
クラブワールドカップが終了し、欧州サッカーは新シーズンに向けてスタート。パリ・サンジェルマンの台頭が著しいなか、スター選手の序列にも変化がありそうだ。そこでライター3名に今年のバロンドール候補を5人ずつ挙げてもらい、現サッカー界をけん引するスーパースターたちを探った。
【新たなスーパースター像を提示したデンベレ】
西部謙司(サッカーライター)
<バロンドール候補>
ウスマン・デンベレ(パリ・サンジェルマン)
モハメド・サラー(リバプール)
ヴィティーニャ(パリ・サンジェルマン)
ラフィーニャ(バルセロナ)
ペドリ(バルセロナ)
今年からUEFA年間最優秀選手賞がバロンドールに吸収される。すでに評価期間は欧州シーズンに合わされていて、受賞候補がほぼ同じになると考えると賞がふたつあっても意味がないわけだ。
W杯も大陸選手権もなかった2024−25シーズンはチャンピオンズリーグ(CL)とネーションズリーグ(NL)の活躍が評価されるはず。それからするとCLとNLの両方で優勝し、なおかつパリ・サンジェルマン(PSG)とポルトガル代表を牽引したMFヴィティーニャが最有力と言いたいところだが、受賞するのはおそらくウスマン・デンベレだろう。
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偽9番として53試合35得点16アシストと大活躍のうえ、献身的な守備で新たなスーパースター像を提示した意義は大きい。
センターフォワードとしてオフサイドポジションにいることが多い。相手センターバックの背後から動いて中盤に下りる、あるいは味方が攻め込み態勢に入ると相手DFは下がるので入れ違いにバイタルエリアに入る。ここで前を向けたらドリブル、シュート、ラストパスと独壇場。ハイプレスのスイッチ役としてもすばらしく、PSG無双のリーダーだった。
ただ、デンベレが活躍したのはシーズン後半で、前半だけならモハメド・サラーが最有力だった。52試合34得点23アシストと記録は圧倒的。リバプールのプレミアリーグ優勝の原動力である。ただ、CLでPSGとの直接対決で敗れ、サラーも対面のヌーノ・メンデスに抑えきられた印象があるので受賞は難しそうだ。
ラフィーニャは新生バルセロナの象徴。57試合34得点25アシスト。CL得点王でもある。ハンジ・フリック新監督の戦術にフィットしていた。左ウイングから中へ入って第二のトップ下になるプレースタイルで新境地を拓いた。
その他の候補としてはラミン・ヤマルかキリアン・エンバペ。ヤマルは55試合で18得点、エンバペは59試合44得点でラ・リーガ得点王(31得点)。ただアシストはヤマルが25に対してエンバペは5。プレースタイルの違いがはっきり表われていて、得点とアシストのどちらを取るかによって評価は違ってくる。いずれも才能レベルでは最高クラス。才能だけで選ぶなら、ふたりうちのどちらかになるのではないか。
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ただ、個人的にはヤマル、エムバペよりペドリを推したい。ヴィティーニャと双璧のプレーメーカーだ。ヴィティーニャとペドリは広範囲に動いて組み立ての中心となるだけでなく守備でも活躍していた。一つひとつのプレーのクオリティが高く、どちらもチームに不可欠な存在だった。
【ヤマルが残したインパクトは強烈】
中山 淳(サッカージャーナリスト)
<バロンドール候補>
ウスマン・デンベレ(パリ・サンジェルマン)
ヴィティーニャ(パリ・サンジェルマン)
キリアン・エムバペ(レアル・マドリード)
ラミン・ヤマル(バルセロナ)
ラフィーニャ(バルセロナ)
今年のバロンドール候補の筆頭株は、CL優勝の立役者となったフランス代表のウスマン・デンベレだろう。
2024−25シーズンのデンベレは、PSGでキャリアハイの公式戦37ゴールをマークし、特にシーズン後半戦からストライカーとして覚醒。これまではウインガーとして主にチャンスメイク役を担ってきたなか、ゼロトップとして自身のプレースタイルの大転換に成功したことがキャリアの分岐点となった印象だ。
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もちろん、その背景にはキリアン・エムバペのレアル・マドリード移籍が大きく影響したことは間違いないが、それ以上に、自身も肉体改造に取り組むなどピッチ外での努力を続けた結果、ケガが減ったこともハイパフォーマンスの維持につながった。
