あくまで一食分でこれだ。つくづく筆者の健康状態が心配になる最近通い出した編集部の近くに、「なか卯」があることを発見した。学生時代、友人から「なか卯の親子丼は絶品だ」と聞かされていたが、中央線沿線で生活し、長らく渋谷で勤務していた筆者は、なかなか行く機会のがなかった外食チェーンである。意外と城東エリアに多いのだ。
インターネットでも話題のなか卯の親子丼を食べたい……。いつしか、なか卯への憧れのような気持ちを抱くようになっていた。
幸い、編集者とライターは仕事でさまざまな場所に行くことができる。そこで、取材などで普段使わない駅を利用した際に、なか卯を見つけると積極的に入店していた。
◆なか卯との距離感はいつも不安定
確かに親子丼は美味しい。「外食チェーンの味」という偏見は捨てたほうがいいくらいで、定食屋の味に引けを取らない。それが1000円以下で食べられるのだから、これは「お買い得」と言うしかない。
ただ、生活圏に店舗がない以上、なか卯には年に1回行ければいいほうだ。そうなると、メニューに挑戦することができず、これまでは毎回親子丼しか注文することができなかった。
それが、今では編集部に足を運ぶたびになか卯を食べられるのだ……。しかし、いざ近くにあると思ってしまうと、悲しいかな、それはそれで足が遠のく。「今日は絶対になか卯が食べたいんだ!」という気持ちが最高潮になって、ようやく行く気になるのだ。
そうすると、普段行かない分、貧乏根性と止まらない食欲が、狂ったような組み合わせを生み出してしまう。
◆今宵のディナーも凶悪な組み合わせに
この連載で丼チェーンを扱うのは初めてだが、正直、牛丼屋なら1500円も出せば満足のいく量を確保できる。ご飯やアタマを増やすだけで、十分に満腹感は得られるのだ。
一方、なか卯は牛丼が主役ではない。親子丼、うどん、海鮮丼など、バリエーションが豊富だ。
というわけで、それらを全部頼んでみよう。ご飯大盛りのとろたま親子丼(630円)、大の月見うどん(520円)、まぐろのたたき丼+こだわり卵(890円)で合計2040円。丼2つでも多いのに、3つはさすがに頼みすぎだ。さすがに、知り合いには見られたくないので、人が少ない時間帯にしか行けない。
◆サイドメニューを充実させるのは愚策
子どもの頃、うどん屋で月見うどんと親子丼を一緒に食べようとしたが、小学生の胃袋では無理で、それぞれ半分ずつ食べたあと、親にバトンタッチした悔しい記憶がある。同席していた叔父がドン引きしていた。
今は30代、食欲は抑えきれない。あの頃の自分とは違う。親子丼もうどんも、まぐろのたたき丼も、残さずに全部食べてやる。
つまり、2000円分食べるために、無理しているわけではないということを理解してほしい。
ちなみに、丼もの屋でサイドメニューを充実させるという注文は愚策だ。というのも、それぞれ丼の「頭」になるため、大量の米が必要になる。だったら、最初から丼にしてしまえば米問題は解決だ。国の米はますます減っていく。
◆相当な贅沢感が味わえる「1個100円の卵」
組み合わせで言えば、やはり親子丼は外せない。実は親子丼というのは、シンプルで素朴な味わいゆえに、当たり外れが激しい。店によっては卵に火が通り過ぎていて、硬いこともある。しかし、なか卯のものは出汁の味がしっかり効いていて、卵もとろとろだ。
そして、親子丼に卵黄を乗せるという「エウレカ」はいつから始まったのだろうか? 濃厚さが倍増し、100円追加するだけで相当な贅沢感がある。
そもそも、100円で卵をトッピングするのはコストパフォーマンス的には最悪だ。スーパーなら6個入りで200円程度なのに、外食だと1個で100円もする。「1年で計算すると〜」みたいな発想は嫌いなので深くは考えないが、トッピングするたびに「身分相応な金の使い方」をしている気になる。これを「奢侈(しゃし)」という。
そうした考えから、月見うどんは非常に贅沢な食べ物だと思っている。子どもの頃からその感覚はあったのか、昔からうどんは月見一択。しかも、途中で黄身を潰すのではなく、最後におつゆと一緒に丸呑みするのが至高の食べ方だ。
◆「まぐろのたたき丼」の正解は…
というか、筆者は卵が好物なのだ。親子丼、卵かけご飯、目玉焼き、ゆで卵など、卵でとじたり混ぜたりするものは大抵美味いと思っている。だからこそ、まぐろのたたき丼も卵と一緒に食べるのが正解だと思っている。
コールドチェーンのまぐろには限界がある。それでも美味いが、少しでも疑問を抱かないように、卵でごまかすのが良い。
もちろん、まぐろと生卵の組み合わせ自体が最高だ。次点は山芋のとろろかけ。ということで、親子丼と月見うどんで使わなかった卵白を、まぐろのたたき丼にかけよう。
メレンゲの要領で少量ずつ泡立ててご飯に乗せる。ふわふわのまぐろのたたきに、さらに別の食感が加わり、より重厚な味わいになる。
月見うどんにも卵白は合うが、提供時の温度では卵白は固まらない。それなら全部まぐろにかけて、新感覚のTKGのように楽しむのがベストだと思う。
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大量の炭水化物をかき込み、職場へ戻る。しかし、これだけ食べた後では仕事にならない。そのまま糖質スパイクで眠気に襲われ、会社の仮眠室で横になる。そして、目が覚めた時には終電が終わっている……。
こんな生活が健康的でないことは理解しつつも、また眠りにつくのであった。
【今回の摂取カロリー:2219kcal】
<TEXT/千駄木雄大>
【千駄木雄大】
編集者/ライター。1993年、福岡県生まれ。出版社に勤務する傍ら、「ARBAN」や「ギター・マガジン」(リットーミュージック)などで執筆活動中。著書に『奨学金、借りたら人生こうなった』(扶桑社新書)がある