国分太一さん降板で“語らぬ会見” 日テレの判断は「正解」か「裏目」か

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2025年06月25日 10:01  ITmedia ビジネスオンライン

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「国分太一さん降板」会見に意味はあったのか

 「こんな会見なら開かないほうがマシ」


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 「24時間テレビの寄付金使い込みや『セクシー田中さん』の原作者の件では会見を開かなかったのに、タレントの不祥事では社長が先頭に立って“もみ消し”を図るのか」


 日本テレビの「説明ゼロ会見」が批判を浴びている。TOKIOの国分太一さんに「重大なコンプライアンス違反」が確認されたとして、番組降板を決定した日本テレビの福田博之社長が緊急会見を開いたのだが、「プライバシー」を理由にまったく情報を出さなかったからだ。


 福田社長は集まった報道陣の質問に対して、「申し上げられません」「お答えできません」を延々と繰り返した。報道によれば、その数はなんと36回にのぼったという。


 もちろん、記者からは「何のための会見だ!」「こんなの通用しませんよ!」などと怒声も飛んだが、国分さんも含めた複数の人間のプライバシー保護のためということでノーコメントを貫いた。ここまで情報を一切出さないことで逆に新たなリスクを招くのではないか、という“記者からの説教”にもこんな風にかわした。


 「それ以上に事案の特定につながる情報拡散のほうがリスクがあると判断した」


 さて、このような話を聞くと、企業危機管理を担当しているビジネスパーソンの中には、「日テレの危機管理は最悪だな」とあきれる人も多いだろう。実際、今回の対応を酷評している危機管理の専門家も多い。


●日テレの対応は間違っていない


 ただ、意外に思われるかもしれないが、一般的な企業危機管理の常識に照らし合わせると、今回の対応は間違っていない。むしろ、厳しい追及に耐えかねて、国分さんのやったことをポロッと喋ってしまっていたらとんでもないことになっていた。


 「組織外の人間がやったことを勝手に公表し、評価することは後々トラブルにしかならない」という企業危機管理の大原則があるからだ。


 当たり前の話だが、たとえ長年番組に出演していたとしても、国分太一さんは日テレの社員でもなく、単なる「取引先」に過ぎない。芸能事務所のようにマネジメント契約を締結しているわけでもない、いわば「アカの他人」だ。


 もちろん、そういう「組織外の個人」でも刑事事件や組織内の不正行為などに関わっていた場合、日テレも自社の問題として扱わなくてはいけない。しかし、今回はそういう種類のものではないという。


 フジテレビと中居正広さんの問題のように、社員が「被害者」でありながら、経営陣や幹部社員が中居さんと一緒になって「もみ消し」していたのでは、なんて疑いがある場合はそうも言っていられないが、今回のケースはそうではないと福田社長は断言している。


 つまり、いくら自社のコンプライアンス憲章に引っ掛かったとはいえ、国分さんという「社外の人間」のやったことを日テレが、全世界に公表する権利はないのだ。しかも、それが国分さんの名誉・社会的地位をおとしめるような内容であれば、なおさら喋ることはできない。時間が経過して、個人からプライバシー侵害や名誉毀損(きそん)で訴えられる恐れがあるからだ。


●説明責任を果たすべきは


 これは中居さんの件を見ても明らかだ。自身の「性暴力」を認定したフジテレビの第三者委員会に対して「中立性・公平性に欠け、一個人の名誉・社会的地位を著しく損ない、極めて大きな問題がある」と反論している。


 中居さんは警察から不同意性交罪や不同意わいせつの疑いで逮捕されたわけではない。しかし、フジテレビの第三者委員会が行った会見で、同社の元女性社員とのやりとりを全世界に公表され、そこで繰り返し「性加害」という言葉が用いられたことで完全に「罪人」扱いとなってしまった。そこに中居さんは反論しているのだ。


 自社の社員でもない第三者がプライベートで「何をしでかしたのか」を勝手に公表し、あれやこれやと断罪してしまうと、後で必ずややこしいトラブルに発展してしまうものなのだ。


 「いやいや、日テレの立場からしてみればそうかもしれないけれど、すでに週刊誌などでいろんな憶測や情報が飛び交っているんだから、重大なコンプライアンス違反の中身についてもある程度の説明は必要だろ」という意見もあるだろう。


 まったくその通りだが、その役目を果たすのは日テレではなく、国分さんが副社長を務める「TOKIO」社とグループエージェント契約を締結する「STARTO ENTERTAINMENT」社である。


