「Galaxy Z Fold7/Z Flip7」の進化をハードとソフトの両面から考える Googleとの連携強化で他社をリード

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2025年07月12日 16:40  ITmedia Mobile

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米ニューヨークで発表されたGalaxy Zシリーズ3機種。中央がGalaxy Z Fold7で右がGalaxy Z Flip7。左は、廉価版として発表された「Galaxy Z Flip7 FE」で日本での発売は未定

 世代を経て地道な改善を積み重ねてきた「Galaxy Z Fold/Flip」シリーズだが、7月9日(現地時間)に米ニューヨークで発表された「Galaxy Z Fold7/Flip7」は、過去最大級とも言っても過言ではないフルモデルチェンジを果たした。特に、Galaxy Z Fold7は、その根本ともいえるコンセプトの方向をやや変え、“普通に使える大画面スマホ”に脱皮した印象を強く与える。


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 対するGalaxy Z Flip7は、閉じた状態でコンパクトなまま使えるという特徴をさらに強化している。その意味で、両機種は進化の方向性が対照的といえる。それを支えているのが、2024年から搭載を始めたGalaxy AIだ。今回はフォルダブルのホームファクターを生かす形で進化しており、使い勝手を高めている。


 ソフトウェアという観点ではGoogleとの協業もさらに深めており、5月に登場したばかりのAndroid 16をいち早く採用した他、Geminiの新機能にも真っ先に対している。プラットフォーマーであるGoogleとの連携を強化することで、他のAndroidスマホメーカーとの差別化を図る。ここでは、新機種発表イベントから見えてきたサムスンのフォルダブル戦略を解説していきたい。


●方向性が大きく変わったGalaxy Z Fold7、正統進化のGalaxy Z Flip7も登場


 「Galaxy Z Fold7/Flip 7は、われわれのイノベーションの頂点である」――こう語るのは、サムスン電子の社長兼DX部門長代理・MX事業部長の盧泰文(ノ・テムン=TMロー)氏だ。その言葉通り、Galaxy Z Fold7は、これまでとは一線を画す薄さや軽さを打ち出し、Unpacked来場者に衝撃を与えた。折りたたみでありながら、普通のスマホと変わらない持ち運びやすさだったからだ。


 Galaxy Z Fold7の厚さは、閉じたときで8.9mm。重さは215gしかない。別記事でも言及したように、そのサイズ感は同社の最上位モデルである「Galaxy S25 Ultra」とほぼ変わらない。サムスン電子が「Ultra体験」をうたっている理由もここにある。実際に触ってみると、その使い勝手は先代の「Galaxy Z Fold6」までとはまさに別物だ。


 「折りたためるから、多少の厚みには目をつぶる」「閉じたときの画面が狭くてもしょうがない」といったフォルダブルスマホにありがちなトレードオフが一切なく、ポケットに入れやすいのはもちろん、閉じたままでも画面が見やすい。Galaxy S25 Ultraと同じ2億画素センサーを採用したカメラも同様で、「フォルダブルであることが売りだから、カメラが多少劣っても仕方がない」という言い訳を許さない仕上がりになっている。


 盧氏が「妥協が一切ないブレークスルー」と語っていた通り、Galaxy Z Fold7はフォルダブルスマホとして見逃されてきた欠点が大きく改善したといえる。


 ただし、既報の通り、その代償としてSペンやUDC(アンダーディスプレイカメラ)に非対応になってしまった。これは単なる機能の有無ではなく、ペンで広い画面を使って文字や絵を書ける(描ける)これまでのGalaxy Z Foldシリーズとは、開発コンセプトが異なっているような印象も与える。タブレットに近い生産性を高める道具ではなく、スマホとしての使い勝手を突き詰めて薄型化や大画面を図ったのがGalaxy Z Fold7というわけだ。


 薄型化、軽量化のインパクトが絶大だったGalaxy Z Fold7と比べると、やや印象が薄かった感もあるGalaxy Z Flip7だが、こちらも同社が「FlexWindow」と呼ぶカバーディスプレイが大型化しており、閉じたままでもより多くの情報を得られるようになった。全面に映像が広がる見た目はもちろん、使い勝手も向上しているという点では正統進化といえる。


 背景には、フォルダブルスマホで競合が台頭してきたことも影響している。OPPOやHuawei、HONORといった中国メーカーは、横折りのフォルダブルスマホで薄型化を推し進めており、一定の評価を得ている。日本でGalaxy Z Foldシリーズの競合として導入されたGoogleの「Pixel 9 Pro Fold」も、発売時には薄さをアピールしていた。それだけ、横折りのフォルダブルスマホに薄さを求めるニーズは高い。


 一方で、サムスン電子はSペンでの生産性にこだわっていたこともあり、薄型化や軽量化では他社に後れを取っていた。フリップ型も同様で、最大の競合となるモトローラは、外側ディスプレイの大画面化を進めている。これまでのサムスンはどちらかといえばSペンのような別の軸を立て、差別化を図っていたが、Galaxy Z Fold7/Flip7では、競合と真っ向勝負に打って出た格好だ。その意味で、「妥協がない」という盧氏の言葉は、サムスン電子自身にも向けた発言と捉えることができる。


●大画面、フリップに合わせて最適化されるGalaxy AI


 ベクトルは異なっているものの、2機種ともハードウェアは「イノベーションの頂点」とうたうだけの進化を遂げている。このハードウェアを支えているのが、Galaxy AIやGeminiといったスマホ上で動くAIだ。サムスン電子は年内にGalaxy AI対応デバイスを4億に広げていく方針を示しており、Galaxy Z Fold7/Flip 7もその一翼を担う。


