2026年ドラフトの目玉がわずか10球のアピールで日本代表入り 青山学院大・鈴木泰成の驚異のポテンシャル

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2025年06月26日 07:30  webスポルティーバ

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── 大学日本代表に自分が選ばれると思いますか?

 そう尋ねると、鈴木泰成(青山学院大3年)は「いやぁ〜」とはにかみながら、こう答えた。

「わかんないですけど、すごいピッチャーばかりでしたから。自分は3年生なので、『選ばれていたらいいな』くらいの感覚でいます」

【回転数2700台後半のストレート】

 6月21日から3日間にわたり、バッティングパレス相石スタジアム(神奈川県平塚市)で大学日本代表候補合宿が実施された。50人の代表候補のうち、21人が投手。そのうち15人が4年生である。

 3日間の合宿を終え、鈴木に話を聞いた約1時間後。大学日本代表の堀井哲也監督(慶應義塾大)が発表した26人のメンバーのなかに、鈴木の名前があった。

 鈴木が大学日本代表に選出されたことはサプライズでもなんでもなく、「順当」と言っていい。それほど、鈴木のポテンシャルは輝きに満ちている。残り1年あまりの大学生活でよほどのことがない限り、鈴木は2026年ドラフトの目玉になるはずだ。

 選考合宿では紅白戦が毎日行なわれたが、鈴木が登板したのは最終日の1イニングのみ。直前に開催された大学選手権で、2試合8イニングを投げた疲労を考慮されたためだ。だが、鈴木は笑顔で「もう少し投げたかったです」と明かした。

「大学選手権で東北福祉大に負けて、悔しかったので。大会が終わってもオフという感じではなく、『やらなきゃ』という思いが強くて。いい状態で合宿に臨めました」

 紅白戦ではカウントをとりにいくカーブを安打されるシーンはあったものの、最速150キロを計測したストレートは打者にまともにとらえさせなかった。1イニングわずか10球で無失点に切り抜け、鈴木のアピールは終わった。

 今回の大学日本代表は、7月8日から開幕する日米大学野球選手権を戦うためのメンバーになる。代表が発表される直前、「もしアメリカ打線と対戦するとしたら、どんな投球をしたいですか?」と鈴木に尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「アメリカ打線には、自分のタテ変化が通用すると思っています。スプリットとフォークの2種類のタテ変化を投げられて、あとは伸びるストレートの球質には誰にも負けない自信があります。そこで勝負できれば、いけるかなと感じます」

 この言葉に鈴木の武器が詰まっている。とくにストレートは、多くの野球ファンを魅了する可能性を秘めている。

 身長187センチ、体重79キロというスラリと四肢の伸びた投手らしい体型。しなやかで、美しい投球フォーム。指先から「パチン」と音が聞こえてきそうなリリース。最速154キロを計測するストレートは、捕手のミットを突き上げるような錯覚を起こす。

「リーグ戦で投げるとトラックマンの数値が出るんですけど、回転数と回転軸に注目しています。回転数は2700台後半が出て、アベレージは2500くらい。回転軸はシュートをしないで、ホップするような球を投げたいとイメージしています。真っすぐ、上へ突き上げるストレートです」

 東海大菅生高時代から、将来を嘱望された逸材だった。同校の若林弘泰監督は、鈴木の下級生時から「将来は日本を代表する投手になってもらいたい」と期待を口にした。高校2年時に右ヒジを痛め、手術を経験。青山学院大では安藤寧則監督が「順番だけは間違えないように」と語ったように、段階を踏みながら、大事に起用されてきた。

【負ければ優勝消滅の一戦で快投】

 リーグ戦期間中の5月上旬、青山学院大のグラウンドで鈴木に会った際、「そろそろ先発してみたいのでは?」と聞いてみた。鈴木は「そうなんですよ」と苦笑を浮かべた。その数日後、鈴木はリーグ戦初先発のマウンドに上がる。しかも、チームの命運をかけた大事な一戦で。

 5月11日、ジャイアンツタウンスタジアムで行なわれた亜細亜大との2回戦。すでに1回戦を1対2で落とした青山学院大にとっては、あと1敗でもすればリーグ優勝が消滅する試合だった。一方の亜細亜大は開幕7連勝で、優勝に王手をかけていた。

 のしかかる重圧も大きかったのではないか。そう尋ねると、鈴木は涼しげな表情でこう答えた。

「プレッシャーはもちろんあったんですけど、みんなが『いつもどおりのピッチングをしたら大丈夫だよ』と言ってくれたので。初めての先発としては、合格点だったと思います」

 合格点どころではなかった。鈴木は9イニング、137球を投げ切り、2失点で完投勝利を収める。息を吹き返した青山学院大は、翌3回戦をエース右腕・中西聖輝が15三振を奪う快投を見せ、2対1で勝利。そのまま逆転優勝、リーグ5連覇を果たした。

 この亜細亜大戦は、いずれ鈴木の野球人生を変えた一戦として位置づけられるような気がしてならない。

 青山学院大で一段一段、ステップを踏む鈴木だが、目の前には常に格好のお手本がいる。大学1年時には常廣羽也斗(現・広島)、下村海翔(現・阪神)。そして2年以降は1学年上の中西が、常にエースとして君臨している。

 中西のすごさについて尋ねると、鈴木は立て板に水のごとく語り始めた。

「全球種で勝負できることと、調子の波が少なくて、常に安定して投げられることですね。シーズン終盤になっても、パフォーマンスが落ちないところも見習わないといけないです。ストレートも変化球も使い方が上手で、いかにも『ピッチングをしているな......』と伝わってくるピッチャーだと思います」

 その言葉からは、鈴木の飽くなき向上心が滲み出ていた。

 鈴木は初の代表ユニフォームを身にまとい、日米大学選手権でどんなパフォーマンスを見せてくれるだろうか。鈴木泰成の成長を見守る時間。それは日本野球の近未来を夢想する時間と同義と言っていい。

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