
東京・新宿区にある大型再開発エリア「富久クロス」。その一角に位置する商業施設・イトーヨーカドーの屋上に、なんと戸建て住宅が22軒も並んでいる──そんな驚きの街並みが、今SNSやYouTubeで話題を集めています。
【写真】スーパーの屋上に造られた住宅街、上から見るとこんな感じ
まるで映画のセットのようなこの光景。一体なぜ、大手スーパーの屋上に“住宅街”が? その理由には、地域住民たちの熱い想いと、長年にわたる再開発の歴史がありました。
再開発の舞台は「富久町」。屋上に広がる不思議な街並み
現場は、新宿区富久町。2015年、再開発によって商業・住宅・医療が一体化した「富久クロス」が誕生しました。高さ180mを超える55階建ての超高層タワーマンションの下層部にはイトーヨーカドーが入り、その屋上に22軒の戸建て住宅が建てられたのです。
このエリアは、かつては個人商店や住宅が立ち並ぶ下町風情のある地域でした。バブル期には地上げ業者が横行し、再開発がなかなか進まず空き地や老朽化した建物が増える一方でした。
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住民の“想い”が形になった前代未聞の再開発
ようやく1997年に再開発計画が本格始動。計画にあたって、地権者たちが望んだのは「地域コミュニティの継続」でした。
「再開発後も地元のつながりを保ちたい」
その強い希望から、提案されたのが“屋上に戸建て住宅を建てる”という前代未聞のプラン。法的・構造的な調整を何年も重ね、2015年に実現しました。
空に浮かぶ“第二の地元”。そこに暮らす人たち
屋上の戸建てに住んでいるのは、再開発前からこの地域に住んでいた地権者の人たちです。戸建ての玄関が並び、通路には鉢植えや自転車も。商業施設の屋上とは思えない“日常”の風景が広がっています。
もちろん、タワーマンション内に住む地権者もいますが、「地上のような暮らしをそのまま屋上で」という選択をした人々も多く、穏やかに生活を続けているそうです。
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YouTuberの「のぶりん」さん(@noburin_travel)は現地を訪れ、動画でその様子を紹介。「静かで便利、そして何より住民の生活が感じられる空間だった」と語っています。
非常識から生まれた、やさしい街のかたち
「屋上に家を建てよう」
一見“クレイジー”に聞こえるその発想の裏には、地元を離れたくないという人々の切実な願いがありました。
この屋上住宅街は、日本の都市再開発においても極めて異例の事例。今もなお、全国の都市計画関係者や建築関係者の間で注目を集めています。
「未来の街づくりは、きっと人の想いから生まれる」
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そう思わせてくれるような“空の上の暮らし”が、今日も静かに息づいています。
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)