【とんこつラーメン】この時代に1杯400円!? 長年この店の前を素通りしていたなんて......:パリッコ『今週のハマりメシ』第192回

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2025年06月27日 12:10  週プレNEWS

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ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

【写真】鯨ベーコンも特価

* * *

ありがたすぎることに、6月20日、僕の新刊エッセイ『ごりやく酒 神社で一拝、酒場で一杯』が発売された。


どんな内容かというと、僕が各地の神社仏閣へお詣りをし、まずはその土地の神様に「今日は1日おじゃまします」とご挨拶をして、あとはその街で気ままに飲み歩くというもの。神様のごりやくを借りていい店に出会ってしまおうという(実際たくさんのいい店と出会うことができた)一見罰当たりな行為ながら、本のなかでも本職の宮司さんなどにお話を聞いたところ、問題なしとのお墨付きをいただいた。

ざっくりと説明すれば、神社の祭事の多くは、終わったあとに、神様にお供えしたお酒や食べもののお下がりを関係者たちでいただく「直会(なおらい)」という行事がセットになっている。常に神様を第一に考える心さえ持っていれば、僕の行為も直会に近いものであり、また、お詣りのあとに良い酒場と出会い、それを自分が「ごりやく」と思うならば、自分にとっては間違いなくごりやくなのだ、ということになる。

まぁ、小難しいことは抜きにして、神社にお参りしてなんだか心身がすっきりした状態で、さてどこで飲もうか、と店を探し、飲む。という行為はすごく楽しかったので、ぜひおすすめしたい。合わせて、僕の新刊ごりやく酒もぜひおすすめしたい。よろしくお願いします。

本の執筆がひと段落したあとも、ごりやく酒は僕の趣味としてすっかり定着している。先日も練馬駅近くに用事があって、せっかくだからと、本のなかにも収録されている、駅からすぐの「東神社(とうじんじゃ)」へお詣りにいってきた。

ここは都内でも珍しく、境内に湧水が湧いていて、そのありがたい水は「天明神水」と呼ばれ、誰でも実際に飲むことができる。


しっかりとお詣りしてご神水をいただき、無事本が出版できたお礼もお伝えしたら、さて、今日もごりやく酒タイムだ。

時刻は午後2時すぎ。果たして、遅い昼食をとりつつ昼飲みができるようないい店があるだろうか? と、駅前の繁華街をうろうろしていると、1軒の昔ながらのラーメン店を発見。とんこつラーメンが名物の「ふくちゃん」という店のようだ。


僕は練馬区出身なので、この店の前は何度も通ったことがあるが、失礼ながらこれまで一度も気にとめたことがなかった。風景の一部としてしか見ていなかったというか。ところがこの日はなんとなく気になり、店の前でメニューをよく見てみる。すると、衝撃的にもほどがあるメニューが。


なんと午後2時から5時まで限定のタイムサービスとはいえ、とんこつラーメンと中華そばが、それぞれ税込400円! というかそもそも、元の500円の時点で安すぎる。最近飲食店の値上げには慣れっこになってしまった自分からしたら、まるでタイムスリップでもしてしまったような感覚だ。こんな店が、練馬駅前の繁華街にまだ存在するとは......。


さらに細かくメニューを見てみると、「餃子(5ヶ)」「シューマイ(3ヶ)」がそれぞれ200円と、我が目を疑うほどに安い。もう今日は、ふくちゃん以外の選択肢はありえないだろう。おじゃまします。

席に着くやいなや「とんこつラーメン」を注文し、合わせてこれまた爆安の「ちょいたしメニュー」3種、「バラ子明太子」(50円)、「肉味噌ばくだん」(100円)、「白菜キムチ」(80円)のなかから、明太子も追加。当然「ビンビール(中ビン)」(550円)も必須だ

では今日も、良きごりやく酒に乾杯!


よく冷えたビールをごくりとやってのどを潤し、おっとそうだった、餃子かシューマイも頼もうと思ってたんだよな......と、何気なく店内を見回して気づく。ラインナップは基本的に中華中心なのに、なぜか「鯨ベーコン切落とし」(350円)なんてのがあるじゃないか。その横に「※平日は13時より」と書いてあって、ルールの基準はわからないけれども、とにかく今は頼める時間帯だ。これにしよう!


平日の午後にふらりと入った町中華で、鯨ベーコンをつまみに瓶ビールを飲んでいる。なんて愉快な時間なんだろうか。塩気が強めのベーコンが酒を加速させる。

なんてことをやっていると、いよいよ期待の400円ラーメンが到着。これが、正直に言ってすごかった......。


タイムサービスで400円、定価が500円と聞けば、インスタントラーメンに毛が生えたようなものを想像するかもしれないがさにあらず。ちゃんと大ぶりのチャーシューと、ぶっといメンマがたっぷり、さらにゆで玉子とねぎ。どんぶりから立ち上る香りからしても、あまりにも真っ当なとんこつラーメンだ。


さっそくスープをすすってみると、おぉ、ちゃんととんこつの香りががつんとして、それでいてしつこすぎず、ほんのりと強めの塩気が食欲をそそる、うまいとんこつスープだ。こだわりのある人がどう評価するかは知らないが、僕はめちゃくちゃ好き。なんの文句もない。

超極細の麺がまた素晴らしく、世の中には"バリカタ"とか"粉落とし"みたいな世界もあると聞いているが、それ基準でいうとこの麺は"バリやわ"もしくは"粉いずこ"といったところか。ゆるゆるなんだけどかんすいの香りがノスタルジックで、ほっと心落ち着く味。それでいて、量はだいぶたっぷり。


で、チャーシューがまた大ぶりで、歯応えと旨味は残しつつも柔らかい絶品。なんだ、なんだんだ。とにかくすごい店だな、ふくちゃん。


50円でちょい足ししたバラ子明太子がまた良くて、そのままでもつまみになってしまうし、後半のラーメンに加えれば表情が変わる。


さらに卓上には、紅しょうが、高菜、あげだま、辛みそ、ごまなどの調味料が用意されていて、きっと合うから置いてあるんだろうと、少しずつ加えていってみる。


当然味はどんどん濃くなってゆくが、そのぶん酒のつまみ度が高まり、かついろんな味を楽しめるわけで、最後までなんとも充実の1食となった。


長年前を通り過ぎていたにも関わらず、一度も入ったことがなかったふくちゃん。しかし入ってみれば、あまりにも自分好みで、今もまたふくちゃんに行きたくてしょうがなくなっている。

自分のうかつさを反省するとともに、まだまだ飲食店はおもしろいなと嬉しくなった、今週のハマりメシだった。

取材・文・撮影/パリッコ

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