東南アジア最大の旅行予約サイト「トラベロカ」 社長に聞く日本進出の狙い

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2025年07月20日 17:20  ITmedia ビジネスオンライン

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トラベロカのシーザー・インドラ社長

 東南アジア有数の旅行予約プラットフォーム「トラベロカ」(Traveloka)が2025年春、日本市場に参入した。7月2日には、比較サイトの運営などを手掛ける手間いらず(東京都渋谷区)が提供する複数のオンライン宿泊予約サイトを一元管理できる「TEMAIRAZU」シリーズと、システム連携を始めたことも発表。さまざまなキャンペーンを展開するなど攻勢を強めている。


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 トラベロカ社は2012年にインドネシアで創業。アプリの累計ダウンロード数が1億4000万回を超え、4000万人以上のアクティブユーザーを擁する。


 同社は、インドネシアやタイ、ベトナム、シンガポールなど東南アジア各国で実績を積んできた。日本市場では、ホテルや航空券、アクティビティ、空港送迎、レンタカーなどの予約をワンストップで提供。現地ユーザーのニーズに合わせたローカライズや日本語対応のカスタマーサービス体制を強化する。


 トラベロカはなぜ日本に進出したのか。同社の強みと、東南アジア特有の観光課題は何か。同社のシーザー・インドラ社長に聞いた。


●社長に聞く日本進出の狙いは? 高品質な顧客体験とは?


――日本には多くの旅行プラットフォームがありますが、トラベロカが他社に負けない強みはどこにあるとお考えですか。


 私どもの強みは、やはり東南アジアへの橋渡しとしての役割を担える点にあると考えています。13年間この業界で事業を続けてきた中で、サプライチェーンの優秀さがいかに重要かを強く実感しています。顧客の体験が本当に良いもの、ポジティブなものになるためには、単に見つけて予約をするだけで終わるのではなく、その後の変更対応やチェックインのスムーズさなど、体験全体がうまくいくことが不可欠です。


 私たちは長年にわたり、東南アジアの顧客のニーズを深く理解し、それに合ったサービスを提供してきました。それを可能にしたのは、パートナー企業との非常に密接な関係です。技術開発においても、パートナーが安心して利用できるようなワークフローを一緒に築いてきました。これが当社独自の強みであり、ユニークさだと自負しています。東南アジアへの旅行を考えている日本の旅行者の方々にも、こうした強みを実感していただけると考えています。


――パートナー企業との距離が近いことや、優れたワークフローについて、もう少し具体的に教えてください。


 1つの例として挙げられるのが、私たちが提供しているエアポートトランスファー、つまり空港送迎サービスです。これは決して高額な商品ではありませんが、顧客の全体的な体験の印象を大きく左右する重要なサービスです。そのため、サプライヤーの選定には非常に慎重を期しており、私たちは厳選したパートナーのみと提携しています。


 具体的には、社内で品質スコア制度を設けており、サプライヤーごとに厳格な基準を設定しています。このスコアを満たさない場合は、当社のネットワークから外れていただくか、改善を求めるなど、厳しい条件を設けています。例えば、サービスに変更が生じた際には、バックエンドでしっかりとしたワークフローが構築されており、アプリ上でセルフサービスとして変更対応ができる仕組みを整えています。加えて、返金が発生する場合も、現在では約9割がアプリ経由で自己完結できるようになっています。


 このように、顧客がどこで満足し、どこで困るのかをしっかり理解した上で、エアラインや各種パートナー企業と密に連携し、機能開発を進めています。品質スコアについては、例えばトラブルや顧客からのクレームの頻度が高い場合はスコアが下がるなど、具体的な指標をもとに管理しています。こうした仕組みを通じて、顧客に高品質な体験を提供できるよう努めています。


●東南アジア特有の“直前予約”と、見えない裏側の徹底管理


――実際に多いトラブルには、どのようなものがありますか。


 そうですね、例えばホテルの予約に関して、本当にシステム上で予約が正しく登録されていて、問題なくチェックインできるかどうかという、いわば基本中の基本の部分が非常に重要です。多くの顧客は、特に東南アジアでは「当然チェックインできるだろう」と思うかもしれませんが、実際にはその裏側で私たちが多くの細かい作業を実行しています。例えば、ブッキングシステムに顧客の予約情報が確実に反映されているかどうかを、ホテル側と事前にしっかり確認しています。


 東南アジア特有の傾向として、宿泊客の約半数が直近3日以内に予約を入れるという特徴があります。そのため、予約情報の正確な反映や管理が非常に重要になり、私たちはそのためのバックエンドの仕組みを構築し、機能させています。こうした地道な作業が「顧客にとっては当たり前」の体験を支えているのです。


――東南アジア特有の観光需要について、具体的にどのような特徴があるのでしょうか。宿泊客の約半数が3日以内に予約する話もありましたが、他にはどんな傾向がありますか。


