「7月の連休のどまん中、多くの人が夏休みで遊びに行っているタイミングに参院選の投票日を持ってくること自体、なんだか投票率を下げたい思惑でもあるのかと勘ぐってしまいます……」
そう話すのは、第48回日本アカデミー賞で最優秀作品賞に輝いた大ヒット映画『侍タイムスリッパー』の安田淳一監督だ。安田監督は、3年前から亡き父に代わり、京都府城陽市にある実家の田んぼを継いだ米農家でもある。
「今は、備蓄米で米価格が以前より下がったと報じられていますが、備蓄米はもともと国民の税金で国が農家から購入して備えていたもの。それを5kg2000円で市場に戻すというのは、国民からすれば二重払いになるのでは、という違和感も覚えます」
米価格高騰をきっかけに、以前より農業に関するコメントを求められる機会が増えたという安田監督。
「自分に関しては別に声を上げる必要はないのかもしれません。映画のヒットで個人的には兼業農家として米作り分の赤字は完全に補填されていますので。ですが、この炎天下も米を守らねばと頑張っているお年寄りをたくさん知っている。やめたいけど、やめられないという人も多い。そういう人たちにかわって、現状を知ってもらうために声を上げなければ、と思っています」
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もはや“精神論”では立ち行かなくなってきている現実があると安田監督は続ける。
「米は日本人の主食です。父もそうでしたが、『日本のお米を守らなあかん。米作りをやめたらみんなが困る』と、使命感と責任感で頑張っている人も多いはず。
それでも赤字が続き、適切な援助が受けられなければ、耐えきれなくなります。米農家は度重なる減反政策や無責任な大規模化推進にさんざん苦しめられてきているんです。
兼業農家でも、守ってきた農地を諦めざるをえなくなるケースも増えています。それに相続した土地は相続した人が死ぬまで『農業』をしてないと相続税がだ『宅地』として追徴されてしまいます。なので一応田植えだけはして、何もしないままに雑草まみれになって秋には草刈り機で叩いておしまいと言うアリバイ圃場さえ散見されます」
この状況に歯止めがかからなければ、米不足が一時的なものではなくなってしまうと安田監督は危惧する。
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「離農された方が手放した農地に一度コンクリートが乗ると、そこはもう二度と田んぼとして米は作れないでしょう。早急に対策が講じられないと絶望的な状況になってしまうのでは、と心配です」
声を上げはじめてからというもの、最近は立場や状況の違う米農家の人たちと議論する機会も増え、それをきっかけに知見が広がっているという。
「小規模でも大規模でも、米農家に共通して『日本の主食を守る』という志が根底にあります。その志を無駄にしないためにも、米を作るほど赤字になってしまう小規模農家を救うことは、即効性がある対策ではないでしょうか。『赤字にならない』と言うだけで生産量は増えるはずですから。
大規模米農家には大型機械の購入などで補助金も出ますが、そうした農家でも設備投資のために億単位の借金がある人もおられるようです。それで残るお金が700万円程度とか。いろいろな商売を黒字化してきた経験からすると、決して割のいい商売ではありません。『米を守る』と言う志がなければできないです。
食料自給率が30パーセント台の体たらくで、主食の米さえ自給できないようなら食糧の安全保障と言う国の根幹さえゆらぎ、食料を外国に抑えられてしまえば国は言いなりになるしかありません。
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諸外国では自給率を確保するため農家を守るのは、国策として当然とさえされているようです。政府には選挙目当ての場当たり的な対策だけでなく、根本的な問題ときちんと向き合ってほしいです」
映画のように、米問題を解決してくれるヒーローが現れないものだろうか――。
「それを言うなら、僕らの父親世代の日本の米を守るために歯を食いしばって頑張ってきた農家さんたちこそヒーローでしょう。でも、その世代が高齢化で(米農家として)どんどん倒れているのが現状なんです。なんとか彼らの頑張りが報われるよう応援したい」
米価格高騰をきっかけに、米に対する国民の関心が高まっている。7月20日に投開票が行われる参議院選挙に向け、政治家には米問題に対して真摯な取り組みを期待したいところだ。
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