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「本棚は人柄を表す」「読書をすれば人生が変わる」などとよくいわれる。実際、仕事で必要な知識や考え方を、読書を通して学ぶ人も多いだろう。とはいえ仕事で忙しい中では、成長や学びにつながる本を効率的に探すのは難しい。
そこで本連載では、今をときめくIT・Web関連企業の経営者の本棚や愛読書をのぞき見。現代社会で戦うIT経営者たちがどんな考え方に影響を受けているのか、ヒントを探る。今回は、日立製作所経営層の本棚や愛読書をのぞき見る。
※本文中のプロフィールは取り上げた企業が提供したもの、またはその企業公式サイトから引用したものです。
●森正勝理事 デジタルシステム&サービス統括本部CTOの本棚
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現在は事業部門で技術戦略を考える立場ですが、どちらかというと、技術を使う側である社会や人の振る舞いに興味があり、その手の本を読むことが多い気がします。イノベーションを起こす上で大事な観点である顧客が感じる価値は、顧客が住む地域の歴史や文化、宗教などと切っても切り離せないため、どのような違いがあるかを知っておきたい、というのがモチベーションになっています。
●印象に残っている本
過去、研究開発部門でグローバルにいる研究者と一緒に顧客協創に取り組み、顧客協創で重要となるデザイン領域を担ったことがあり、より一層、社会や人に共感する必要性を感じるようになりました。そのようなときに読んだ「多様性の科学」(マシュー・サイド著)は、出だしから興味深い事例が並ぶ、とても印象深い本で、私自身もいろいろな人におすすめしています。「イノベーションには多様性が必要」とはよく言われますが、その重要性と効果を具体的に教えてくれます。
多様性が必要となる背景の一つとして、人は自分が知っていること以外は分からないということがあると考えています。だからこそ、自分が持っていない情報を持つ人との交流が重要になります。一方で近年のAIの進展により、情報の扱い方が劇的に変わろうとしています。最近読んだ「情報の人類史」(ユヴァル・ノア・ハラリ著)は、社会や人と情報の関わりを、人類の歴史に沿って示すだけでなく、AIがそういった関わり方にもたらす影響を啓発しており、とても読み応えのある本でした。
人はいろいろなソースから情報を入手し、自分の知識・認知の幅を広げていきます。とはいえ、技術がいかに進化しても、世の中全ての情報を知ることはできません。自分の知らない世界がこの世の中には存在する、というスタンスを常に持ちながら、これからもいろいろな情報に接し、知らない情報をどん欲に取り込んでいきたいと思っています。
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●プロフィール
京都大学大学院工学研究科修了後、日立製作所に入社。研究者として、デジタルを活用したサービス・ソリューションの研究開発に従事。2018年より欧州での、20年にはグローバル全体での顧客協創を、研究開発部門として推進。22年にコーポレート部門に移りイノベーション成長投資、特にCVCやバックキャスト型R&Dに関する投資戦略を策定。25年より現職。
●築島隆尋デジタルシステム&サービス統括本部CSO兼CTrOの本棚
全く純粋な好奇心から本を選ぶケースと、仕事に関連してまとまった知識を得たいと考え選ぶケースがあります。前者についての話になりますが、子供のころから本好きで、歴史、経済、国際関係、社会学、哲学、経営、物理、数学、生物学、人類学、工学、ノンフィクション、SF、時代物、純文学など節操がありません。
ただ振り返ってみるとジャンルごとに特定の好みの筆者がいてその方をフォローしている傾向があります。本は重く場所をとるので、過去に何回か断捨離もしました。数年前から所有書籍の電子化に取り組み、新規購入も極力電子書籍に切り替えていますが道半ばです。
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●印象に残っている本
30代〜50代の社会人が読むことを念頭に3冊ほど選んでみました。1冊目は「青春漂流」(立花隆著)です。学生時代に読んで強い影響を受け、結果的に過去のキャリア/経験を捨てて新しい世界に飛び込んだことが3回ありました。自分の内なる声に正直になろうとすると必然的にメジャーな既定路線からドロップアウトせざるを得ない。若い世代はコスパとか効率性を重視している話もありますが、これでいいのかと迷いと惑いの中にいる方を応援する本と思います。
2冊目は「V字回復の経営」(三枝匡著)です。40代前半のころの話ですが、ある社内の改革プロジェクトに関わり、自分としてベストを尽くしたつもりですが結果が伴わず、ある種の「燃え尽き症候群」の状態に陥った事があります。その時、出会った本です。目からウロコがボロボロ落ちる思いでした。その後もいろいろなプロジェクトに関わる度に何回読み返したか分かりません。