 東南アジアのニーズというのは、国ごとに非常に多様性があり、一括りにはできません。例えばインドネシアとベトナムでは、旅行者の行動や求めるサービスが大きく異なります。インドネシアでは、クレジットカードの保有率がまだ5%程度と低く、銀行振込など現金ベースの決済が主流です。そのため、私たちはプラットフォーム内で銀行送金や、購入後にローンを組んで分割払いできる金融サービスを提供しています。


 一方、ベトナムではeウォレットの利用が盛んで、決済手段が異なります。また、ベトナムの旅行者は国内旅行が中心ですが、ソーシャルメディアの影響を受けやすいという特徴もあります。こうした国ごとの違いを理解し、それぞれの市場に最適化したサービスを展開してきたことが、私たちの強みです。


 また、先ほども話しましたが、東南アジアでは直前予約の傾向が顕著で、約半数の顧客が3日以内に予約を入れるデータもあります。これは日本や欧米の市場とは大きく異なる点です。こうした特性に合わせて、私たちはリアルタイムで在庫を管理し、直前でもスムーズに予約できるようなシステムを構築しています。


 さらに、東南アジアの旅行者は安心・安全を非常に重視します。私たちのブランドは、現地で「信頼できる取引ができる」点で高く評価されており、2019年にはリスク管理の面で国際的な賞も受賞しています。セキュリティ対策やカスタマーサポートにも力を入れており、日本市場でも日本語対応のカスタマーサービスや、アプリ内でのセルフサービス機能を充実させています。


●AI活用の深化が生み出す顧客体験と業務効率化


――今のお話からも、テクノロジーが不可欠であることが伝わってきます。最近では生成AIも話題ですが、AIについてはどんな考えを持ち、どう活用していますか。


 AIについては、主流になる以前からマシンラーニングの形で長年活用してきました。例えば、アプリを開くと、顧客の好みに合わせて最適な商品をマッチングする個別最適化を非常に高いレベルで実現しています。現在はAIチャットボットも導入しており、顧客からの問い合わせの約75%はチャットボットで解決できるようになっています。


 また、マーケティングのワークフローもほとんど自動化しており、カスタマーサポートでも大規模言語モデルを活用することで、グローバルにスケールアップできる拡張性を確保しています。AIを特別なものとして使うというよりも、日常的にさまざまな業務に組み込んで活用してきたというのが実感です。今後も、テクノロジーを通じて顧客の体験向上に努めていきます。


――今後、AIがどのように業務効率や売り上げ向上に寄与するとお考えですか。


 AIの活用によって顧客の体験が大幅に向上していることは、リテンション率、つまり顧客の維持率や保持率の高さにも表れています。AIによるパーソナライゼーションが進むことで、より顧客に合った商品やターゲットを絞ったコンテンツを提供できるようになりました。その結果、私たちがAIを使って提案した商品を顧客が実際にご覧になると、コンバージョン、つまり購入や予約に至る確率が非常に高くなってきています。これはAI活用の中でも最も大きな成果の一つだと考えています。


 さらに、AIは業務効率化にも大きく貢献しています。例えば、カスタマーサポートの自動化や、マーケティング業務のオートメーションなど、さまざまな業務プロセスにAIを組み込むことで、コスト削減とサービス品質の両立ができています。このように、AIは顧客の体験向上と事業運営の効率化、そして売り上げの向上という観点で、今後もますます重要な役割を果たしていくと考えています。


――トラベロカにエンジニアはどれくらい在籍していますか。


 現在、8カ国で約2500人の従業員が在籍しており、そのうち3分の1以上がテクノロジー関連の人材です。エンジニアの人数は、テクノロジー部門全体でおよそ1000人のチーム体制を敷いています。


●日本市場で加速するローカルパートナーシップ戦略


――現地のホテルや航空会社、旅行代理店など、ローカル企業とのパートナーシップについてどのように取り組んでいますか。


 現地のさまざまな企業と継続的にパートナーシップを拡大しています。日本市場については、まさにこれから本格的に取り組んでいく段階ですが、すでにスタートを切っており、今後さらに多くのローカルパートナーと連携を深めていきたいと考えています。


 東南アジアでは長年にわたり、第三者のパートナー企業と協力し、現地の顧客に日本を紹介する取り組みもしてきました。今後は日本国内においても、ローカルのコンテンツやアクティビティ、ユニークな宿泊施設や交通手段など、ハイパーローカルなサービスを日本の旅行者に提供していくことが、当社の主な戦略となります。


――2024年にオーストラリア、今年(2025年)は日本に進出しました。今後のアジア太平洋地域での展開についてどのようにお考えですか。


 アジア太平洋地域には、まだまだ多くの成長機会があると考えています。オーストラリアと日本は東南アジア以外の新たな進出先として初めての市場ですが、今後さらに具体的な計画が決まり次第、発表できると思います。


(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)



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