5000万円で台湾人インフルエンサーを買収!? 中国共産党による「認知戦」の実態

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2025年07月16日 07:50  週プレNEWS

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■接続を禁止されているYouTubeで堂々とライブ配信

6月、中国の空母「遼寧」と「山東」が相次いで日本の排他的経済水域(EEZ)内を航行し、太平洋で活動したことが初めて確認された。さらには、空母に搭載された戦闘機が自衛隊機に異常接近。専門家の間では、一連の行動は台湾有事を意識した動きとの見方が強い。

【写真】話題になった反共インフルエンサー

緊張が高まるなか、台湾では人気ユーチューバーが訪中し、物議を醸している。その名前は「館長」で、両腕にはびっしりと刺青が入ったいかつい男性だ。ジムを経営する事業家でもあり、YouTubeチャンネル「館長惡名昭彰」の登録者数は114万を超える。

その館長が6月10日から15日にかけて、上海と杭州を訪問し、外灘(バンド)や豫園などの観光地を巡った。上海浦東国際空港での入国直後からカメラを回し、連日10時間以上にわたってライブ配信を実施。視聴者数は一時40万を超え、アーカイブの視聴回数は、多くが200万回を超えている。コメント欄には「大陸(中国)の友人と館長との交流に涙が出てくる」「館長のライブ配信を通じて大陸を見て、感動した」など、館長を称賛する書き込みが寄せられている。

上海の街並みを見た館長は「ここのインフラは、あらゆる面で国際水準に達している」「大陸の最も美しい風景は人」などとベタ褒め。しかし、こうした館長の言動には、批判の声も少なくない。例えば、天安門事件の学生リーダーだった王丹氏は公式Xで「中国で政治問題について真実を語る勇気のある人はどれほどいるだろうか? 高層ビルは決して本当の中国ではない。このような限定的な交流は洗脳に過ぎない」と痛烈に批判した。

館長のこうした言動には、中国からの報酬を目当てにしたステマ疑惑もついてまわる。彼自身は「和平大使」を自称し、真っ向から疑惑を否定している。しかし、中国で接続が禁止されているYouTubeでの現地からのライブ配信がなぜ許されたのか、腑に落ちない点は少なくない。

■インフルエンサーに触手を伸ばす中国共産党

中国は近年、情報を操作して行動様式を変える「認知戦」を活発化させている。

台湾では、2024年年末にYouTubeチャンネル「攝徒日記Fun TV」が配信したドキュメンタリー動画「中国統戦記録片」が話題になった。前後編合わせて、539万回以上も再生された。同チャンネルを運営するのは反共インフルエンサー「八炯」。この動画では、中国で売れっ子になったのちに反共に転向した台湾人ラッパー「閩南狼PYC」こと陳柏源氏が出演し、中国と台湾との統一を画策する「統戦(統一戦線工作)」の実態を伝えている。


陳氏が中国で発表した楽曲『中国老総(チャイナ・ボス)』は、再生回数が10億回を超える大ヒットを記録したものの、その収益を手にすることはできず、それどころか彼の設立した会社が信頼していた中国人に乗っ取られてしまった。彼はそれをネットで暴露したが、逆に「台湾独立派」と中傷され、ネット民に叩かれた。中国では契約書がなんの役にも立たないことを思い知った陳氏は、台湾と中国には民主主義と専制主義の違いがあると気づき、転向を決断したのだと八炯に打ち明けた。

インタビュー中に陳氏は、共産党系メディア『海峽導報』の社長とのチャットのやり取りを紹介。台湾を攻撃する歌や民進党を批判する歌を作ってほしいという依頼があり、たくさんの曲を書いたと明かす。

さらに動画では、まだ陳氏の転向を知らない、武夷山統戦部の担当者に電話をかけ、共産党がインフルエンサーを求める実態を聞き出した。陳氏が、中国に興味のある知り合いを連れて行きたいと持ちかけると、担当者は、近々お茶の展示会があるので、そこで陳氏に歌ってほしいと依頼。ある程度の数のフォロワーがついているインフルエンサーであれば、航空チケット代や滞在費を支払うと約束し、10名ほどのインフルエンサーを連れてくるよう求めた。そして、彼らがイベントの様子などをSNSに投稿するよう念を押した。こうした工作は、各地の統戦部が行っているという。

くだんの館長クラスのインフルエンサーであれば、スタッフも含めた一団すべての渡航費用を統戦部が出してもおかしくないだろう。ただし館長の場合、受け取ったのは渡航費用どころではないかもしれない。

台湾のネットでは、彼の2019年の発言が掘り起こされ、波紋を広げている。館長は配信番組で民進党立法委員の沈伯洋氏に対し、中国から買収をもちかけられていることを暴露。契約金は500万台湾ドル(約2500万円)から1000万台湾ドル(約5000万円)、さらに毎月150万台湾ドル(約750万円)の謝礼を提示されたという。その見返りとして特別な任務があるわけではなく、中国を批判する回数を段階的に減らすよう求められたという。当時、館長はその提示を断ったと答えているが、中国を批判するどころか、褒めまくりの現状を踏まえれば、彼は考えを改めたのかもしれない。

館長は、今回の訪中に政治的な意図はないと主張している。しかし彼は、台湾人が中国に抱くネガティブなイメージは「民進党の完全なデマ」と痛烈に批判。また、帰国の際の囲み取材では、「今回の訪中の大きな目的は『大罷免』を阻止すること」と主張した。

台湾の立法院(国会に相当)は野党が過半数の議席を占める。野党勢力から議会の主導権を奪い返すため、与党・民進党は立法委員や地方議会議員らに対し、過去最大規模の罷免(リコール)運動を展開している。館長はそれを阻止しようというからには、明らかに政治的意図がある。この発言に対して民進党台北市議員の許淑華氏は会見で、「中国共産党が彼に新たな任務を与えたのではないか」と推測している。

奇しくも館長の訪中した同じ時期には、最大野党・国民党の馬英九元総統も中国を訪れた。共産党と交流を深め、民進党に圧力をかけている。このふたりの訪中は、偶然の一致なのだろうか。台湾世論の分断ぶりを見ると、共産党が仕掛けた「認知戦」としか思えない。

文/大橋史彦 写真/YouTubeチャンネル「攝徒日記Fun TV」、YouTubeチャンネル「館長惡名昭彰」

このニュースに関するつぶやき

  • 共産中国は前回の台湾総統選挙で資金をケチってものの見事に失敗したからなあ。かといって資金を注ぎ込めば成功するとは限らんし週プレごときに意図を暴露されるようでは謀略とも言えない幼稚さだと思うが。
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