
老舗の寄席、新宿末廣亭。新宿の一等地に木造の建物。寄席文字の看板がずらっと並び、他のビルと一線を画している。ここ末廣亭で、令和7年6月下席【夜の部】私、蝶花楼桃花が主任を勤めさせていただいた。真打になってから末廣亭では、初めての主任興行。どの寄席で主任を勤めるのも大変にありがたいが、末廣亭には格別の想いがあった。私が二十歳の時、寄席に初めて来たのが末廣亭だったのだ。そこで衝撃的に感動をして、落語沼にズブズブと沈んでいきいまの私になったからだ。懐かしいなぁ・・・。
突然ですが、ちょっとタイムマシンに乗って、皆さまと一緒にその頃に戻ってみましょう。
あ! 二十歳の桃花が末廣亭に入りキョロキョロしてます。いまの私がインタビューしてみたいと思います。
ーキョロキョロされていますが、寄席は初めてですか?
はい・・・。初めてですが、エンタメの空気が全くなくて、なんだか祖父母の家に来たみたいな落ち着く不思議な雰囲気です。寝ている人もいるし、食事処(どころ)ですかってくらいお弁当真剣に食べている人もいますね。
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そう言いながら、ちょっと控えめに後ろの方に座る、二十歳桃花。
ープログラム読み込んでますが、どうされましたか?
あの・・・プログラムに載ってる名前じゃない人がたくさん出てくるんですが・・・。皆さん普通に受け入れている様子で・・・。誰かシステム教えてもらいたいです。
ー代演というものですね。寄席はどうですか?
へぇ、代演ですか。初めてなので知らない落語家さんが多いですが、やる気なさそうに見えてよーく聴くとめちゃくちゃ面白いです。このおじいちゃんたち何者なんですか。なんでこんな浮世離れしたところが都会の真ん中にあるんですか。
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これ、昼席から夜席までいて良いんですよね? しかも、何か食べながら見て良いんですよね? そんなエンタメ見たことないです。すごく興奮しています。
と、ゆるい空気の中の極上の芸にしびれている様子。
二十歳桃花、菓子パンかじりながら、落語の世界へと一歩足を踏み入れたようです。
これから落語家になって、ここであなたの主任興行が行われることは内緒にしておきましょうかね。
あははは。落語って面白いなぁ。でもさっきからインタビューしてくるおばさん、誰なんだろう。ま、いっか。
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【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 26からの転載】

蝶花楼桃花(ちょうかろう・ももか)/ 東京都出身。春風亭小朝さんに弟子入り後、二ツ目・春風亭ぴっかり☆時代に「浅草芸能大賞」新人賞を受賞。2022年3月、真打ちに昇進し高座名を「蝶花楼桃花」と改める。昇進披露興行、初主任興行、企画にもかかわった全出演者女性による「桃組」はいずれも大入り。24年7月、31日連続ネタおろし独演会「桃花三十一夜」を池袋演芸場で開催、大成功をおさめる。