画像:読売巨人軍(ジャイアンツ)公式Xより今年の父の日は6月15日でした。父の日は、普段の感謝をお父さんに伝える日とされています。しかし、この日にプロ野球チームの巨人が公式X(旧Twitter)アカウントで投稿した内容がネット上で議論を呼びました。
◆「父のキゲンは巨人が決めている」の投稿が炎上
巨人の公式Xアカウントは2025年6月15日の父の日に合わせて、「今日は、父の日。あなたのお父さんとジャイアンツの思い出はありますか」という本文と、とあるイラストを掲載しました。
そこには体格のいい男性がテレビ画面を見ながら応援している姿が描かれており、イラスト内には「父のキゲンは巨人が決めている」と書いてありました。イラストを見る限りでは、巨人ファンの父親がテレビ観戦しているだけの平和な印象を受けるかもしれません。
しかし、この「父のキゲンは巨人が決めている」という文言が付いていることで、「この父親は巨人が勝てば機嫌が良いものの、巨人が負ければ機嫌が悪くなる。その結果、家族がその悪影響を被る」といったシチュエーションまで多くの人が想像してしまったようです。
◆SNSに溢れた“毒親”体験談と共感の連鎖
この投稿が公開されると、X内では否定的なコメントが続出しました。
「自分の機嫌を自分でコントロールできないただの毒親」
「いきなり機嫌が悪くなって子どもに当たり散らす親がいる家庭の雰囲気は地獄」
「野球チームの勝敗で機嫌が変わる親がいれば顔色をうかがう子どもになる」
といった意見が寄せられました。
巨人側としては、かつての父親の姿を思い出し、日頃の感謝の気持ちを伝えるための父の日に合わせたチームの宣伝広告としてこの投稿をしたのでしょう。
イラストだけを見ると特に炎上要素はない平和な風景に見えますが、「父のキゲンは巨人が決めている」という文言がなければここまで炎上することはなかったのかもしれません。
◆昭和の野球熱狂と父親像
さらにこの投稿によって、自身の幼少期に経験した野球に関連する父親との嫌な思い出が蘇った人も少なくなかったようです。
「いつもゴールデンタイムに父親がテレビの主導権を握って野球中継を観ていて好きな番組が見られず、友達との会話についていけなかった」
「父親だけじゃなく、学校の野球好きな男教師も巨人が負けると本当に機嫌悪くなって些細なことでも殴ってきたから野球自体が大嫌い」
「野球中継見ながら、自分がプレイしているわけでもないのに『こんなのも打てなくて何してんだよ!』って選手に暴言吐いていた父親が本当に嫌いでした」
といった自身の辛い体験を投稿する人もいました。
現在子育て中の20代〜40代くらいのお父さんたちが、巨人が負けただけで家族に当たり散らすということはあまり考えにくいかもしれません。ただし、現代の子育て世代の親世代は幼少の頃からテレビで見るスポーツといえば野球が中心で、昭和の頃は日本全体が野球に熱狂していた時代。
テレビも1家に1台しかない時代に、テレビを独占し、テレビ画面に向かって野次や暴言を飛ばし、応援しているチームが負ければイライラする父親は珍しくなかったのではないでしょうか。
◆「野球嫌いは父親の影響?」幼少期の記憶が与える負の連鎖
今回の反応で目立った意見の1つが「父親の影響で野球嫌いになった」という人の多さです。
幼少期の実体験から「父親の支配的で自分勝手な振る舞いを引き起こす根源が野球であり、その影響で野球そのものに苦手意識や嫌悪感を抱くようになった」というのも仕方がないことなのかもしれません。
巨人としては、チームの宣伝広告として、また野球全体の盛り上げを目指して今回の投稿を行ったはずです。球場で直接野球を観戦し、巨人を応援する人を増やすためであり、野球に夢中になる子どもたちに夢を与え、野球人口を増やしたいという意図があったのでしょう。
しかし結果的には、多くの人の幼少期における忌まわしい記憶やトラウマを掘り起こしてしまい、巨人や野球そのもののネガティブなイメージを広める逆効果を招いてしまった感は否めません。
子どもが何らかのスポーツを始める際には、親の影響が大きく関わります。特に子どもの年齢が低い場合、その影響はより顕著です。日頃から父親とキャッチボールをしたり、親が楽しそうに野球中継を見たりする姿を見せることで、子どもにもそのスポーツが身近なものとなります。
むしろ、親を通してそのスポーツを知り、興味を持ち、実際にそのスポーツをプレイし始めることに繋がるのです。そのため、子どもにとって「そのスポーツを通した親の姿」というのは良し悪しの判断基準となると言っても過言ではありません。
◆温かい広告の中で孤立した炎上キャッチコピー
今回、巨人が父の日に出した広告は、「父のキゲンは巨人が決めている」というキャッチコピーが家庭内における不機嫌ハラスメントで苦しんできた人々の記憶を蘇らせるリスクについて予測できていなかったために炎上したものと言えるでしょう。
野球好きが訪れる球場だけの広告なら問題ないかもしれませんが、SNSを利用する以上はより幅広いターゲット層を意識し、若い世代にも受け入れられる広告内容にするべきでした。この広告の狙いそのものは理解できますが、「父親とプロ野球」に対する現代人のイメージを十分に考慮しなかった点が運営側の判断ミスとされても仕方がないかもしれません。
なお、今回の父の日広告には、この他にも野球中継を難しい顔で見つめる男性のイラストに「また父が、スカウトの目をしている」と添えられたものや、肩車をした父子のイラストに「パパも昔、パパと来たんだぞ」と書かれたものなど、好意的に受け取られる温かい内容の広告もありました。
それだけに、「父のキゲンは巨人が決めている」だけが炎上してしまい、物議を醸す結果になったのは非常に残念な形であったと言えるでしょう。
<文/エタノール純子>
【エタノール純子】
編集プロダクション勤務を経てフリーライターに。エンタメ、女性にまつわる問題、育児などをテーマに、 各Webサイトで執筆中