「頭で分かる」と「体に刻まれる」の違いも学びました。この本を含む三枝氏の4部作は、ターンアラウンド(事業再生や経営改革)と新事業創成を仕事にする人にとって、自ら実践を試みた後に読み返すと余計にしみるものがあるように思います。
最後は「『世界の終わり』の地政学」(ピーター・ゼイハン著)です。最近読んで興味深かった本の一つです。歴史的、経済学的見地から定量的に分析、過去70年間続いた経済のグローバル化がなぜ起きたのか、なぜそれが崩れはじめているか、そしてその結果、今後何がもたらされるのか、非常に多くの示唆がありました。
●プロフィール
日立製作所生産技術研究所(当時)入社。工場の生産システム革新に従事。研究所の部長を経て、HDD事業会社のグローバルSCMの生産統括部長として実務オペレーションに従事。2012年から欧州/日本を中心に、分散電源などを活用した新しいデジタルサービスの各種事業創成に奔走。22年、デジタルシステム&サービス統括本部CTO、24年から同統括本部CSO兼CTrO(Chief Transformation Officer)に就任。
●中田やよいデジタルシステム&サービスCDEIO兼コネクティブインダストリーズCDEIOの本棚
マンガ、ミステリ、小説、絵本・ティーン向け、ビジネス実用書──面白そうだと思えば、ジャンルを問わず手に取る乱読派です。娘たち(14歳と16歳)に読ませたくて買った本も結局自分が読み、思いがけない深い学びや新しい世界の扉が開く体験につながることもしばしば。読書は、そんな宝物のような時間を日常にもたらしてくれます。
●印象に残っている本
マンガは私にとって上質な娯楽であると同時に、社会課題や多様な価値観や生き方といったテーマが、時にコミカルに時にシリアスに描かれるーその表現の自由さが魅力だと感じています。「チ。地球の運動について」 (魚豊作)は、命を懸けて信念を貫く人間の強さ、世界中を敵に回してでも守りたいものを持つことの尊さを描き、心揺さぶられます。
「おっさんのパンツがなんでもいいじゃないか」(練馬ジム作)では、“他人事”だったはずの出来事が自分の中に入り込み、自分の“ふつう”が突如揺さぶられ、やがて、静かに自分がアップデートされていく過程がコミカルに描かれ共感を誘います。「リエゾン」(ヨンチャン・竹村優作)、「ハネチンとブッキーのお子さま診療録」(佐原ミズ、北岡寛己作)は子育ての奥深さや葛藤、そして小さな希望がストーリーの中に丁寧に織り込まれ、どれも大人に読んで欲しい“著書”です。
次にご紹介したいのは「日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学」(小熊英二著)です。外資系企業で働いてきた私にとって、“日本型雇用”とされる仕組みを体系的に理解するのに大きな助けになりました。
“欧米型”との成り立ちの違い、そして日本型雇用は戦後から1970年代にかけて築かれた比較的新しいものであること。「一人の稼ぎ手で家族が十分な生活を営める世帯」は全体の1/3を超えたことはない事実。今、その「大企業型」に属する人口は減り続け、つまり、日本のこの仕組みは20%くらいの企業とその従業員によって築かれ支えられてきたが、もはや「日本全体」がその仕組みを支えきれない現実があります。最後に投げかけられる、「勤続10年のベテランシングルマザーのパートと昨日入った高校生のバイトの時給が同じな事を、あなたはどう考えるか」という問いを、深く考えます。
そして「100年の旅」(ハイケ・フォーラ著)。絵本でありながら哲学書のようなこの一冊は、0歳から100歳まで、1年ごとに1ページ、短い一文と挿絵でつづられています。100歳のページは空白──人生とは結局何か、その答えを自分自身で紡ぐための余白が残されています。私はまだそこに言葉を持たず、時折この本を開いては、自分や娘たちのこれまで、と、これからをおもい、ほっこりしたり、涙ぐんだりしています。
娯楽としての読書の中に、世界の見え方が変わる瞬間や、知らなかった世界や価値観が突然目の前に現れる、そんな体験があるから、私は今日も本やマンガ(ほとんどKindleですが……)を手に取ります。
●プロフィール
外資系金融・外資系製薬会社を経て、2022年10月日立製作所入社。Hitachi Groupの経営基盤や持続的成長を下支えする組織カルチャー変革、特に「多様性を力に変える」「インクルーシブを全ての社員の自分ゴトに」のマインド形成や行動変容に従事。インクルーシブ行動目標の全社員必須化や、ボトムアップ活性のためのEmployee Resource Group(ERG)制度の立ち上げを遂行。社員一人一人が「個」の違いを尊重し合いながら、自分らしく働き最大限の力を発揮できる組織カルチャー醸成に取り組む。
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