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ハンガリーのブダペスト工科経済大学とカナダのセントメアリーズ大学に所属する研究者らが発表した論文「Building a monostable tetrahedron」は、どの面に置いても必ず特定の1つの面を下に転がり着地する四面体の物理的実現に成功した研究発表だ。
1966年、数学者のジョン・ホートン・コンウェイとリチャード・ケネス・ガイが「均質な四面体は、どんな形状であれ、少なくとも2つの面で安定して立つことができるか」という問題を提起した。今回、この問題への回答となる「単安定四面体」の実用モデル製作に成功した。
単安定四面体とは、たった1つの面でしか安定しない特殊な四面体だ。普通の四面体では重心が中央付近にあるため、どの面でも安定する。しかし重心を極端に偏らせると、どの面に置いても最終的に1つの特定の面に転がり落ちる性質を持つ。理論的にはその存在が証明されていたものの、物理的な実現(極端な偏り)は困難を極めていた。
計算によれば、四面体の軽い部分と重い部分の密度比を1000倍以上にする必要があった。この条件を満たすため、骨組みには外径1mm、内径0.5mmの炭素繊維チューブ(密度1.36g/立方センチ)を使用し、重りには密度14.15g/立方センチのタングステンカーバイドを採用。これは鉛よりもはるかに密度の高い材料だ。辺の接合部は密度1.3g/立方センチのエポキシ接着剤で接合している。
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完成したモデルは、D面(頂点Dの反対側の面)でのみ安定し、他のどの面に置いても、A→B→D←Cという特定の経路に従って転がり、最終的にD面に落ち着く。
この研究の意義は、純粋な数学的興味を超えて工学的応用にも及ぶ。特に注目されているのが、月面着陸機の転倒問題への応用だ。実際、最近の月面ミッションでは3機の着陸機が転倒する事故が発生している。単安定四面体の研究で得られた知見は、どのような姿勢で転倒しても自動的に正しい姿勢に復帰する着陸機の設計に生かせる可能性がある。
Source and Image Credits: Almadi, Gerg?, Robert J. MacG Dawson, and Gabor Domokos. “Building a monostable tetrahedron.” arXiv preprint arXiv:2506.19244(2025).
※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2
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