※本稿はアニメ『タコピーの原罪』のネタバレを含みます。
アニメ『タコピーの原罪』の配信が、6月28日深夜より各プラットフォームで開始された。TV放送はなく配信限定で、冒頭では「センシティブな描写」への注意喚起が行われるなど、異例の公開方法となったことで話題を呼んでいる。
これはショッキングな原作をアニメ化することから逃げず、その内容にとことん向き合うという意思表明とも受け取れるだろう。その努力は映像の端々にも表れており、驚くべき原作再現度の高さを見せつけている。
原作の『タコピーの原罪』は、2021年から2022年にかけて「少年ジャンプ+」で連載されたタイザン5の作品。ハッピー星からやってきたタコ型の宇宙人・タコピーが、偶然出会った小学生・久世しずかを笑顔にするため、不思議な力を持つ「ハッピー道具」を使いながら奮闘するというヒューマンドラマとなっている。
一見するとほのぼのとした物語にも見えるが、すでに作品に触れた人はご存じの通り、実際に描かれるのは“ハッピー”とはかけ離れた現実だ。というのもしずかは同級生の雲母坂まりなから壮絶なイジメを受けており、あらゆるものに希望を感じることができない。タコピーはそんな彼女のために奔走するが、“最悪の結末”にたどり着いてしまうのだった。
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アニメ版は原作とほとんど同じストーリーとなっており、作画や演出面でも原作再現が徹底されている。とくに注目すべきは、原作の“行間”を埋めるような描写の数々だ。
たとえば第1話、タコピーがしずかにパンを恵んでもらったお礼として、空を自由に飛べるハッピー道具「パタパタつばさ」を貸そうとする場面。タコピーの期待に反して、しずかは不思議な道具に一切興味を示さず、「私はいいや」と辞退してその場を立ち去っていく。
原作ではこの場面は引きの絵で描かれているため、しずかの表情が若干読み取りにくかった印象。ところがアニメ版ではしずかの顔を間近に捉え、彼女が視線を地面に落としながら「空なんて飛べたって、どうせ何も変わらないし」と呟く姿をはっきりと描写している。さらにその場を立ち去っていく後ろ姿をしばらく映すことで、ランドセルにいくつも殴り書きされた中傷の言葉を強調している。
おそらくアニメの制作陣は、こうした描写によってしずかがどれだけ深い絶望を生きているのか浮き彫りにしたかったのではないだろうか。「空を飛ぶ」という非日常的な体験にすら興味を抱けないほど、世界のすべてに絶望している……ということがひしひしと伝わってくる名シーンとなっている。
さらに極めつけは、第1話の中盤における“惨劇”の描き方だ。タコピーはしずかにハッピー道具「仲直りリボン」を渡した後、心配になって様子を見に来るのだが、そこで命を失った彼女の身体が家の梁からぶらさがっているのを見てしまう。
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原作では細部まで描き込まれた迫力のある1枚絵で表現されていた場面だが、アニメではさまざまな演出を駆使することで、その衝撃を再現している。
まずはタコピーの目線から、「仲直りリボン」で吊るされたしずかの身体がゆらゆらと揺れているところを表現。そしてその後、すでに絶命したしずかの目線にカメラが同一化するような構図で、部屋を見下ろすカットが挟まれていた。しかも一連の場面では、身体の重みによって梁がきしむような音を立てており、視聴者の不安感を煽る効果を生み出している……。
そもそもアニメは、止め絵の迫力ではマンガに勝つことが難しいメディアだ。アニメスタッフはそれを理解した上で、音と動きを活かした演出により、原作の衝撃シーンを再現しようとしたのではないだろうか。
なお、このシーンには続きがある。リボンがゆるんでしずかの身体が床に落ちてきた後、タコピーは恐る恐る近づいてきて、彼女の指にゆっくりと触手を絡ませる。原作でもこの描写は存在するが、アニメではより丁寧な描写になっていた。これによってタコピーがキッズアニメのような世界観を離れ、“死”という残酷な現実に向き合っていく過程が表現されている。
ほかにも、まりなに暴力を受けたことを思い出したタコピーが一歩も動けなくなってしまう場面や、まりなの母親が自分の結婚指輪をガリガリとひっかく場面など、原作では1、2コマしかなかった描写を膨らませているのが目に付く第1話だった。
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さらに、声優陣の演技も原作再現度の高さに貢献している。とくに注目すべきは、しずかの声を担当する上田麗奈の演技だ。上田は『アオのハコ』の鹿野千夏役や『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』のギギ・アンダルシア役などで知られる声優だが、今回は感情の起伏が一切ない、淡々としたしゃべり方によって、現実のすべてを諦めたようなしずかの内面を表現している。思わずぞっとしてしまうほどのリアリティだ。
制作陣がその気になれば、少々内容をマイルドにして地上波放送を行うという選択肢もあったはず。しかし実際にはショッキングな内容を調整するどころか、むしろ強調するような挑戦的な作品に仕上がっている。前代未聞のアニメプロジェクトとして、今後の配信も見守っていきたい。
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『#タコピーの原罪』
6月28日(土)0時 配信開始
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Netflix、Amazon Prime Video、ABEMAほか各プラットフォームにて毎週土曜日に配信
✰本PV公開
✰配信日・プラットフォーム公開
✰OPテーマ:#ano「ハッピーラッキーチャッピー」… pic.twitter.com/afzFk1lRps
— 『タコピーの原罪』アニメ公式 (@takopi_pr) May 20, 2025
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