「前にも言ったよね」が職場を壊す――部下が動き出す“言い換えマネジメント”の技術

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2025年06月30日 11:20  ITmedia ビジネスオンライン

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「前にも言ったよね?」「時間がかかりすぎじゃない?」と、つい口にしていないだろうか

 なぜ部下は同じミスを繰り返すんだ……。


【画像】自分を「落とす」ことが重要


 企画書に工程表を入れてくれと言ったはずなのに、また忘れている。


 2時間で終わる仕事に3日もかかっている。「前にも言ったよね?」「時間がかかりすぎじゃない?」と、つい口から出そうになる。


 しかし、このフレーズを使った瞬間、部下の表情が曇る。やる気を失い、関係が悪化する。


 そこで今回は、部下を傷つけずに主体的に動かす言い換えテクニックを解説する。部下のマネジメントに悩んでいる上司は、ぜひ最後まで読んでもらいたい。


●なぜ「前にも言ったよね」は禁句なのか


 「前にも言ったよね」というフレーズ。これはリスキーだ。上司なら誰でも使いたくなる瞬間があるだろう。しかし、この言葉には大きな問題が潜んでいる。


 まず、この言葉を聞いた部下の心理を考えてみよう。「前にも言ったよね」は「何度も言わせるな」「ちゃんと聞いていたのか」という非難のメッセージだ。部下は委縮し、言い訳を考えることに必死になる。


 「時間がかかりすぎじゃない?」も同様だ。「仕事が遅い」「能力が低い」と暗に批判している。部下の自尊心は傷つき、モチベーションは大幅にダウンするだろう。


 私は20年以上コンサルティングをしてきたが、このような指摘で部下が成長した例を見たことがない。むしろ関係が悪化し、ひどい場合は離職につながるケースさえある。


 ある営業部長から聞いた話。優秀な若手社員が突然退職を申し出た。理由を聞くと「上司から『前にも言ったよね』『何度言ったら分かるんだ』と言われ続けて、自信を失った」という。部長はがくぜんとした。指導のつもりが、逆効果だったのだ。


●単純な言い換えは嫌味にしか聞こえない


 では、どう言い換えればいいのか。ちまたではさまざまな言い換えテクニックが紹介されている。


 例えば「前にも言ったよね」を「今やっていることに集中しているんだね」と言い換える。「時間がかかりすぎじゃない?」を「丁寧な仕事を心がけているんだね」と言い換える――といった調子だ。


 一見、優しい言い方に見える。しかし現実はどうか。ほとんどの場合、単なる嫌味にしか聞こえないだろう。


 私がコンサルティングしていた企業で、実際にこのような言い換えを試した課長がいた。部下の反応は冷ややかだった。それはなぜか?


 言葉だけ変えても、上司のいら立ちや不満は声のトーンや表情に現れるからだ。部下は敏感にそれを察知する。


 若い世代は、タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する。回りくどい言い方より、ストレートな表現を好むケースもあるのだ。「はっきり言ってくれた方がいい」という意見も多い。


●相手の性格に応じて対応を変える


 ここで重要なのは、部下の性格を見極めることだ。人は大きく2つのタイプに分けられる。


1. ポジティブで鈍感なタイプ


2. ネガティブで敏感なタイプ


 それぞれに適した接し方がある。画一的なアプローチでは失敗する。


 まずポジティブで鈍感なタイプについて解説しよう。このタイプの特徴は、失敗を深刻に捉えない。注意されてもケロッとしている。忘れっぽく、同じミスを繰り返す傾向がある。


 このタイプには、はっきりと、しかし優しく伝えることだ。「うっかり」と「てっきり」という2つのキーワードを活用する。


 「前の打ち合わせで工程表の話をしたけど、うっかり忘れちゃった?」


 「てっきり2時間で終わると思ってたけど、何か困ってることある?」


 このように、相手を責めずに事実を確認する。ポイントは繰り返すことだ。1回では忘れる。2回、3回と優しく伝える。「ああ、すみません。うっかりしてました」という反応が返ってくる。


