「AIエージェント元年」といわれる2025年。各ソフトウェアメーカーでは、自社製品に生成AIを取り入れるだけでなく、AIエージェントの機能も持たせる動きが加速している。
例えば米オラクルは3月20日、「Oracle AI Agent Studio」を発表した。これは、オラクルが提供する業務アプリケーションスイート「Oracle Fusion Applications」の顧客やパートナー企業が、AIエージェントの新規作成、管理などを可能にしている。このツールは追加費用なしで提供。企業のAIエージェント導入を支援する取り組みだ 。
今後、AIエージェントによって企業はどう変わっていくのか。AIエージェント搭載でERP(企業資源計画)はどう進化していくのか。長年ERPの開発に携わり、オラクルのアプリケーション開発担当エグゼクティブ・バイスプレジデントを務めるロンディ・エンさんに聞いた。
●AIエージェント同士が連携し合う「A2A」の世界が到来
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――2025年は、「AIエージェント」が1つの大きなテーマになっています。AIエージェントを、どう見ていますか。
AIは長年、研究されてきた分野で、従来型AIはマシンラーニングやデータサイエンスを活用した分析をし、パターンや結果の予測をしてきました。この従来型AIは、現在も非常に重要な分野であり続けています。生成AIが注目を集める中でも、このクラシックなAIの重要性は変わっていません。
過去12〜18カ月の間に、ChatGPTなどの生成AIに関心が高まり、AIが世界やビジネスをどう変えていくかに注目が集まっています。生成AIの活用例として、ERPからデータを収集してビジネスレポートを作成したり、職務経歴書の作成を支援したりするなど、さまざまなビジネス上のアプリケーションがあると思います。
オラクルは昨年1年間で100以上の生成AI機能をリリースしました。今年はさらにその範囲を拡大し、AIエージェントを続々と展開していく予定です。
――オラクルが開発しているAIエージェントの具体例を教えてください。
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オラクルは今年50以上のAIエージェントをリリースする予定です。その一例として、「ドキュメントIOエージェント」があります。これはバックオフィスにおけるさまざまな取引に関して支援するエージェントです。例えば、サプライヤーからの請求書や注文処理で、異なる言語やさまざまなフォーマットで書かれた文書を認識して処理できます。
従来のシステムでは、人間がこれらの文書を一つ一つ確認し入力する必要がありました。ドキュメントIOエージェントでは、あらゆるフォーマットと言語を認識し、文書の目的を理解して適切に処理します。例えば、海外出張の経費精算の場合、レシートの言語や内容を認識し、適切な項目として処理し、レポートを作成して上司に提出するところまで自動化できます。もちろん、最終的には人間が確認する必要があるものの、それまでの作業を全てAIエージェントが自動化することで、人間の介入を大幅に減らすことができます。
――より高度な処理として、AIエージェントは何ができるようになるのでしょうか。
より複雑で高度な例として、製造分野におけるメンテナンス監視があります。オラクルが開発中の「メンテナンスアドバイザー」というAIエージェントは、IoTシステムから収集された操業パラメータ、エラーコード、過去のメンテナンス履歴、さらにはWeb上の公開情報など、さまざまなデータを総合的に分析します。
このエージェントは、収集した情報を統合し、判断を下す必要がある人に対して包括的な情報を提供します。さらに診断結果や、トラブルシューティングの方法、次に取るべき行動についてのアドバイスまで提供できます。
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これにより、効率的な情報収集とメンテナンスが可能になり、担当者は必要な情報を合理的に入手できます。このようなAIエージェントの活用により、複雑な業務プロセスの効率化と、意思決定の質の向上が期待できます。
AIエージェントの進化により、ビジネスプロセスの自動化と最適化が進み、人間がより創造的で戦略的な業務に集中できるようになります。
――ある企業では、人事と営業の採用を一旦ストップし、AIエージェントに置き換えるところも出てきています。ロンディさんもこうした動きが加速していくとお考えですか。
完全に全ての人事や営業業務をAIで置き換えることは現時点では難しいかもしれません。しかし効率化の観点から言えば非常に大きな可能性があります。例えば人事管理におけるAIエージェントの例として、「HRヘルプデスクエージェント」のような機能を通じて、従業員の福利厚生や出張時のサポートを自動化できます。
具体的には、従業員が出張中に病気になった場合、その国の医療制度や利用可能な福利厚生についてアドバイスを提供し、必要な手配まで支援することが可能です。このように、従業員の個々の状況に応じた対応が自動化され、生産性の向上が見込めます。
また、これらのAIエージェント同士が連携し合い、「エージェンティック・ワークフロー」と呼ばれる新しい働き方を構築することも可能です。これは「A2A」(Agent to Agent)とも言われる仕組みであり、1つのAIエージェントが他のAIエージェントと情報共有しながら複雑なタスクを処理するものです。このような連携によって業務全体の自動化が進み、生産性が上がっていく時代になっていくと思います。
――こうした時代の変化の中で、日本市場はどのように見ていますか。
グローバルにおいて(企業全体でビジネス・タスクを実行するアプリケーション・セットである)Oracle Fusion Applicationsは積極的に採用されており、現在約1万4000社が利用しています。そのうち約1万1000社がOracle Fusion Cloud ERPを導入している状況です。しかし、日本市場についてはまだ導入が始まったばかりで、世界と比較すると初期段階と言えます。
ただし、良い勢いがついてきていると思います。例えば、日本の銀行や製造業、メディア、消費財分野など、多様な業界で採用が進んでいます。日本市場でもOracle Fusion Applicationsの導入が加速しており、重要な市場として位置づけています。
日本市場への注力を強化するため、新たに「クラウド・アプリケーションズ・ディベロップメント」という部門を設立しました。この狙いは、地域のシステムインテグレーターとのパートナーシップ強化や、主要ユーザーとの連携強化があります。日本のOracle Fusion Applicationsユーザー同士によるコミュニティ活動を通じ、顧客がより価値を感じられるソリューションを提供することを目指しています。
(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)
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