陸上短距離界のレジェンド、マイケル・ジョンソンがサブトラックで明かした「超常現象」と意外な姿【小谷実可子が見た世界陸上】

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2025年06月30日 17:05  TBS NEWS DIG

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今年9月、34年ぶりに東京で世界陸上が開催される。決戦を前に選手たちが過ごすサブトラックでは、時に本戦以上のドラマが生まれる。1997年から13大会、サブトラックでのリポートを担当し、アスリートたちの様子を見つめ続けてきた小谷実可子さんが陸上界のレジェンドたちにまつわる意外なエピソードや知られざる素顔を語った。
初回は、90年代後半に短距離界を席巻したアメリカのマイケル・ジョンソン。「まさにキングだった」ジョンソンがサブトラックで見せた意外な姿、そして小谷さんだけに語った「超常現象」。アスリート同士だからこそ共有できた貴重な話を、今、明かす。

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レジェンドとの遭遇 サブトラックの意外な姿

小谷実可子:
サブトラックって本番と同じような走りで練習していると思っていたのですが、ジョンソンは蕎麦の出前のように手のひらにCDプレイヤーを乗せて大きいヘッドフォンで聴きながら走っていました。

オリンピック™ で4個、世界陸上で8個もの金メダルを獲得した陸上界のレジェンド、マイケル・ジョンソンとの初めての出会いは、小谷さんにとって衝撃的だった。ジョンソンは本番さながらの緻密なアップをするかと思いきや、ゆっくりと走り、常にCDプレイヤーを大切そうに持っていたという。

リレーのウォーミングアップでも、ジョンソンは他の選手と異なっていた。アメリカは元々バトンパスの練習をしない傾向にあったが、ジョンソン以外の選手は、それぞれのルーティンでアップやバトンパスの練習を行っていた。しかしジョンソンは一切それに加わらず、一人で黙々とアップしていた。

彼が荷物を置き、ゼッケンのついたバッグに持ち替えるといよいよ本番が近づいている合図。遠くでアップをしていた他の選手たちはさっと支度を始め、黙って彼の後ろに続いた。
小谷さんが20年近くサブトラックを見てきた中で、まさにキングと呼べる存在だったという。

小谷実可子:
アメリカの選手だけでなく、ジョンソンがサブトラックに姿を現すと世界中の様々な選手が挨拶に来るんですよね。それだけ彼が特別な存在なんだなと思いました。

アスリートが共感する「ピーク・エクスペリエンス」の体験

ジョンソンは普段あまり表情を変えないタイプだったが、小谷さんが自己紹介でアーティスティックスイミング(当時はシンクロナイズドスイミング)の選手だと話した際、彼の様子が少し変わったという。特に「ピーク・エクスペリエンス」の話題になった時、ジョンソンは自らの体験を話してくれたのだ。

「ピーク・エクスペリエンス」とは至高体験とも呼ばれ、現在では「ゾーンに入る」という言葉で表現されることもある。これはリラックスしながらも極限まで集中力を高め、とてつもない力を発揮出来る状態を指す。
小谷さんにはアーティスティックスイミングの経験から、「水中で体が水に溶けるような感覚」や「水中で息を止めて激しく体を動かして演技をしていても苦しくない」といった「超常現象」が起きることがあった。そのような経験をした1989年のスイスオープンでは10点満点を出し優勝している。

「私はそういう経験したんだけど、あなたはそういう経験ない?」

小谷さんがジョンソンに尋ねると、彼は「ある!ある!」と答え、詳細を教えてくれた。

ジョンソン:
ある大会でフィニッシュした時に、そのまま永遠に走れそうな感覚になったことがあるんだ。まるで台車に乗ったまま誰かに引っ張られているようだったよ。

伝説の記録 セビリアでの疾走

1999年世界陸上セビリア大会での400m決勝。5レーンにスタンバイしたジョンソンはスタート直後、すぐに先頭に立った。200mを過ぎたあたりから2位の選手との差はどんどん開き、300mを31秒66で通過すると完全に独走状態に入った。そして世界新記録となる43秒18を叩き出し、金メダルを獲得した。

ジョンソンはレースを振り返りこう語っている。

ジョンソン:
この大会は世界記録のチャンスだと思っていたんだ。スタジアムも観客も最高の雰囲気だった。スタートして次の瞬間には(世界記録を)出せると確信して走っていた。

ジョンソンが小谷さんに語ったピーク・エクスペリエンスのエピソードは、彼が過去の経験として話してくれたものであり、セビリアでの世界新記録のレース時に起きた状態を指すものではない。しかし彼の言葉から、そのような特別な感覚が起こり得るということをイメージすると、彼のパフォーマンスがさらに魅力的に映るのかもしれない。

■マイケル・ジョンソン(57、アメリカ)1967年9月13日生まれ
1991年 世界陸上東京大会 男子200m 金
1993年 世界陸上シュツットガルト大会 400m、4 ×400mリレー 金
1995年 世界陸上イエテボリ大会 200m、400mの2冠を達成
1996年 アトランタ五輪 200m  世界記録を樹立
1997年 世界陸上アテネ大会 400m 金
1999年 世界陸上セビリア大会 400m 世界新記録(43秒18)を樹立し4連覇達成

【小谷実可子さん プロフィール】
アーティスティックスイミング(旧シンクロナイズドスイミング)でソウル五輪に出場し、ソロ・デュエットともに銅メダルを獲得。夏季五輪で初の女性旗手も務める。引退後は東京2020招致アンバサダーなど五輪・教育関連で要職を歴任。10を超える役職と家庭を両立させながら56歳で競技に復帰。2023年世界マスターズ水泳選手権アーティスティックスイミングのチーム、ソロ、デュエットで金メダルを獲得。今年8月、同大会に再び出場する予定。BSテレビ「世界陸上」では1997年から13大会連続でサブトラックリポーターを務めた。
 

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