 上司はイラッとするかもしれない。しかしこのタイプは悪意がない。単純に忘れているだけだ。根気強く接することが重要だ。


●「マイフレンド・ジョン」テクニックの威力


 次に、ネガティブで敏感なタイプへの対応を解説する。このタイプは批判に過敏に反応する。自己肯定感が低く、すぐに落ち込む。直接的な指摘は逆効果だ。


 ここで有効なのが「マイフレンド・ジョン」というテクニックだ。私の友人ジョンの話をするように、第三者のエピソードを活用して伝える方法である。


 例えばこんな具合だ。


 「私の知り合いの部長が悩んでてさ。部下に仕事を依頼しても、いつも認識がズレるんだって。本人は一生懸命やってるみたいだけど、なかなか改善しない」


 ここで重要なのは、必ず自分を下げることだ。


 「実は私も社長によく言われるんだよ。『君は本当に認識が合ってないね』『前に言ったじゃないか。何度言ったら分かるんだ』って。気を付けなきゃと思ってるんだけど、なかなか難しくて」


 このように自己開示することで、相手の警戒心を解く。すると部下から「課長、実は私もそういうことがあります」という反応が返ってくる。


 マイフレンド・ジョンの効果は絶大だ。直接的な批判ではないため、相手は素直に受け入れる。自分事として捉え、改善への意欲が生まれる。


 ただし、使い方を間違えると逆効果になる。「こういう人がいて、ダメなんだよね」という批判的な話し方はNGだ。「それって私のことですか?」とかんぐられるからだ。


●認識のズレを防ぐ3つの確認ポイント


 上司としては、そもそも「前にも言ったよね」「時間がかかりすぎ」などと注意する状況を作らないことが理想だ。認識のズレを防ぐには、以下の3つのポイントを意識しよう。


目的の共有


 この仕事の目的は何か? 最終的に何を実現したいのか。背景も含めて説明する。


期待値の明確化


 どのレベルの成果物を求めているのか。具体例を示しながらゴールイメージを共有する。単なる指示だけだと、意外と伝わらない。


期限の設定


 いつまでに完成させるのか。中間報告のタイミングも決める。少し時間がかかりそうであれば、マイルストーンも決めよう。そうすればお互い進捗を確認しやすくなる。


 これらをテキスト化することも重要だ。口頭だけでは忘れる。メールやSlackなどのビジネスチャットで残しておく。後から確認できる状態にすると、認識のズレは大幅に減るはずだ。


 ある製造業の部長は、この方法で部下のミスが激減したという。「確認の手間はかかるが、やり直しの時間を考えれば効率的だ」と語る。


●部下の主体性を引き出す質問術


 最後に、部下の主体性を引き出す話し方を紹介しよう。指示や注意ではなく、質問によって気付きを促すやり方だ。


 「この仕事の目的は何だと思う?」


 「どんな進め方が効率的だと思う?」


 「何か困っていることはない?」


 このような開かれた質問(オープンクエスチョン)を投げかける。部下自身に考えさせ、答えを導き出させる。上司は聞き役に徹する。


 質問のコツは、詰問調にならないことだ。「なぜできなかったの?」ではなく「どうしたらできると思う?」と未来志向で問いかける。


 部下が答えに詰まったら、選択肢を提示する。「AとBの方法があるけど、どちらがいいと思う?」このように誘導する。


 主体性は一朝一夕には身につかない。しかし質問を重ねることで徐々に育っていくものだ。部下が自ら考え、行動するようになる。


 上司であれば「前にも言ったよね」と言いたくなる瞬間は必ず訪れる。しかし、そういった言葉を言わなくてもいいようにすることが、上司の役目でもある。


 部下の性格を見極め、最適なアプローチを選ぶ。時には我慢も必要だ。しかし、その努力が部下の成長につながり、チーム全体の成果となって返ってくる。マネジメントに悩む上司こそ、これらのテクニックを実践してもらいたい。


著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)


企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。



このニュースに関するつぶやき

  • 言い換えの方が嫌味っぽさに加え、わざと子供に話しているような口調で追加ダメージを狙っていますね。部下と周囲には優しい言い方をしていると思ってもらえるのかなぁ・・・
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