【五輪シーズンの新プログラムを初披露】
6月27〜29日で3日間4公演が行なわれた『ドリーム・オン・アイス』。昨年につづき全照明が点灯し、6分間練習もある"試合形式"のショーだった。
多くのスケーターは、ショートプログラム(SP)を演じるなか、坂本花織(25歳/シスメックス)はSPとフリーの新プログラムを初お披露目した。
「皆さんがどういう反応をするのかすごく楽しみです。自分自身も大事な五輪シーズン(2025−2026)に、これで戦っていくんだというのをしっかり示せたらと思っています」と、決意表明をした坂本。
銅メダルを獲得した2022年北京五輪後は自身の可能性を探るため、それ以前とは違うジャンルの曲に挑戦していた。だが、それから3季を経て、昨季最終戦の世界国別対抗戦のあとに坂本は「自分は速い動きが苦手だと感じた。それに気がつけてよかった。来シーズンは自分のスケーティングスキルを見せるプログラムにしたいと思っています」と話していた。
そんな経緯があっての五輪へ向けた勝負プログラムだからこそ、早く観客の反応を知りたい。そして、認めてもらえていると感じたら自信を持って完成へ向け突き進みたいという気持ちがあったのだろう。そのプログラムはSP、フリーとも「見せたいもの」を明確に伝える内容だった。
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【大好きなフィギュアスケートを表現】
公演初日に滑ったのは、フリーの『愛の讃歌』。使用曲はシャンソン歌手のエディット・ピアフが歌った『バラ色の人生』『愛の讃歌』『水に流して』だ。なかでも『水に流して』は、『ファンタジー・オン・アイス』(5月30日〜6月1日)では宮原知子の振り付けで、「私は決して後悔しない」という強い気持ちを表現する滑りを見せていた曲だ。
「フリーは、愛をテーマにした恋愛を語る歌詞ですが、振り付けのマリー=フランス・デュブレイユ先生が『恋愛の面より、花織はスケート愛をテーマにしたほうが感情移入しやすいのではないか』と言ってくれたので、大好きなスケートを表現できたらなと思っています」
構成については、「ジャンプに気持ちが持っていかれるとほかの振り付けの部分が薄くなってしまうので、全体的なクオリティを上げるためにも3回転ルッツは1本の2シーズン前の構成に戻した」という。
公演初日は連続ジャンプを後半の3回転フリップ+3回転トーループと、ダブルアクセル+2回転トーループに抑え、最後の3回転ループは1回転になる滑りだった。最終日は、ダブルアクセルからのセカンドを3回転トーループにするだけに抑えたが、余裕ある大きな滑りで、"らしさ"を存分に見せた。
2日目の昼と夜公演で披露したSPは、『Time To Say Goodbye』。坂本は「20年間スケートをしてきて、幼少期からの思い出を振り返りながら、今の自分がこうやってでき上がったんだというのを滑りで示せたら」と話す。
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力強く、大きな動きで滑り出すと、最初に3回転ルッツを跳び、フライングキャメルスピンのあとにダブルアクセル。そして後半は、今回の2公演の演技では成功しきれなかったが、3回転フリップ+3回転トーループという構成だった。
「自身のスケート人生を振り返りながら」と話していたように、中盤からは体全体で伸びやかな曲を受け止めるように滑る。そして、最大の見どころという終盤のステップシークエンスは、体を思いきり動かす力感あふれる滑りを見せ、最後はレイバックスピンで締める。
【盟友・樋口新葉とともに納得のラストへ】
両方のプログラムの完成へ向け、坂本はこう語った。
「伸びのあるスケーティングだったりパワフルなスピード感だったりというものをどんどんプログラムのなかで出していきたいと思っている。ジャンプとかスピンももちろん大事だけど、スケーティングの練習も大事になってくる。自分が苦手としている間の取り方もとくに必要なことかなと思うので、重点的に練習できたら」
あらためて現役生活を新シーズン限りと決めたことについてはこう話す。
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「ミラノ(・コルティナ)五輪のシーズンを逃すと、引退し損ねるんじゃないかなというのもあって。自分自身、大きな区切りがほしかったので、そうなると五輪という一大イベントを目指し、そこで区切りをつけようかなと考えていました。先生方もそういう考えだったので、全員の意見が一致して決断に至りました」
公演初日の演技後の囲み取材で、坂本の前に出てきた樋口新葉も新シーズン限りでの現役引退を表明した。そして、披露したSPの『My Way』を「自分のスケート人生を表現するようなプログラムになっている」と説明した。
それを受けて、坂本は「新葉とはノービスの頃から一緒に戦ってきて、自分にとっては頑張ってもなかなか追いつけない存在。その新葉と一緒に北京でメダルを獲れたことで、やっと同じところで戦えるぐらい自分が成長できたなと感じた。ここまで一緒に頑張ってこられたのが本当にうれしいし、最後の最後まで一緒に頑張れたらなと思っています」と話した。
盟友とも言える樋口とともに向かう最終章。納得のラストダンスのためにも、坂本は今回の『ドリーム・オン・アイス』から、タフなスケジュールで走り続けるのだろう。