【MLB】最高クラスの成績でも納得せず メッツ・千賀滉大が追い求めるピッチングの世界線とは?

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2025年06月30日 07:20  webスポルティーバ

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後編:千賀滉大、メジャー3年目の現在地

右太もも裏の負傷で故障者リスト入りを余儀なくされたニューヨーク・メッツの千賀滉大だが、予定よりも早いペースでリハビリをこなしているという。

具体的な復帰の目処はまだ見えないが、あらためて今季、ケガをするまでの圧倒的な存在感を示していた千賀の成長、そしてそのピッチング哲学について、本人のコメントを中心に検証してみる。

前編〉〉〉「30試合連続3失点以下」の存在価値

【「調子がいいぞ、は、すぐに手に入れられるものではない」】

「ケガの直後から(練習では)投げ続けられていたのはよかった。まだ2週間も経っていないのにもうマウンドに立ち、力強く投げているのはいい兆候だ」

 ニューヨーク・メッツのカルロス・メンドサ監督が6月23日、千賀滉大に関して残したそんな言葉からは安堵と期待感が感じられた。

 千賀は右太もも裏の故障で13日に負傷者リスト入り。翌日にMRI検査を受け、「右太もものグレード1の張り」と診断された。メンドサ監督はそこで「比較的よいニュース。軽度なので、おそらく2週間後に再検査する」と述べていたが、結果として当初の予定よりも早いペースで回復していることになる。

 今後徐々に投球の強度を上げることができれば、遠からずマイナーリーグでのリハビリ登板に臨むことになるのだろう。そこで重要なセットバックがなければ、7月15日に開催されるオールスターよりも前の復帰も不可能ではないかもしれない。長期離脱を危惧するファン、関係者も少なくなかっただけに、この展開は"うれしい誤算"とも言えるのではないか。

 さまざまなことが順調に進むと仮定して、千賀が後半戦でどんな投球を見せてくれるのかが楽しみになってきた。今季ここまで7勝3敗、防御率は離脱時点でメジャー1位の1.47という堂々たる成績。開幕前の目標のひとつとして挙げていた"162イニングの規定投球回数到達"も千賀本人はまだ、あきらめていないようで、ハイレベルのパフォーマンス継続に期待がかかる。

 もっとも、これほど圧倒的な数字を残しながら、実は前半戦での千賀は自身の投球に必ずしも満足していない様子だった。コロラド・ロッキーズを7回途中まで2失点に抑えて6勝目を挙げた5月31日の試合後、浮かない表情で残していた言葉は象徴的だった。

「調子がいいぞ(という感覚)は、そんなにすぐに手に入れられるものではない。今はすごい球、いい球を投げられない分、どうにかしていくっていうなかで、うまく試合を作っていけているんじゃないかなと思います」

 防御率1点台、2023年から"30試合連続3失点以内"という投球は実際に"試合を作る"というレベルを超えている。自身に設ける基準が高いからこそ不満ではあるのだろうが、それでも2025年の投球を見てきて、千賀の謙虚な言葉も理解できないわけではない。確かに今季は数多くの走者を出すイニングが見られ、そのせいで球数が増える傾向にはあるからだ。

【最高の状態はまだこれから】

 5月13日のピッツバーグ・パイレーツ戦では2回から5回まで毎回三塁に走者を置きながら、大事な場面では得意の"お化けフォーク"を多投して後続を絶った。同19日のボストン・レッドソックス戦では2回までに3失点を許すも、徐々に立て直して6回を投げきった。

 同25日のロサンゼルス・ドジャース戦では大谷翔平に先頭打者本塁打、同31日のコロラド・ロッキーズ戦ではエセキエル・トーバーに先制弾を許すなど、序盤に失点するシーンはちらほら見受けられる。100マイル(160キロ)近い豪速球とフォークボールを軸に、メジャーリーガーたちを圧倒した1年目ほど豪快な投球をしているわけではない。フォーシームの平均球速は94.7マイル(151.5キロ)と2023年の同95.7マイル(153.1キロ)からちょうど1マイルも下がっており、やはりまだエンジン全開というわけではないのだろう。

「単純にやっぱり投げ方がよくないので、持っているHP(ヒットポイント=体力)の減りが速いみたいなイメージ。僕は投げていけばいくほど合ってくる投手だと思っているんですけど、それが後半になるにつれて、球数が増えていくにつれてうまくいかない。自分の中で探している部分はあります」

 昨季の故障の影響か、アジャストメント(調整・調節)を取り入れながら最善の投球フォームを模索し続けている印象がある。ただ、繰り返しになるが、残してきた数字はメジャー最高級。逆に言えば、まだ最高の状態でないのにもかかわらず、これだけの数字を残せるのは見事という考え方もできる。

 要所を締める投球が可能になっている最大の要因は、やはり代名詞となった"お化けフォーク"の威力にほかならない。1年目は被打率.110、被長打率.147だった千賀の決め球は、今季もここまで被打率.085、被長打率.170という圧倒的な効果を維持。2ストライクに追い込んでからの三振奪取能力を示すPutAway%も25%と高く(2023年は28.2%)、この球種はまさに"ウィニングショット"と称されるにふさわしい。

 それに加え、これまでの経験と春から積み上げてきた準備が相乗してきている部分もあるのだろう。

「この土台を作ってくれたのは、やっぱりダルさん(ダルビッシュ有/サンディエゴ・パドレス)であり、いろんな方のアドバイス。そういうところを自分のなかで見つめて、長い準備をかけてやれている」

 絶好調時の球威がなくとも、優れたピッチングが続けられる姿からは、千賀の投手としての総合力の高さが見えてくる。同時に、まだ絶好調ではないからこそ、今後はさらに期待できるという考え方もできるのだろう。

「千賀がローテーションの軸として投げている時、メッツは一段階上のより危険なチームになる」。前半戦途中、ナ・リーグのあるスカウトが述べていたそんな指摘は説得力を持って響いてくる。過去2年は故障に悩まされてきた千賀にとって、今季はプレーオフでの上位進出を目指すメッツにとっても、最新のケガが軽症で済んだことは幸いだった。

 ここで万全に近いコンディションを取り戻せば、後半戦は面白くなる。模索中のメカニックが整ったとき、どれだけの投球で魅せてくれるのか。まだシーズンは折り返し地点を迎えたばかりであり、息を吹き返した千賀がメジャーの強打者たちを再び震撼させる時間は残されているはずである。

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