 Galaxy AIは、2024年に発売された「Galaxy S24」シリーズで導入され、その年にはフォルダブルスマホのGalaxy Z Fold6や「Galaxy Z Flip6」にも採用された。2025年の「Galaxy S25」シリーズでは、機能性の向上に加えて、ユーザーインタフェースも見直されており、より各アプリからAIを簡単に呼び出せるようになっている。


 場所や時間によって必要な情報を一覧化する「Now Brief」や、進行中の情報をバー形式で表示する「Now Bar」を搭載したのも、Galaxy S25シリーズから。Galaxy Z Fold7/Flip7でもこうした機能を踏襲しつつ、Galaxy AIの機能は25年版にアップデートされている。


 ただし、その実装方法はGalaxy S25シリーズとはやや異なる。特にGalaxy Z Fold7では、ユーザーインタフェースが8型のメインディスプレイに最適化されており、縦長のディスプレイが基本のスマホよりも使い勝手が向上している。例えば、上記のNow Briefは画面いっぱいに必要な情報が配置され、一覧性が大きく高まっている。


 翻訳や要約の結果を画面分割やポップアップさせたウィンドウで表示させる機能も、大画面を生かしたGalaxy AIのUIといえる。生成AIを使い、映り込みを消したり、構図を変えたりした写真は、画面内に編集前、編集後の写真が表示され、仕上がりを1つの画面で確認可能。記憶に頼らず、正確に前後を比較できるようになった。


 一方のGalaxy Z Flip7では、カバーディスプレイを“AIの窓”として活用する使い方を推し進めている。カバーディスプレイだけでNow Brief、Now Barを表示したり、Geminiを起動してそのまま会話したりといったことが可能。立てかけられるフリップ型の形状を生かし、Gemini Liveに自分を写して、コーディネートを提案してもらうといった使い方にも対応している。こうした使い方ができるのは、フォルダブルならではだ。


●Android 16をいち早く搭載して出荷、WatchのGemini対応も 深まるGoogleとの連携


 Galaxy AIはサムスンが独自に実装したAIだが、同社はGeminiを搭載するにあたり、Goolgeとの関係も強化している。例えば、1月に発表されたGalaxy S25シリーズでは、GeminiがAIエージェント的にアプリを操作する機能にいち早く対応した。ここで連携するアプリには、サムスン電子のカレンダーや「Samsung Notes」などが含まれる。


 その後、Geminiのアプリ連携機能はGoogleのPixelを皮切りに、他社の端末にも広がっていったが、1、2カ月はサムスンが他社をリードできた。Galaxy Z Fold7/Flip7では、このアプリ連携をGemini Liveにも拡大。映像や画面を見せながらGemini Liveに話しかけている際に、カレンダーにスケジュールを登録してもらったり、画面に表示されている情報をSamsung Notesにメモとして残してもらったりといった用件を頼めるようになる。


 Googleは、GeminiのWearOS対応を5月に発表していたが、その第1号機となるのも、Unpackedで発表された「Galaxy Watch8」「Galaxy Watch8 Classic」だった。スマホとBluetoothなどでペアリングしているときはもちろん、単体で通信が可能なLTEモデルでは、スマホが近くにないときもGeminiを利用できる。料理中にレシピを聞いたり、スポーツ中に雑談の相手をしてもらったりと、スマートウォッチに対応することで利用シーンが広がる。


 Android 16を搭載した状態で最も早く出荷されるのも、サムスン電子のGalaxy Z Fold7/Flip7だった。例年、Galaxy Zシリーズはその時々の最新OSが搭載されてきたが、最新バージョンのAndroidが秋に登場すると、しばらくはそこに追随できていなかった。例えば、Galaxy Z Fold6は6月にAndroid 15へのアップデートが実施されたばかり。2024年10月にアップデートが始まったPixelシリーズとは、半年以上の開きが出てしまった。


 こうした事情もあり、Googleには一部スマホメーカーからAndroidの最新バージョンを巻き上げる要請があったことが、2月に開催されたMWC Barcelonaで明かされている。Android 16が例年より大幅に早い6月に登場したが、これはその声に応えたためだ。結果として、サムスン電子は出荷時からGalaxy Z Fold7/Flip7にAndroid 16を搭載することができた。Android 16がプリインストールされた状態で発売される端末として、一番乗りを果たせたというわけだ。


 GeminiやAndroidでの連携ぶりを見ると、サムスン電子とGoogleの距離が一段と縮まったように感じられる。サムスンはプラットフォーマーとしてGoogleを、Googleはトップシェアのメーカーとしてサムスンを活用することで、お互いに足りないものを補い合っていることが分かる。ユーザーにとっては、Galaxyでいち早く最新OSに触れられるだけでなく、Galaxy Z Fold7/Flip7に最適化されたソフトウェアやGeminiを利用できるのがメリットになる。


 ハードウェアを刷新し、他社の追撃をかわすサムスン電子だが、さらにソフトウェアやAIでの差別化を図りつつ、プラットフォーマーであるGoogleとの関係をより強固なものにしようとしていることがうかがえた。ハードウェアという箱だけであれば、他社も追随しやすいが、ソフトウェアやGoogleとの関係は一朝一夕には築けない。Unpackedでは、トップシェアの立場を生かした戦略をより徹底していることがうかがえた。



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