限定公開( 1 )
国勢調査で流刑? ありえたかもしれない日本を描いた漫画『何も知らない平凡な女子高生が島流しにされる話』が面白い。
本作はトーチwebで連載中の『生活保護特区を出よ。』第1話。作者は今では希少なアナログ制作で漫画を描く、まどめクレテックさん(@Kretek_m)。ミステリアスだけど限りなく日常的な世界観はどこからアイデアを得るのだろう。(小池直也)
――Xに投稿してみていかがですか?
まどめクレテック(以下、まどめ):2巻くらいまで読まないと雰囲気がつかめない漫画な気がするので、第1話を読んでも反応がないかなと思っていたのですが、意外と多くの方に読んでもらえて嬉しかったです。
|
|
――1945年の終戦から違う世界線の日本を描こうと思ったのはなぜでしょう。
まどめ:もともと「『生活保護特区』があったら人はどう暮らすんだろう?」と考えたのが最初でした。こういう話を描くならパラレルワールドにするのがいいのかなと。
――冒頭に出てくる日本の歴史や徳についてのくだりも独特な雰囲気を感じました。これについては?
まどめ:もともと大学で文化人類学を専攻していて、そのなかでも世界中の文化はそれぞれ対等であるという「文化相対主義」を学んだんです。そのなかでナショナリズムについても興味を持ちました。そういったところが漫画にも表れているのかなと思います。
――この先の展開なのですが、生活保護特区はどのような世界として描かれるのか改めて教えてください。
|
|
まどめ:例えば主人公・フーカが生活のために仕事を始めるのですが付いていけずに無断で辞めてしまったり、彼女の来たくなった部屋の掃除を友達が手伝ってくれて終わってからみんなで発泡酒を飲むとか。あとは地域の人たちで協力してお祭を企画したり。その地域で生きている人たちの日常を描いています。
私や友達にとっては身近な、あるあるエピソードなのですが、一部の方からは「リアリティがない」という反応もあるんですよ。そんな皆さまにも「他者だけど他者じゃない」と感じてもらえたら。
――ナショナリズムに否定的なのかと思ったら、お祭など土着的な要素を描いたり、不思議な雰囲気の物語ですね。
まどめ:否定的というか、近代の国民国家というものの成り立ちから今までに興味があります。『生活保護特区を出よ。』2話で登場させた、ベネディクト・アンダーソンの著書「想像の共同体」に感銘を受けたので直接的ではないにせよ、その影響が出ていると思います。
自分自身の思想は左っぽいのかもしれないですが、学生時代にホームレスをしたことがあったり、いわゆるZ世代のイメージと感覚が違うみたいです。お酒もご飯もよく食べますし、コスパやタイパも信じていません。
|
|
どちらかというと無駄なことをたくさん経験したいタイプなんですよ。富士の樹海探索のコミュニティに入ったり、四国のお遍路にもチャレンジしてます(笑)。
――作画についてはいかがですか?
まどめ:こだわりというか偶然そうなったのですが、私はアナログで漫画を描いているんです。親がクリエイターなので小さい頃から画材道具をおさがりでもらっていたのですが、タブレットは古いものしかなく、貯金できる性格でもなかったので結局デジタルで描くのは諦めました。
今は筆ペンやつけペン、墨汁で描いてからiPadで仕上げています。商業活動を始めた時はデジタルに移行した方がスピードが早いかなと考えたりもしましたが、意外とそんなこともないなと。
最近は、こうの史代先生の展示に行ってアナログ作画の魅力に気付いたので、それを意識して表現していけたらと思っています。
――最近はアナログで描ける人も少ないと思うので、アシスタントさんを頼むときに大変では?
まどめ:そうですね。ただ私はそもそもアシスタントをお願いするのに向いていないということもあり、ひとりで制作を進めてきました。その代わり、この企画でも取材されていた漫画家・すみれちゃんなどの仲間とカフェで一緒に描いたりもします。
――今後『生活保護特区を出よ。』はどう描いていきますか?
まどめ:平凡な日常を大切にしたいので、ショッキングな演出とか展開を入れたくないんです。終わり方はもう大体決めているので、そこに向かって淡々と描き切りたいですね。
(文・取材=小池直也)
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 realsound.jp 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。