NECが説く「AIエージェントが特に役立つ“2つの領域”」とは

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2025年07月14日 18:21  ITmediaエンタープライズ

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NECの山田昭雄氏(Corporate SVP 兼 AIテクノロジーサービス事業部門長 兼 AI Technology Officer)(筆者撮影)

 「AIはあくまでもDX(デジタルトランスフォーメーション)のためのテクノロジーでありソリューションだ。われわれはお客さまのDXの取り組みの中でAIが特に役立つ領域に的確なソリューションを提供したい」


NECが説く「AIエージェントが特に役立つ“2つの領域”」とは


 NECのAI事業責任者である山田昭雄氏(Corporate SVP 兼 AIテクノロジーサービス事業部門長 兼 AI Technology Officer)は、同社が2025年7月8日に開いたAI事業の進捗(しんちょく)に関する記者説明会でこう切り出した。


●「高度な専門業務」でAIエージェントをどう使う?


 DXにおいてAIが特に役立つ領域とはどこか。


 同氏はAIエージェントの活用にフォーカスして、「高度な専門業務の自動化」と「安全・安心なAI活用環境」の2つの領域を挙げ、それぞれにユースケースを交えた同社の取り組みを説明した。


 まず、高度な専門業務の自動化では、業務および業種特化の各種エージェントを顧客企業の課題解決に向けた「BluStellar Scenario」(ブルーステラ・シナリオ)として提供し、顧客企業における専門業務の自動化の推進に努めている(図1)。


 図1に示したように、企業の一連の業務プロセスに対し、汎用(はんよう)的な業務の強化および業種に特化したエージェントを順次提供しており、2025年度中に取りそろえる計画だ。


 例えば、「マーケティング施策立案」では、NEC独自のAI技術を活用した「BestMove」(ベストムーブ)と呼ぶブランドのエージェントを提供し、マーケティング施策立案プロセスの変革を支援している(図2)。


 山田氏はこのソリューションについて、「マーケティングは業種を問わず必要不可欠な業務だが、優秀なマーケターによる職人技といったところがある。そこで、図2の取り組みにあるような一連の業務プロセスにおいて、そうした職人技に頼ることなく全てを処理できるエージェントを用意した」と説明した。


 すなわちマーケターの仕事を代替するということか。これについて同氏は、「このソリューションはマーケターの仕事を単に代替するのではなく、これまでマーケターが1人で担ってきた施策立案を、AIエージェントが伴走することで複数人のマーケターでアイデア出しするような多様性のある施策立案ができるようになるというのが、大きなポイントだ」と述べた。


 クリエイティビティが求められる局面では、AIエージェントを「多様性のある視点」として捉えるのもありだと感じた。


 「セキュア開発・セキュリティ経営・セキュリティ運用」の例では、生成AIやAIエージェントを活用したセキュリティサービスを提供し、顧客企業のセキュリティ業務全体の高度化・効率化を支援している(図3)。


 開発に向けてはさまざまな規制やガイドラインへの対応、経営に向けては事業へのリスクの最小化、運用に向けてはさまざまなインシデントへの対応の自動化を、AIエージェントが伴走しながら支援するといった形だ。


 山田氏はこれまで説明してきた高度な専門業務の自動化を支えるテクノロジーとして、同社開発の生成AI「cotomi」(コトミ)の強化やエージェントプロトコルへの対応により、AIエージェントの活用を加速し、業務のさらなる高度化を図れるとも説明した。この動きは会見同日に発表したもので、詳細な内容については発表資料をご覧いただきたい。(図4)


●「安全・安心なAI活用環境」へのAIエージェント適用


 次に安全・安心なAI活用環境について、山田氏は「専門業務へのAI活用は、AIの世代に応じてリスクのレベルが変わる。高いレベルのリスク管理、すなわちAIガバナンスがますます重要になる」として、図5を示した。


