参院選の公示日前日に実施された党首討論会で「日本人ファースト」を掲げる参政党の神谷宗幣代表。東京都議選同様、受け皿として躍進するのか……運命の日は近い 写真/産経新聞社―[言論ストロングスタイル]―
2025年夏の参院選も佳境を迎え、自公の過半数割れ予測も飛び交う。そうしたなか、急激に勢いを増しているのが第三の勢力。特に、台風の目になっているのが参政党だ。選挙初日に街頭演説で「高齢の女性は子どもが産めない」発言で炎上するも意に介さず、「日本人ファースト」を訴えて外国人問題を参院選の争点にするなど話題を集め、その勢いは止まらない。なぜ参政党が躍進しているのか。憲政史研究家の倉山満氏が解説する。(以下、倉山満氏による寄稿)。
◆とある国家社会主義政党の特徴を九つ
ある国家社会主義政党の特徴を九つ並べる。
一、社会主義とは、資本主義と共産主義の中間のことで、明確な定義をしない。
二、やたらと愛国心を絶叫する。
三、排外主義を煽る。そのすべてが嘘ではないが、一部陰謀論。
四、二と三によって、極右や保守に見えるが、実は保守どころか極右とも親和性が無い。
五、経済政策はバラまき。国民の熱狂的な支持が得られるなら、なんでもいい。ポピュリズムに見える。
六、健康と環境にやさしい政策。そこに、スピリチュアルが入る。
七、政権が熱狂的な支持を得られたら、自由を制限し始める。
八、権力を握れば、政府による規制と統制経済に移行する。
九、実は偽装保守の左翼が右翼の皮をかぶっていただけ。
このごろ流行りの、参政党と間違えられたか? 実はナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)の特徴である。
◆参政党の実態は、トホホな存在
当時「ゲルマン人ファースト!」という言葉は無かったが、同じようなことを絶叫していた。参政党、支持率を劇的に伸ばして話題だが、SNSではさっそく「ナチスみたいなものか」と懸念も。ただし、参政党はナチスとは違う。実態は、言ってしまえば、トホホな存在。
おそらく、参政党のブレーンはナチスを参考にしているのではないかと思えるほど、マーケティングの手法が似ている。
不況と軟弱外交に不満な人々に、排外主義的言説を訴え、バラまきを公約する。ナチスは、世界大恐慌期にユダヤ人排斥で支持を得た。参政党も同じ。
ただ本音は、経済を市場(民間・私人)に任せず、政府が指導しようとするのが特徴である。ナチスは権力を握ると統制経済に移行した。参政党の経済政策はMMT(現代貨幣理論)だそうだが、その中核はJGP(就業保証計画)である。不況になると政府が全国民に対し、その人にふさわしい職業を保証してくれるそうだ。可能なのか? そもそも余計なお世話だ。
ナチス台頭期のドイツ政界は、今の日本の比でなく、腐敗と無能を極めていた。なお、ドイツの政財界はヒトラーを取り込もうとしたが失敗、逆に支配された。
◆「いいこと“も”言っている」人がいい人とは限らない
ところで、「ナチスのやった三つの良いこと」をご存じだろうか。高速道路のアウトバーン、国民車のフォルクスワーゲン、そして動物愛護である。動物愛護は環境政策の一環として行われた。
ちなみにヒトラーは飼っていた小鳥が死んだ時、三日三晩泣きじゃくったとか。その優しさのカケラでもユダヤ人や「生きるに値しない命」として命を奪われた人に向けていれば、悲劇は無かったかもしれない、と言うのも空しい。
「生きるに値しない命」と殺された人々の中には外国人だけでなく、身体障碍者や同性愛者など、ドイツ人も含まれた。それでいてナチスは同性愛者の巣窟だったのだから、二重基準では済まない。小鳥の為に泣ける優しい人間が、同じ人間を平気で殺戮できる。「あの人は、いい人だ」「あの人は、いいことを言っている」と信じ込む恐ろしさ。「いいこと“も”言っている」人がいい人とは限らない。
◆参政党はトホホで悪ければ、ヘナヘナ
ついでに言うと、ナチスは異様なまでに健康に力を入れた。それ自体が悪い訳ではないが、その根拠がゲルマン人は世界で最も秀でた民族であるとする優生思想にある。
ナチスになぞらえる訳ではないが、参政党にも健康志向は無きにしも非ず。しかし、そういう傾向があるだけで、トホホな存在。トホホで悪ければ、ヘナヘナ。
最近は週刊誌でも参政党の「独裁者」とも評される、神谷宗幣(そうへい)代表。この参議院選挙で「高齢女性は子供を産めない」と開口一番。よりによって公示初日に。本人は「悪意ある報道がなされている」と憤るが、政治家には「その言葉自体を吐いてはいけない言葉」がある。中身云々の前に。それでも「切り取りだ」と党員や支持者が騒ぐから、カルトと呼ばれる。常識で判断しようとしない。
◆オカルト発言を「その話題は古い」と切り捨てるが……
カルトと言えば、3年前の参議院選挙では「メロンパンを食べたら死ぬ」などのオカルト発言を繰り返していた。同党の吉川りな衆議院議員は「その話題は古い」と切り捨てるが、そういう問題か。もう党にいない人物の発言と片付けているようだが、発言者はその時点で共同代表なのだが。
ちなみにSNSで検索すると、「参政党のデマ・奇行一覧」というまとめサイトができている。健康志向のスピリチュアルと言えば、一袋30万円の「波動米」などが売られている、などなどキリがない。
このサイトに無い例をあげるが、松田学前代表は、「(コロナ)ワクチンは殺人兵器」「発達障害は医療利権」と言い切った過去があるが、まさか無かったことにするのだろうか。松田議員は現在も比例代表の候補。言論の自由は誰にでもあるが、その権利を行使したら、如何なる者も反論されない特権はない。
国民民主党は一候補が、ワクチンに関し過去に誤った発言をしたとして謝罪に追い込まれた。参政党は、ワクチン妄信派に懐疑的な私すら、ドン引きする言動で支持を伸ばしてきた。この、何事も無かったかのようにする態度が、「トホホ」「ヘナヘナ」なのである。
◆「3年前はちょっと言い過ぎた」で済ますのは信者だけ
最近は神谷代表、「3年前はちょっと言い過ぎた」と修正気味だが、これを「ちょっと」で済ますのは、信者だけだろう。
常識で考えられない勢いの根底に、常識はずれがある。
ただ、参政党が躍進するのは、他の政党がだらしがないからだ。自民に呆れているが、立憲に票を入れる訳にはいかない。その受け皿のはずの維新・国民が見捨てられ、参政党が風に乗っている。
果たして、この四党はどれほど国民の信頼を得る努力をしてきたか。あるいは裏切る言動がなかったか。
今回の参議院選挙は、日本の運命を決める選挙だ。
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【倉山 満】
憲政史研究家 1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『噓だらけの日本中世史』(扶桑社新書)が発売後即重版に