こっそり誤情報を引き継ぐ“ステルス復讐”も増えている…近ごろよく耳にする「リベンジ退職」の実態

2

2025年07月12日 21:30  All About

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

All About

「リベンジ退職」という言葉が広まりつつある。会社での不満や負の体験に対する抗議として、従業員がトラブルを起こしながら退職することを指す。昨今のリベンジ退職の傾向を紹介し、そして会社と自分を守るための対策を考える。※画像:PIXTA
近ごろ「リベンジ退職」という言葉をよく聞くようになってきた。リベンジ退職とは、職場での不満や負の体験に対する抗議として、従業員が意図的に会社にダメージを与える形で退職することを指す。

リベンジ退職の代表的な事例は3つに集約される。「退職時に後任者への円滑な引き継ぎを拒否すること」「決算期など、いわゆる会社の繁忙期に合わせてわざと退職すること」、そして「退職前後に、会社批判とも取れる投稿をSNSなどで繰り返すこと」である。

そして、それらは多様化の動きすら見せているという。昨今の実態に迫りつつ、会社と自分を守るための対策を考える。

巧妙な「ステルス・リベンジ」

「リベンジ退職」というくらいだから、退職前後に辞める社員と残る社員(あるいは会社)との間に目に見えた形で激しいトラブルがあることが想像される。しかし近年のリベンジ退職の実態は、むしろ目立ったトラブルを避ける傾向が強まっている。

隠密に、こっそり行う「ステルス・リベンジ」が増えているのだ。日本人に多い「人との対立を避けたい性格」的にも、この方法のほうが適しているのかもしれない。

具体的にどういうことだろうか。例えば、引き継ぎを拒否して波を立てるのではなく、まじめに引き継ぎ準備に取り組んでいる“ふり”をして、実は誤った引き継ぎを行うことなどだ。引き継ぎ時に巧妙に間違った情報を織り込むことが多いという。

しかも、すぐに表面化するような分かりやすいフェイク情報ではなく、一見間違った作業であると分からないように、どちらとも取れるような表現で「不親切に」「不誠実で」「間違いを誘引する」業務指示を肝心な場所に残しておくのだという。業務を詳しく理解している人だからこそできる巧妙な技だと言っていいだろう。ある程度の知性がないとできない行動でもある。

実際引き継ぎを拒否することは、誰の目から見ても退職者が悪く自分勝手な行動に映るものであり、退職者自身に非難の矛先が向かう。しかし、ステルス・リベンジを仕掛けておけば、退職後しばらくしてから後任者が業務で失敗し、その結果会社に損害を与えることができるかもしれない。会社への恨みが深ければ深いほど、そして退職者が有能な実力者であればあるほど、こうした知能犯は増えるのだ。

あえて繫忙期に合わせて退職する

次は「決算期など、いわゆる会社の繁忙期に合わせてわざと退職する」パターン。これは転職者の売り手市場が続いていることが関係しているのだろう。「辞めても次がある」から、復讐の後押しをしてしまっているのかもしれない。

転職社会が定着してから久しいが、繁忙な決算時期や年末商戦などの時期を避け、後任者への十分な引き継ぎ期間を設けるなどして、会社都合のタイミングに配慮して退職する慣行は今でもあるに違いない。

退社後にも良好な人間関係を継続させることを望む人が多いことを考えれば、こうした辞め方は合理的である。ただし、転職先の企業にとっても都合はあるわけで、辞める会社のそれと一致しているとは限らない。

従来、新しく社員を受け入れる会社は、その社員が円満に退社することを優先し、入社時期に融通を利かせることが多かった。しかし、転職市場の盛り上がりから出ていく人は常にいるし、体調不良で職場から一時離脱する社員もいる。

しかも入社して早期に退職する新卒社員も増えてきているとあって、慢性的に戦力ダウンな状態が続いている職場は多い。採用難もあって戦力の追加も容易ではない。

このような状況を踏まえて、少しでも早く人材が欲しい会社は対策を講じるようになってきた。例えば条件面では、入社時期を会社都合として明示するのと同時に、ある時期までに入社できた場合には特別なボーナスを支給すると提示するなど、すぐに辞めて転職先に入社するメリットを強調するようになってきた。

さらに仕事の内容においても、入社直後に参加してほしい国際会議や海外出張などの情報を提供し、新しく入社予定の社員に対して“チャンスを逃すと損をすること”をほのめかすなどして、辞める会社よりも新しく入社する会社の都合を優先させて、自分の未来に向けた選択を重視するように仕向けていくのである。

「立つ鳥跡を濁さず」という日本古来のことわざにある価値観を好む日本人だとしても、新しいスタートを切る会社から明るい未来を提示されたら「後は野となれ山となれ」となり、リベンジ退職をもくろむ人に「後足で砂をかける」合理的な理由を与える状況を生んでいるのではないだろうか。

SNSよりもネガティブな投稿を見かける場所が

最後は「退職前後に、会社批判とも取れる投稿をSNSなどで繰り返すこと」のパターンについて。

一般的とされているのはSNSに会社での不満を暴露するケースだ。上司から受けたパワハラやセクハラ、社内の人間関係、取引先とのよからぬうわさなどを投稿する。実名を出して、会社は社員を特定できることもある。

しかし、「そんなに自分の会社が批判されている投稿って見たことないな」と感じた人も少なくないのではないか。そう思うのも無理はない。なぜなら、SNSでは投稿した本人が特定されるリスクもあるからだ。そもそも純粋に1つのコミュニケーションツールとして楽しく利用しているため、リベンジ退職のために使いたくないからという理由もあるだろう。