 このあたりの役割分担は2025年1月、フリーアナウンサーの生島ヒロシさんがセクハラとパワハラによって無期限で活動を休止したケースが分かりやすい。


 このときもTBSラジオが、生島さんに「重大なコンプライアンス違反」が確認されたと公表したが、それ以上のことは語らなかった。そこでマスコミが所属事務所に確認したところ、番組制作スタッフへのセクハラとパワハラだと認める、という流れだ。さらに生島さん本人が、具体的にどんなハラスメントだったのかを説明した。


・フリーアナウンサー・生島ヒロシ パワハラとセクハラを理由に芸能活動無期限自粛(日テレNEWS NNN 2025年1月28日)


 放送局としては取引先の問題なので「重大なコンプライアンス違反」としか言及しないが、管理責任のある所属事務所や本人がしっかりと事実関係を説明する。これが芸能人のコンプライアンス違反の基本的な流れだ。


●TOKIOと国分さん本人による説明はどうだったか


 では、それを踏まえてTOKIO社と、国分さん本人による説明を見てみよう。


この度の件に関しまして、関係各所の皆様、応援し続けてくれているファンの皆様に多大なご迷惑をおかけしたことを、心よりお詫び申し上げます。


長年の活動において自分自身が置かれている立場への自覚不足、考えの甘さや慢心、行動の至らなさが全ての原因です。


期限を決めずに全ての活動を休止し、自分を見つめ直させていただきます。


改めて、ご迷惑をおかけしましたことを、重ねてお詫び申し上げます。


TOKIO 国分太一


 生島さんのように自分が無期限活動休止になった「重大なコンプライアンス違反」がどのようなものなのかを説明する意思はまったく示されていない。「被害者」がまったく存在しないコンプライアンス違反なのかもしれないが、関係各位とファンにしか謝っていない。


 しかも、日テレがプライバシー、プライバシーと大騒ぎしたわりには、自身が関わった番組のスタッフなど、関係者への取材を控えてほしいなどのお願いさえない。


 極めて事務的かつ形式的な謝罪文である。


 筆者は報道対策アドバイザーという職業柄、この手のステートメント(声明)を山ほど作成してきたが、このように言葉数の少ない謝罪文になるのは、往々にして「隠したいことがたくさんあるとき」だ。コンプライアンス違反の中身や数なのか、「被害者」の有無なのか分からないが、この文面からは「もうこれ以上、詮索してくれるな」という強い意志が伝わってくる。


 どちらにせよ、ここまで露骨に情報統制をしようとする姿勢が表れる謝罪文も珍しい。つまり「日テレの会見が異常だ」「フジよりも最低だ」と叩かれているが、説明責任を果たしていないのは国分さん側ではないか。


●日テレの対応も「悪手」だった


 そう聞くと「こいつは今回の日テレの対応は正しかったと言いたいのだな」と思うかもしれないが、そんなことはない。プライバシーを盾に沈黙を貫くのは「上場企業の危機管理」では珍しいことではないが、「報道機関の危機管理」では自らの信頼を損なう結果になりかねない。


 「人には厳しく自分は大甘」という、世の中の人々が薄々勘付きつつある「テレビや新聞の偽善ぶり」をこれ以上ないほど分かりやすく世間に知らしめてしまうからだ。


 ご存じのように、日本テレビは日本テレビホールディングスという上場企業の傘下の放送局である一方、全国で30社のネットワークでニュースを流している報道機関という顔も持つ。報道機関は首相官邸記者クラブをはじめ、日本全国の警察や役所の中の記者クラブに加盟している。この閉鎖的な社会の中で公務員と個人的な関係を築くことによって、一般のメディアやフリージャーナリストらが入手できない情報を得られる。


 なぜそんな「優遇措置」を受けているのかというと、国民の「知る権利」に応えているという大義名分がある。だから、企業や有名人の不正・不祥事が起きると厳しく追及する。時に個人情報やプライバシーを持ち出して情報開示を拒否する企業もあるが、「隠蔽(いんぺい)ではないのか」や「説明責任を放棄するのか」などと逆に厳しく追及してきた。


 分かりやすいのは、フジテレビの10時間会見だ。あのときも経営陣は「プライバシー」を理由に「詳細はお答えできません」を繰り返したが、会場にいたマスコミ記者は納得せず「プライバシーを盾にした隠蔽(いんぺい)では」と厳しく追及した。


 では、そんな立派な報道機関が自社内で起きた問題について「プライバシー」を理由に説明を一切しなかったとしたら、世の中の企業はどう思うだろうか。


 「人のことを攻撃する時はプライバシーを盾に隠蔽するなとか偉そうに言っているくせに、いざ叩かれる側になった途端にプライバシーを理由に何も答えられないなんてご都合主義がすぎるな」とあきれるのではないか。


