
もし、明治大の試合を観戦する機会があれば、シートノックから見ることを強くお勧めしたい。
中堅を守る榊原七斗(3年)の外野守備を見逃せば、入場料の半分は損したも同然。そう言いたくなるくらいの魅力がある。
フィールドをところ狭しと動き回る、美しくスピーディーな身のこなし。左腕から放たれる、低い軌道で伸びていくスローイング。
とくにバックホームには、榊原のすべてが詰まっている。中堅前のゴロに対して猛烈な勢いでチャージし、素早い握り換えから左腕を振り、最後には地面を蹴って空中を舞う。この躍動感は、スポーツの醍醐味を教えてくれる。
【キャッチャーに突き刺すイメージ】
6月21日から3日間にわたってバッティングパレス相石スタジアム(神奈川県平塚市)で実施された大学日本代表候補選考合宿に、榊原は初めて招集された。外野陣も全国から腕自慢が集まっていたが、榊原の守備力は頭ひとつ抜けている印象だった。
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3日間の合宿を終えた段階で、榊原は充実感を滲ませながらこんな実感を語っている。
「やれることは全部出しきれたかなと感じます。とくに守備のほうはアピールできたと思います。あとは準備して、選考結果を待つだけですね」
合宿の初日、2日目は右翼のポジションに入ったが、3日目は普段から守り慣れている中堅に入った。シートノックでのバックホームに圧倒されたことを伝えると、榊原は微笑を浮かべて「自分のなかでは、あんまりよくなかったんです」と明かした。
「低く、強いボールを投げることは意識していました。あとは落としどころ(バウンドさせる位置)。人工芝と土のグラウンドでは変わってくるんですけど、平塚の土は硬いので。自分寄りで落としても、ボールが滑っていってくれると感じました」
送球を終えた直後、反動で高々とジャンプすることについて聞くと、榊原は「自分のなかでは、あんなに高く飛んでいるイメージはないんです」と笑った。
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「キャッチャーに突き刺すイメージで投げています。低く、強く、届くように。それはピッチャーをやっている時から変わらないですね」
【目標はヤクルト・丸山和郁】
報徳学園(兵庫)に在学した高校までは投手がメインポジションだったが、「小学生の頃から、投げない時はずっと外野をやっていました」と語るように外野経験も豊富だ。
のびのびと、奔放に見える榊原の外野守備だが、その内側には綿密な思考が張り巡らされている。榊原は「準備を大切にしています」と語った。
「ピッチャーが投げるコース、バッターのスイングを頭に入れて、体の切り方、球場の風などを想定しておきます。自分は内野手みたいに、インパクトに合わせてスプリットステップ(ボールがバットに当たる瞬間に、小さくジャンプすること)を踏むので、そこから始まります。一歩目が切れるだけで、守備範囲は大きく変わってきますから。もし右中間、左中間を任せてもらえるなら、全部捕りにいきたいですね。走りながら捕るのが好きなので」
身長173センチ、体重76キロと中肉中背の体格。俊足で守備範囲が広い、左投左打の外野手。プレーヤーとしてのタイプは、明治大の先輩である丸山和郁(ヤクルト)に近い。榊原も「目標とする選手です」と、丸山を意識する。
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「グラウンドに丸山さんが来られた時に、守備の感覚を教えていただきました。あらためて基本の大事さを感じました。周りからも『丸山さんに似ている』とは言われるんですけど、まだまだ丸山さんのレベルにはいけていないので。まずは追いついて、生意気ですけど、超えるような選手になっていきたいです」
今後、野球選手としてどんな成功イメージを抱いているのか。そう尋ねると、榊原は少し考えてからこう答えた。
「まずは持ち味である守備、足を使える選手になること。あとはいつも反省するポイントなんですけど、出塁率と打率を上げていかないと。塁に出て、かき回すのが大事だと思うので。近本選手(光司/阪神)みたいな活躍をしたいですね」
合宿終了後に発表された大学日本代表メンバー26人のなかに、榊原の名前があった。おそらく、大学ジャパンの外野守備の核になるはずだ。
7月8日から日米大学野球選手権が開幕する。もし観戦する機会があれば、ぜひ試合前のシートノックから球場に入ることをお勧めしたい。広大なフィールドを躍動する榊原の姿に、きっとエネルギーをもらえるはずだ。