「Chicago Cubs」公式Xアカウントより引用 カブスの主砲・鈴木誠也の打棒が止まらない。
広島時代以来、4年ぶりの凱旋となった3月の東京シリーズでは、2試合で8打数無安打に終わったが、4月に入ってから本領を発揮。4月末までに7本塁打を放つと、5月も同じく7本塁打。6月もすでに7本塁打を放ち、早くも昨季マークしたメジャーでのシーズン最多、21本塁打に並んでいる。
◆“打撃専念”の覚悟が支える躍進
日本時間27日の試合でチームは81試合を終え、ちょうどシーズンの折り返し地点を迎えた。鈴木がこのペースで柵越えを量産すれば、広島時代の2021年にマークした38本塁打を上回り、42本塁打に達する計算だ。
広島時代はどちらかというと、走攻守三拍子そろった強打の外野手というイメージがあった鈴木。それは2022年のメジャー移籍後も変わらなかったが、今季はそれを自ら覆す必要があった。
というのも、昨季まで主にライトを守っていた鈴木は、大事な場面で守備の凡ミスも少なくなかった。さらに、オフには同じライトを守るカイル・タッカーが加入。レフトには守備に定評があるイアン・ハップ、センターにはメジャー屈指の守備範囲を誇る「PCA」ことピート・クローアームストロングがいるため、鈴木は押し出されるようにDHに回ることになった。
本人は外野の守備に就くことに未練を残しつつも、チームの方針には従わざるを得ない。DH専任となったからには、打撃で結果を残すしかない状況に追い込まれた。守備での貢献ができないとなれば、昨季までのような20本前後の本塁打数ではチームに居場所がなくなる可能性すら出てきてしまう。
つまり、鈴木とすれば、打撃で猛アピールをするしかなくなったのだ。ではなぜ、鈴木は30歳にして長距離砲になれたのか。
◆過去の成績と比較して見える“新たな姿勢”
最大の理由はやはり、守備に就く機会がほぼ消滅したことで、打撃に集中できるようになったためだろう。またタッカーの加入に加えて、他の若手選手の突き上げも鈴木に危機感を持たせた面もあったはず。さらに、守備練習の代わりに筋トレなどパワーアップに費やす時間も確保できたのではないか。
では、ここで改めて鈴木のカブス移籍後の打撃成績を振り返っておこう。
【鈴木誠也の年度別打撃成績】
2022年:111試合…打率.262、14本塁打、46打点、110三振、9盗塁、出塁率.336、長打率.433
2023年:138試合…打率.285、20本塁打、74打点、130三振、6盗塁、出塁率.357、長打率.485
2024年:132試合…打率.283、21本塁打、73打点、160三振、16盗塁、出塁率.366、長打率.482
2025年:77試合…打率.256、21本塁打、67打点、91三振、2盗塁、出塁率.313、長打率.534
今季は本塁打と打点を大きく伸ばしている一方で、三振のペースが増え打率も悪化。さらにさらに盗塁数も昨季の16盗塁から大幅に減る勢いだ。また、出塁率も.313と大きく低下しており、これはメジャーでの自己ワーストを更新するペースである。
これらの数字から読み取れるのは、鈴木がある程度、確実性を捨て、長打を打つことに集中している姿勢がうかがえることだ。
◆バレル率の上昇、レフト方向への打球増も顕著に
それはデータにも表れている。今季の鈴木は、打球速度と打球角度を組み合わせたバレル率を大きく伸ばしている。過去3年は10〜11%台で推移していたが、今季はそれを18%台まで引き上げることに成功。
特に顕著なのが打球角度なのだが、実はその傾向は昨季からみられていた。つまり、今季になって突如“長距離砲”になったのではなく、昨季から徐々にその準備を整えていたともいえるだろう。
また、過去3年はセンター中心だった打球方向もレフトへ引っ張る当たりが増加。レフトへの打球方向は1年目から、28.3%→37.0%→32.6%、そして今季は43.9%にまで増やしている。
◆苦手の落ちる球を克服
さらに、鈴木の進化の陰には、苦手の克服もある。球種別の打率を見ると、オフスピードと呼ばれる4つの球種(スプリット、チェンジアップ、フォーク、スクリュー)に苦戦していた。
いわゆる落ちるタイプの球種に対する打率は、1年目から.190→.246→.206。メジャーではこれらの球種に大いにてこずっていたが、今季は26日時点で打率.424にまで上昇。逆にスライダーやカーブといった曲がる系の変化球に苦しんでいる面はあるが、昨季までの苦手を克服した事実は大きい。
◆日本人選手2人目の“大台”も
また、先述した通り、今季の鈴木は盗塁数が激減。年齢的にも今後、脚力は衰えていくのが自然の摂理である。DHを任されるようになったこのタイミングで、“走”を捨て、長距離砲へスタイル転換を図ったのは、長い目で見ても賢明な判断といえるだろう。
今季は残り81試合。このペースで行けば、大谷翔平に続く日本人選手2人目の大台40本塁打も見えてくる。ケガさえなければ、2004年に松井秀喜氏が記録した31本塁打を超えることはほぼ確実だ。
鈴木はシーズン終盤に向けて打撃の調子を上げてくるタイプだけに、本塁打数がさらに増える可能性もある。果たして、充実期を迎えた鈴木は最終的にどんな成績を残してくれるだろうか。
文/八木遊(やぎ・ゆう)
【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。