【Jリーグ連載】東京ヴェルディの育成において「虎の巻があるとすれば、それはこのグラウンド」

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2025年07月15日 07:30  webスポルティーバ

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東京ヴェルディ・アカデミーの実態
〜プロで戦える選手が育つわけ(連載◆第6回)

Jリーグ発足以前から、プロで活躍する選手たちを次々に輩出してきた東京ヴェルディの育成組織。この連載では、その育成の秘密に迫っていく――。

第5回◆東京ヴェルディ・アカデミーの強み>>

 東京ヴェルディは、サッカーの面白さを知れる場所――。

 東京ヴェルディユースの監督を務める小笠原資暁には、それを実感させられた記憶がある。ヴェルディのアカデミーで育ち、現在は日本代表にも選出されている、藤田譲瑠チマ(ザンクトパウリ/ドイツ)にまつわる話だ。

 小笠原が先日、ふとスマートフォンに収められた写真を見返していたとき、そのなかの1枚に目が留まった。

「譲瑠と、今は愛媛FCでやっている石浦大雅と、あともうひとり、足の病気でサッカーができなくなっちゃった選手がいたんですけど、その3人が写っている写真があったんです」

 小笠原は自分が撮ったにもかかわらず、これが何の写真なのか、すぐには思い出せなかった。

 だが、あれこれと記憶をたどっていくうち、「国体(を目指す東京都選抜チーム)の練習試合か、何かのあとのこと」だと思い当たった。

「僕もその(国体のチームで)コーチをやっていたんですけど、アウェーで練習試合をしたのに、僕が対戦相手のスタッフとご飯を食べて帰ってきたら、彼ら3人がまたここ(ヴェルディのグラウンド)でサッカーをしていたんです」

 そのときのことは、当の藤田もはっきりと記憶している。

「(国体のチームで)試合にも出られていなかったので、蹴りたいなって。(試合に出られなかった)フラストレーションというより、サッカーが好きなので、もっとうまくなりたいという気持ちでした」

 藤田のような強い気持ちは、プロを目指すほどの選手なら、そもそも持ち合わせているべきものなのかもしれない。

 だが、小笠原の言葉を借りれば、「それを加速させるものが、たぶんここにあるんじゃないかなっていう気はします」。

「だから、ここのスタッフだけが急に他のクラブに行ったとして、そこがヴェルディみたいになるかって言ったら、きっとならない。これを新しく作るのは、ほぼ無理に近いんじゃないかな、と。ここには、もう"地(じ)がある"っていう気はします」

 荒地を開墾したばかりの土地と、長年にわたって水や肥料を与え続けた土地。一見しただけなら同じ土かもしれないが、作物の育ち方が違えば、出来栄えも違う。ヴェルディの練習グラウンドは、いわば"肥沃な大地"というわけだ。

 ヘッドオブコーチングを務める中村忠もまた、ヴェルディのアカデミーに「"虎の巻"があるとすれば、それはたぶん、このグラウンドなんですよ」と表現する。

「それ(ヴェルディの育成方法)は、僕らも可視化できるものではないし、メソッドはあるんですけど、別にそれは昔からあったものではない。そうなると、(育成の秘訣は)すべてのカテゴリーが常に共有してきたこのグラウンドにあるのかなって思います」

 実際、小笠原はヴェルディでの指導歴がすでに19年目になるが、クラブの指導方針に沿ったマニュアルや練習メニューの類を目にしたことは、ほとんどないという。

「そこが、ヴェルディのすごいところだと思うんです。今も、本当にざっくりしたものはありますけど、もうほとんどコーチに委ねられている状態です。それでも、みんなのアプローチは違うにせよ、不思議と同じようなところに行きつくっていう(笑)。

 その文化が根づいているからか、その血が脈々と受け継がれていく。結局、みんなヴェルディの根幹となっているものが好きなんだと思います。だから、それに触れると、みんなそういうふうになりたいとか、子どもたちにそういう選手になってもらいたいとかって思うから、みんな似てくるじゃないのかな」

 何より小笠原自身が、その"洗礼"を受けたひとりなのだ。

「自分はここに入って、サッカーのなかで10 あるうちの2ぐらいしか知らなかったなって気づかされました」

 小笠原が笑顔で続ける。

「アカデミーの選手を見ていても、『うわっ、そこでそんなプレーできるんだ!』とか、『自分には、そんなアイデアはなかったな』と思いますし、それは他のコーチたちと一緒にボール回しをしていても思います。だから、ここで指導方法を学んだ記憶は、ほとんどないんです。

 それよりも、ここでサッカーをする人たちに触れることで、サッカーの深みとか、幅とか、そういうものを学んでいった気がします。あのプレーができるようになるにはどうしたらいいのかとか、どういうトレーニングしたらいいのかとか、そういうことを考える毎日でした」

(文中敬称略/つづく)

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