 同氏によると、AIは、認証技術に代表される「コグニティブAI」、学習した内容から自らの見解を示す「ジェネレーティブAI」、そして今、第三世代として自律的に業務を推進する「エージェンティックAI」の時代を迎えている。


 これらをセキュリティリスクの観点から見ると、コグニティブAIは個別の装置に組み込まれることが多いのでリスクは比較的小さい。ジェネレーティブAIになると大規模なデータリソースが必要なことからクラウドを利用するので情報流出のリスクは相応に高まる。それがエージェンティックAIになると、エージェントにさまざまなリソースがつながるようになり、さらにはエージェント自体が乗っ取られると、影響の範囲は非常に大きなものになる可能性がある。


 同氏はこうした取り組みを「AIガバナンス」と定義付けている。AIガバナンスについては、AIを運用する際の統制管理だけを指す場合もあるが、同氏が言うようにセキュリティをはじめ、プライバシーやコンプライアンスまでも含めてAIガバナンスとして取り組んでいった方がいいのではないかと筆者も考える。


 では、そのAIガバナンスにおいて具体的に何ができるようになるのか。山田氏は「AIガバナンスには、セーフティとセキュリティの両面で包括的な取り組みが求められる」として、図6を示した。


 同氏によると、セキュリティは「サイバー攻撃をはじめとした悪い行為からAIを守ること」、セーフティは「悪い行為に対してではなく、ユーザーが意図した通りにAIが動作して人や環境への危害を防ぐこと」との意味だ。それぞれに図6にあるような取り組みが行われることになる。


 NECでは安全・安心なAI活用環境を提供するため、早い段階からAIガバナンスに注力している。そのソリューションとして、セーフティ領域では「LLM(大規模言語モデル)の信頼性を向上するハルシネーション(幻覚)対策機能」を提供。セキュリティ領域ではデータセキュリティレベルに応じたLLM環境を柔軟に提供している(図7)。


 また、Cisco Systemsとの協業により、AIガバナンスの取り組みをさらに強化する。NECはAIガバナンスの戦略策定から定着化までのコンサルティングメニューを取りそろえ、2025年秋から提供する構えだ(図8)。


 山田氏は説明の最後に、先述したBluStellar Scenarioについて、「さらに拡充を図り、安全で安心なAI活用環境でプロセスの変革からビジネスの変革を支援したい」とも述べた(図9)。


 なお、BluStellar Scenarioについては、2024年7月29日掲載の本連載記事「NECの戦略から考察 DXを成功に導く『シナリオ作り』の勘所は?」で詳しく解説しているので参照していただきたい。


●なぜコンサルティングではなく「シナリオ」なのか?


 このBluStellar Scenarioは、NECと同様にDX支援事業を展開している競合他社にとってはコンサルティングに相当する。NECはなぜコンサルティングといわずに「シナリオ」と表現しているのか。今回の会見の質疑応答でそう聞いたところ、山田氏は次のように答えた。


 「コンサルティングはお客さまの課題の解決策をゼロから考えるのに対し、シナリオは解決策のパターンをあらかじめ用意しておいて、その中からお客さまに適用できそうなパターンをベースに要望に応えるものだ。その意味では、シナリオは事前に解決策のパターンを用意した形でのコンサルティングともいえる」


 同氏は内容の違いについて説明したが、それによってシナリオの方がスピーディーでハイコストパフォーマンスの解決策を得られる可能性が高いというのが、ユーザーメリットなのだろう。


 さしずめコンサルティングは「オーダーメイド」、シナリオは「イージーオーダー」といったところか。選ぶのはあくまでもユーザーだ。


 ただ、最後に一言述べておくと、ユーザーから見れば、コンサルティングは「受けるもの」、シナリオは「作る(創る)もの」だ。DXはビジネス変革なので取り組む企業が自ら推進すべきだということを本連載でもこれまで幾度も訴求してきたが、それからするとAI活用も自ら取り組む姿勢で臨んでもらいたいものだ。それでこそ、NECのような有力ベンダーとも質の高い「共創」ができるようになるだろう。


○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功


フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。



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