
今年の大型連休が過ぎた頃、島根県松江市内の老舗旅館経営者に「観光客は一段落ですか」と聞くと、「いやいや秋まで予約がいっぱいで、新規は断っています」との答え。コロナ禍を脱し、山陰の温泉街にも客足がしっかり戻ったようだ。
昨年秋、道後温泉(愛媛県松山市)に泊まった。ホテルから歩いて数分の場所に、活(い)きた文化財ともいえる道後温泉本館があった。入浴料は700円で待ち時間ゼロ。夏目漱石の小説『坊っちゃん』に登場し、ジブリ映画『千と千尋の神隠し』のモデルにもなった湯に漬かると、文学やアニメの世界にタイムスリップだ。
感心したのは「温泉街」の魅力の濃さ。湯から上がり街を歩く。この目的もなくぶらぶら歩くのがリラックスには効果的だが、上機嫌で商店街をのぞくと、共同店舗で地元のものを扱う店もあり、「個店の頑張りだけでなく、参加する街づくりが定着している」と聞いた。
日本の「温泉スタイル」は世界に認められている。宿泊大手の星野リゾートは、新規事業としてアメリカで温泉宿を展開する。日本旅行で温泉の良さを体験したアメリカ人に、和風のサービスを提供し勝負に出るという。
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地元松江市内の温泉には歴史とポテンシャルがあり、新たな温泉開発の動きもあるが、宿泊施設の快適さだけでなく、未来を見据えた「歩ける観光」を、街ぐるみで設計し直す必要があるのでは。温泉を売りにするには「湯気」だけでなく、官民挙げての「やる気」が必要だと思うのだが。
(まいどなニュース/山陰中央新報)