 そこに加えて、報道機関として致命的なのは、「旧ジャニーズ事務所と極めて密接な関係にあり、創業者や人気タレントにやりたい放題やらせてきた」という今、日本のテレビ局が一番突っ込まれたくない「不都合な真実」を闇に葬り去っているようにしか見えないところだ。


●報道機関として取材をしなかった


 忘れている人も多いだろうが、日本のテレビ局は世界的にも注目を集めたジャニー喜多川氏の性加害問題の「もみ消し」に加担した「共犯者」という評価を受けている。視聴率を稼ぐ人気アイドルたちを多く擁する大手芸能事務所に逆らえないテレビ局が、ジャニー喜多川氏の「重大なコンプライアンス違反」を耳にしても聞き流し、報道機関として取材に動くこともなかった。


 こういう「隠ぺい体質」がいまだに続いていたことが明らかになったのが、フジテレビ問題だ。視聴率を稼げるスター・中居正広さんによる性加害を経営陣だけでどうにか闇に葬ろうとしていた。やっていることはジャニー喜多川氏の「醜聞」をスルーしていたこととそれほど変わらない。


 そういう流れで、今回の国分さんの「重大なコンプライアンス違反」が起きた。TOKIOでは元メンバーの山口達也さんが性加害で問題になったことがある。


 なぜ旧ジャニーズ事務所で少年時代を過ごしてスターになった人々に、このような問題が起きるのか。このようなトラブルの舞台になっている、テレビ制作現場に何か問題があるのではないか。


 プライバシーに配慮しながらも、こういう社会的な問題にメスを入れて国民に伝えることが「報道」の責務ではないのか。少なくとも、国民から厳しい目で見られるテレビ業界の構造的な問題なので「プライバシーのため答えられません」でやり過ごす話ではないのだ。


 では、福田社長はどう答えるべきだったか。あの会見でいきなり事案の詳細まで明かすのはやはりハードルが高い。そこでまずは「日本テレビとして勝手に公表できるものではないので、TOKIOと国分さん側に事案の説明を強く求めていく」ことを強調する。


 そこで国分さん側が「説明拒否」をした場合、検証番組を制作する。「そんなことができるわけがない」と失笑する人も多いだろうが、英国国営放送BBCは自局の番組で起きた性加害問題について、きちんと自分たちで番組を制作している。


 一般企業ならばここまでやる必要はないが、仮にも「報道機関」を名乗っているのだ。それくらいやらないと日本のテレビの「信用」は上がらないだろう。


●「説明ゼロ会見」に見習えること


 ……といろいろ言わせていただいたが、日テレが今の方針を転換する可能性は低い。『週刊文春』などの週刊誌にコンプライアンス違反の内容が明らかになったところで、国分さんも日テレも「プライバシー」の一点張りでダンマリを決め込むはずだ。つまり「逃げ勝ち」だ。


 「なーんだ、じゃあ日テレの“語らぬ会見”は成功ってことじゃん」と思うかもしれないがとんでもない。


 「プライバシー」というものは便利で実はあらゆるものに使える。コンプライアンス違反だけではなく、経営者や社員の不祥事にも適応できる。犯罪者だって人権があり、プライバシーはあるのだ。


 つまり、日テレは自分の首を絞めるような「悪しき前例」をつくってしまったのである。


 「それに関してはプライバシーでお答えできません」


 「事案の特定につながる情報拡散のリスクがあるのでこれ以上はお話できません」


 「コンプラ違反した役員にもプライバシーがありますのでご配慮をお願いします」


 そこでもし文句を言うメディアがいたらこう言えばいい。


 「日本テレビという報道機関でもプライバシーを重視して何も説明しませんでしたよね。プライバシー侵害につながる恐れもあるような情報を、あなたはこのような公の場で明かせというのですか? 報道の自由のためには、プライバシーなど関係ないとおっしゃるんですか?」


 このように「プライバシーさえ持ち出せば、マスコミ記者の質問なんてまともに答える必要がない」という、報道機関への信頼を揺るがすような風潮が広まる可能性がある。


 報道機関のトップである福田社長でさえ、記者からの質問にまともに答えていない。あれが許されるのなら、世の企業トップが同じことをしても責められる筋合いはない。


 企業危機管理にかかわるビジネスパーソンの皆さんはぜひとも日テレを見習って、 “説明を一切しない会見”を参考にされてはどうだろうか。


(窪田順生)



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  • 日テレがついこないだ、人を間接的に殺したことを考えたら、フジテレビみたいにならなければすべて正解と考えているやろにおǭ
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