実はSNSよりもネガティブな投稿を見かける場所がある。それは転職サイトの口コミだ。

一見評判のいい会社のように見えるが

世の中には大手から小中規模のものまで含めれば、多数の転職サイトが全国に存在している。業界別、職種別、地域別などに分類できることもある。また、そうした転職サイトに掲載されている求人企業情報は大手企業だけでなく、そのグループ企業や小中・零細企業に至るまで無数にある。

そして求人企業の社員、もしくは元社員が匿名で会社の評判を書き込むことができるという特徴もある。実際、転職活動中の時、こうした口コミを参考にする人は多い。

リベンジ退職のうち、最も気軽に、そして執拗(しつよう)に、長期にわたって効果的にリベンジできてしまう方法が、意図的に転職サイトに対して悪評価を積み重ねていく方法である。明らかな会社批判、一方的な悪口などは目立ち、むしろそこには悪意があることが明白であるため、リベンジ効果は低い。

一方、さまざまなトピックを選びながら、それを波状的に広げていって企業の評判を貶めるような書き込みは転職サイト上に散乱している。一見、優良企業として評判のいい書き込みが並ぶ中で、巧妙に隠された目を覆いたくなるようなネガティブ情報を目撃することもある。

例えば、以下のような企業への評価の書き込みは、リベンジ効果の高いネガティブキャンペーンの一例だ。

「世間から注目を集める商品とサービスを持ち、会社は急成長しているが、2代目のオーナー社長が連れてくる中途採用の社員が特別に重用されているため、多くの社員にとって不平等な仕事環境がある」

「会社として残業時間短縮に向けて社員の早期帰宅を奨励する動きがあるが、職場は常にスタッフ減の状態が続いており、社員の多くが日々家に仕事を持ち帰るほどの激務が続いている」

「会社はホワイトイメージを維持することに躍起になっており、一部社員向けの待遇や職場環境の改善は実現しているが、自分が所属する部門は会社にあまり収益をもたらしていない部署であるため、全社的に宣伝しているような改善とは無縁。社内で格差がある状況を見れば、配属の運次第で自分の運命が決まることが否めない」

こうした書き込みは、必ずしも会社への誹謗中傷というほどの激しい批判ではなく、むしろ冷静に起きている状況を具体的に分析して、現状への懸念や問題が解決できていない会社の惨状を効果的に伝えている。冷静に実態を報告し(上手に誇張や偏重を盛り込む場合が多い)、不平等や不公平の存在をにおわせるのは、なかなか高等なテクニックである。

どれもが肝心な部分で具体的な記述を含み、読者への説得力が高い。抽象的な誹謗中傷ならば、一方的なコメントであると無視することもできるが、具体的な記述があると、それは一定の程度で心に刺さるメッセージとなる。

特に、その会社で働いていた社員がリベンジ退職を胸に秘めながら書いたコメントには、社員しか知らない情報も巧みに含めることもできるため、その信ぴょう性は増してしまう。リベンジ退職は多様化しているが、このパターンは影響範囲が大きく、長期にわたることなどから、会社としては効果的な対策を取ることが難しい。

もしも転職を考えている人が前述したような一連の具体的かつ心に刺さるネガティブな書き込みを見つけてしまったら、入社判断への影響は少なくないだろう。悲しいかな、こうしてリベンジ退職は成功してしまう。

まさに今こそ知恵を絞る時

会社にとって、社員によるリベンジ退職を減らす方法を真剣に考えるべき時が来ている。社員が退職時に出口調査をして退職理由をヒアリングしている会社は多いが、そもそもリベンジ目的の社員は正直に話すだろうか。わざわざ証拠を残して退職することはしないはずだ。

リベンジする決意が強ければ強いほど、社員から直接ヒアリングすることは難しい。ではどうしたらいいのか。

社員に優しい会社、快適な職場環境作り、自由闊達な社風、出戻り社員を歓迎するなど、社員の流動化を促進し、社員向けのウェルフェアを充実させることが大事であることは言うまでもない。

しかし多くの社員はそれで報われるだろうが、物事にはさまざまな例外や特例が生じることがある。日本社会は一般的にそうしたマイノリティー(広い意味での少数派)の取り扱い方が上手ではないことが多いから注意が必要だ。社内制度も、特別な状況を想定していないことが多い。また、まじめな性格の人、責任を取りたくない人は例外を作りたがらない。

注意すべき点は、少数派に対して杓子定規な対応をしないようにすることだ。仮にルールを逸脱することがあっても、制度運用には一定の柔軟性を残すこと、現場判断の余地を残すことが必要である。

ほとんど起きることのない極端な例を挙げて、例外を作りたくない、ルールを維持したい、責任を取りたくないという心理が働く人がいるが、そこは組織のしかるべき地位にいる人が英断をし、状況を改善できるような風通しのいい組織を作る必要もある。

そのためにも、社員に寄り添ったサポートができるベテランの専門職を置くことも検討するといいだろう。社員間のコミュニケーションを活発化させていくさまざまな仕掛けを設けていくことも効果がある。

近年世の中には「リベンジ〇〇」という言葉が増えているが、そうした傾向にストップをかけるためにも、私たちはもっと柔軟で、人に寄り添った仕組みを再構築していかなければならないだろう。まさに今こそ知恵を絞る時である。
(文:小松 俊明(転職のノウハウ・外資転職ガイド))

このニュースに関するつぶやき

  • 3回転職を経験したが自己都合は最初だけだった。今で言う自覚の無いパワハラ上司、嫌味な先輩、そんな彼等に感化して僕を見下してくる後輩達。引継ぎもせず、いきなり辞めてやった。
    • イイネ!0
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(1件)

前日のランキングへ

ニュース設定