CL以外に手にしたタイトルも多く、リーグ・アン、クープ・ドゥ・フランス、トロフェ・デ・シャンピオン(フランスのスーパーカップ)、そしてメイソン・グリーンウッド(マルセイユ)と並んでリーグ・アン得点王にも輝いた。今年のバロンドール最有力候補と見て間違いないだろう。
2番手以降は横一線と思われるが、タイトルという視点から見ると、PSGの司令塔ヴィティーニャが有力候補だ。クラブでは主軸としてCL初優勝に貢献。昨年のバロンドール受賞者がマンチェスター・シティのロドリだったことも追い風になる。加えて、ポルトガル代表としてUEFAネーションズリーグ優勝の立役者にもなったことも、大きなアドバンテージと言える。
個人タイトルという点では、2024−25シーズンのゴールデンシュー(ヨーロッパ得点王)を初受賞したキリアン・エムバペも有力だろう。リーグ戦31ゴールを記録してピチーチ賞(ラ・リーガ得点王)に輝くなど公式戦44ゴール(クラブワールドカップ含む)を記録。UEFAスーパーカップ、インターコンチネンタルカップ優勝にも貢献した。
ラ・リーガ、コパ・デル・レイ、スーペルコパ・デ・エスパーニャの三冠に貢献したバルセロナのラミン・ヤマルとラフィーニャも有力候補として挙げておきたい。
とりわけヤマルが残したインパクトは強烈で、個人的にはデンベレに次ぐ有力候補と見ている。仮に今年のバロンドールを逃したとしても、おそらく来年以降は毎年のように有力候補に挙がるはず。まだ18歳ではあるが、すでにそれほど突出した才能を持ったトップタレントだ。
【サッカーの中身が衝撃的だったパリ・サンジェルマン】
杉山茂樹(スポーツライター)
<バロンドール候補>
ウスマン・デンベレ(パリ・サンジェルマン)
ヴィティーニャ(パリ・サンジェルマン)
アクラフ・ハキミ(パリ・サンジェルマン)
ラミン・ヤマル(バルセロナ)
マイケル・オリーセ(バエイルン)
昨季の欧州シーズンに目を凝らせば、CLを制したPSGから大量に選びたくなる。最近の優勝チームのなかでも群を抜く強さで、なによりサッカーの中身が衝撃的だった。バロンドールはそのなかで一番は誰かという話になる。世間ではウスマン・デンベレを推す声が高いようだが、簡単にそう言ってしまうと他の選手の活躍が霞む。悩むところだが、筆者もその声に従うことにしたい。
デジレ・ドゥエやブラッドリー・バルコラにも言えることだが、デンベレで画期的に映るのは右も左も真ん中もできる多機能性だ。ウイングを左右できる選手はこれまでにも存在したが、真ん中までできちゃう選手というのは記憶がない。
俗に言う流動的な動きではない。ポジショニングに間違いがないところがすばらしい。相手ボールになった時、穴にならない。リオネル・メッシ、クリスティアーノ・ロナウドにありがちな、マイボール時に限ったスターではないところに先進性を覚える。いつの間にここまで頭脳優秀な選手になったのか。もし実際にバロンドールを獲得したら、監督のルイス・エンリケ様々と言えるのかもしれない。
PSG内で2番手を選ぶことも難しい。フビチャ・クバラツヘリアも捨てがたい存在だが、次に推したくなるのは中盤のヴィティーニャだ。172センチ。小柄で軽量の選手ながら、勤勉さと技巧を高次元で発揮しながらアンカーという中心的なポジションを務める。それは日本人選手のあるべき姿を示しているようで、眩しく映る。
3人目もPSGから選びたい。右サイドバック(SB)のアクラフ・ハキミだ。左のヌーノ・メンデスもそうだが「SBが活躍したチームが勝つ」という近代サッカーの格言を地で行く、お手本のような存在だった。グイグイとボールを縦に運ぶ能力。チャンスに絡むセンスのよさに加え、決定力もある。SBをより魅力的なポジションに昇華させたという意味でも、高い貢献度を感じる。
4番手はPSG以外から選ぶことにしたい。となると筆頭はラミン・ヤマルで動かない。左利きが強い右ウイング。PSGの攻撃陣のような多機能性はない。新しいタイプには見えないが、それを差し引いても圧倒的なインパクトがある。まさに絵になる選手。光り輝く存在に映る。バルセロナがCLを制すれば、その瞬間、バロンドールに輝く選手である。その意味では今季のCL準決勝インテル戦の敗戦は痛かった。
同じバルサのラフィーニャも好選手の名をほしいままにするアタッカーだし、モハメド・サラーも相変わらずすばらしい。CL優勝なら即、1番手に推したくなるが、プレミアリーグ優勝では訴求力という点でやや物足りない。
その点で言えばブンデスリーガ優勝はさらに足りなく映るが、そうした理屈を超えても5番手に加えておきたいのは、マイケル・オリーセだ。破壊力と技巧を高次元で備えた、いま飛ぶ鳥を落とす勢いにある右ウイング。フランス代表のディディエ・デシャン監督は、来年のW杯にどんなアタッカー陣で臨むのか。目を凝らしたい。