
【写真】花江夏樹インタビュー撮りおろし&『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』場面カット集(37枚)
■声ににじむ歩み──初期と現在で変わった炭治郎の“強さ”
――「無限城編」が劇場版として7月18日より公開されますが、最初にどんな想いが湧きましたか?
花江:これまでのシリーズや予告映像、キービジュアルなどからすでに伝わってきますが、“あの無限城”のスケールの大きさに、ただただ息を呑みました。「このクオリティを、どうやって維持してるんだろう」「一体どれだけの人が関わっているんだろう」と。それほどまでに、ufotableさんの執念と情熱を感じました。
――「柱稽古編」のラストでは、“柱”だけでなく炭治郎たちも無限城に落とされました。そして今回を迎えることになりますが、彼が背負っているものについて、どのように感じていますか?
花江:炭治郎は、いつだって“自分のため”ではなく、“誰かのため”に戦っているんですよね。禰豆子(「禰」は「ネ+爾」が正式表記)を守るため、そして一緒に戦ってきた仲間たちの想いをつなぐために。その根底には、家族や煉獄さん、仲間たちから託された願いや決意があると思います。
そうして託された想いを、今度は自分が次の誰かへとつないでいく。炭治郎は、そんな強い覚悟を持って戦っていると感じます。たとえ自分が倒れてしまっても、「仲間がきっとやり遂げてくれる」という信念が、彼の中にはある。
だからこそ、演じていても、炭治郎の揺るぎない覚悟や、命を懸けることへの迷いのなさが伝わってくるんです。とても重くて、でも本当に尊くて。彼が背負っているものの大きさを、あらためて実感しました。
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花江:やはり一番感じるのは、戦いにおける技術面での成長です。たとえば、ヒノカミ神楽を長く使えるようになったり、水の呼吸も自在に操れるようになったりと、「竈門炭治郎 立志編」で手鬼と戦っていた頃の炭治郎とは、まるで別人のような力強さがあります。
おそらく、初期と現在とで炭治郎の声を聴き比べてもらえれば、その変化を感じ取っていただけるんじゃないかと思います。声に込めた覚悟や、体の動きに伴う息遣いの一つひとつにも、彼の成長がにじんでいると思うんです。
演じるうえでも、そうした「積み重ねてきた時間」や「経験」が自然と声に乗るよう意識しています。炭治郎というキャラクターの歩みを、お芝居の中にしっかり刻み込んでいけたら。そんな想いで向き合っています。
■全力でぶつかり続ける“仲間”へのリスペクト
――下野紘さん(我妻善逸役)、松岡禎丞さん(嘴平伊之助役)とは長年ともに作品を支えてきた関係かと思いますが、これまでの収録で「すごい!」と感じたお二人のエピソードは?
花江:もう……常に「すごいな」と感じています。まず下野さんは、現場のムードメーカー的な存在で、いつも明るい空気を作ってくださるんです。下野さんがいると、自然とみんなが笑顔になって、現場がふわっと和むんですよね。
松岡さんは、普段はあまり自分から話されるタイプではないんですけど、『鬼滅の刃』の現場では、年を重ねるごとにどんどん距離が縮まってきていて。気づけば自然に会話が生まれていて、すごく打ち解けた関係になれたなって感じています。
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松岡さんが演じる伊之助も同じで、一つひとつのセリフに全身全霊で挑んでいるのが伝わってくるんです。ご本人が「この一言で力尽きてもいい」と本気で思っているような迫力があって、その姿勢に刺激をもらっています。隣で演じていると、自分も全力で応えなきゃって自然と思える。それくらい、お二人の存在は大きいです。
――炭治郎・善逸・伊之助の関係性について、今あらためて感じることは?
花江:本当に、すごくいい関係性だと思います。“同期”という特別なつながりもありますし、それぞれがそれぞれに、いい影響を与え合っているんですよね。
伊之助なんかは、最初の頃と比べるとずいぶん変わったと思います。炭治郎や善逸と出会って、人の温もりに触れて、少しずつ優しさや思いやりを身につけていったように感じます。無骨で荒々しいけど、どこか繊細な一面が見えるようになったのは、仲間の存在が大きかったんじゃないかなと。
善逸も、一見臆病で頼りなさそうに見えるけど、ここぞというときには必ずやってくれる。炭治郎や伊之助がピンチのときには、自分の恐怖を押し込めて立ち向かう。その姿には、毎回グッとくるものがあります。
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だからこそ、この三人の絆は、ただの仲間じゃなくて、“戦いをともにしてきたからこその信頼”で結ばれているんだと思います。お互いを支え合い、高め合う、かけがえのない関係だなと、あらためて感じています。
■“人は誰かのために強くなれる”──魂を震わせた言葉の数々
――これまでの物語の中で特に心を揺さぶられたセリフや瞬間を教えてください。
花江:強く印象に残っているのは、お館様が無惨に語った「永遠というのは人の想いだ 人の想いこそが永遠であり 不滅なんだよ」という言葉です。このセリフには、『鬼滅の刃』という作品の本質が凝縮されている気がします。誰かのために戦い、その想いが受け継がれていく。人はそうして生き続けるんだと教えてくれるようで、胸に深く刻まれました。
そうした“想いの力”を感じた言葉は他にもあって、たとえば無一郎のお父さんが「人は自分ではない誰かのために 信じられない力を出せる生き物なんだよ」と語る場面も、とても心に残っています。人は誰かのためなら、限界を超える力を出せる。そう信じさせてくれる言葉でした。
そして、炭治郎自身の「人は心が原動力だから 心はどこまでも強くなれる」というセリフも、強く共感した一つです。精神が肉体を凌駕することがある、その信念が炭治郎の根底にあって。それが彼の強さにつながっているのかなと思います。
こうして振り返ると、どの言葉にも共通しているのは、“人は誰かのために強くなれる”ということ。吾峠呼世晴先生は、言葉にするのが難しい人間の本質を、とても美しく、力強く描いてくださっている。読むたびに心を打たれますし、演じる自分にとっても、大きな指針になっています。
――『鬼滅の刃』との出会いが、ご自身の人生観にも影響を与えていると感じますか?
花江:そうですね。この作品と出会えたことで、以前に比べて「死ぬこと」の捉え方が変わったような気がします。誰しも、夜にふと死を意識して、急に怖くなるみたいな経験があると思うんですけど、今はあまりそういう感覚がなくて。不思議なくらい、心が穏やかなんです。
きっとそれは、大切な家族ができたから。子どもたちに、自分の想いや生きた証がちゃんと残っていくのなら、自分がいなくなっても、どこかで生き続けられるような気がして。
『鬼滅の刃』を読んでいて、想いが誰かに受け継がれていく描写にすごく共感するんですよね。それがまさに、今の自分と重なるというか。子どもが少しずつ成長していく姿を見ていると、自然とその想いが強くなっていくのを感じます。
……でも、ちょっと矛盾しているんですけど(笑)、一方で、「もっと生きていたい」とも思うんです。できるだけ長く子どものそばにいたいし、成長を見届けたい。その気持ちはすごく強くて。
だからこそ、この“両方の気持ち”が、すごく人間らしいし、今の自分をそのまま表しているんじゃないかなと思っています。
(取材・文・写真:吉野庫之介)
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』は、7月18日全国公開。