹があるとそこから浸水しやすくなりますから、設置場所は平時から努めてなるべく水平になるようにしておくと、効果的に使えます」
他にも重量物を併用して「重石」にすることで、さらに効果が上がるという。
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フジ鋼業が行った実験によると、プールに水を溜めて波を立てない静かな状態でかかる負荷(水圧)の15倍まで耐えられるとのこと。耐用年数は、10年程度を見積もっているそうだ。
パーツは止水板の本体となる「平面止水板」のほか、カーブを形成するパーツ、横幅を調整できる伸縮式の止水板、建物の壁面に密着させるサイドガードなど、あらゆる場所に対応できるパーツが用意されている。
「注文を受けた際には現場を見せていただいてから、組み合わせをご提案いたします」
最近では、災害時でも機能をストップできない医療機関からの問い合わせが増えているという。もっとも、これさえあれば浸水対策は万全というわけではなく、既存の資器材と併用することで人の労力を減らし、より高い効果を得られるというもの。土嚢ならば数十個は必要な場所でも「Flood Guard F」ならば2〜3人で簡単に設置でき、重石代わりの土嚢を数個用意すれば済むため、より楽に設置できる。
水害が多い日本で、今後ますます注目されそうな防災用品だ。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)