病気や怪我の苦しみは当事者にしかわからない。ただ、当事者がその時に直面した感情や体験をまとめたエッセイ漫画を読むと、少しだけその苦しみがわかり、自分事として考えられるようになる。
参考:【エッセイ漫画】『16歳でうつ病になって青春どころじゃなかった話』を読む
Xに7月1日に投稿された『16歳でうつ病になって青春どころじゃなかった話』では、作者のきさらぎさん(@kisaragi_yome)が20年前にうつになった時の記録が生々しくもユーモラスに描かれたエッセイ漫画だ。何度も涙を流しながら描いたという本作を制作するうえで意識したことなど、きさらぎさんに話を聞いた。(望月悠木)
■描くのが特にしんどかったシーンは
――『16歳でうつ病になって青春どころじゃなかった話』制作の背景を教えてください。
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きさらぎ:うつについて知ってほしく、また「うつで大変だったけど、なんとかなったよ」ということを伝えたくて描きました。実は昨年描いたものを再編集したものを7月1日にXに投稿しています。最初の投稿は昨年の9月5日で、9月10日の世界自殺予防デーに合わせて制作しました。
――症状や薬の副作用などは過去の記憶をたどりながら描いたのですか?
きさらぎ:はい。最初は「ちゃんと覚えているかな?描けるかな?」と不安でしたが、下書きを始めると、芋づる式につぎつぎと記憶が蘇っていきました。
――過去を思い出しながら描くのは精神的にかなりしんどそうですが。
きさらぎ:辛かった時期を思い出しながら描いたので、やはり体調は悪くなりました。最後まで描ききれるか心配でした。ただ、18歳の時に「これは絶対、将来漫画にしてやる」と決めていたこともあり、最後はもう気合いで描き切りました。制作中は、出席日数が足りなくて高校を卒業できない夢を何度も見ました。
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――特に描くのがしんどかったシーンは?
きさらぎ:精神科の先生とのやりとりのシーンは、嗚咽しながら描きました。「もう昔のことだし、大丈夫だろう」と思っていたのに、気づいたらぼたぼた泣いていました。
――ちなみに、作中に描きたかったけど描けなかったエピソードなどはありましたか?
きさらぎ:うつになるまでの過程として、「中学生編をはじめに描こう」と思っていました。ただ、なんかもう暗すぎて、読者が面白く読めないと判断して省きました。面白く描けそうなタイミングが来れば今後描きたいです。
■うつに対する認識の変化
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――ハリーポッターネタなどの笑えるポイントも多く、気軽にうつを考えてもらえるようなポップさがありましたね。
きさらぎ:なるべくたくさんの人にうつのことを知ってほしかったので、「楽しい!読みやすい!うつ漫画」を目指しました。フォントを大きくしたり、描き込みすぎないように意識しています。
――一時期見かけた「うつは甘え」という風潮も最近では落ち着きましたが、きさらぎさんの肌感覚では世間から見たうつの印象はどのように変化していると思いますか?
きさらぎ:今は20年前と比べると、うつへの理解は広まっていると思います。共感して、寄り添ってくれる人も増えました。ただ、言い換えれば「それだけたくさんの人がうつに関わる機会が増えているのでは?」と心配になる時もあります。また、20年前と変わらず、根性論的なアドバイスをする人もいます。とはいえ、実際に経験してみないとわからないことも多いので、仕方がないのかもしれませんが……。
――今後はどういった漫画制作を展開していく予定ですか?
きさらぎ:これからもSNSで、みなさんがクスッと笑えるような、明るく楽しい漫画をお届けしたいです。また、野心は漫画の書籍化です。娘に「ママの職業は漫画家さんだよ」と胸を張って言うことが夢です。
(文・取材=望月悠木)
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