写真はイメージです―[FIRE投資家が教える「お金・投資」の本質]―
東京23区の中古ワンルームマンション中心に不動産投資を展開。現在、37戸の物件を所有し、時価資産額約10億円、年間家賃収入約4000万円の個人投資家・村野博基氏。所有物件のうち27棟で管理組合役員(うち11棟は理事長)を務める村野氏は、「管理会社もビジネスであり、費用が安くて管理も手厚い会社はありえない。それぞれのニーズに合わせて選択した方が良い」と話します。さまざまなマンションで管理に携わってきた村野氏が管理会社のポイントを解説します。
◆管理会社と管理組合、悪いのはどちらか?
マンションの管理に携わっていると、ときおり「今の管理組合に必要な管理費や積立修繕費が足りていないのは、マンションの管理会社がぼったくっているからだ!」という言説を見聞きすることがあります。なかには「今の管理会社が不当に高額な請求をしているので、他の管理会社に変えるべき!!」という理論を管理組合に持ち込む人もいます。
もちろん管理会社の中には不当に高い金額を徴収したり、不必要な工事を提案して利益を追求したり、不正なことを働く方もいるのかもしれません。しかし私自身は、多くの場合「管理会社は自分達の責務は全うしており、問題の責任は管理組合側にある」と考えています。
管理組合にお金が足りていないとなれば、「収入」である管理費や修繕積立金自体が不足しているか、実際にマンションを管理して修繕する「支出」となるお金が多いかのどちらかです。管理会社が無尽蔵にお金を抜いている……というケースは、そもそも管理組合側が管理会社をコントロールができていないため発生しているものであり、管理会社だけが悪いわけではありません。
管理会社はマンションの管理を「任せてもらっている」状況であり、受注側の立場です。過去にも「下請けイジメ」が話題になりましたが、ある意味では管理会社は下請けでもあります。発注側の無能さを棚に上げて、下請け側に全ての責任を負わせるような行為は厳に慎むべきだと考えています。
◆マンションの管理会社は3タイプに分かれる
ざっくりですが、マンションの管理は3タイプに分類できるでしょう。軸は委託費が「高いか、安いか」、品質が「手厚いか、否か」です。ちなみに委託費はマンションの場合に徴収される「管理費」と「修繕積立金」とは異なります。管理費や修繕積立金は、そもそも支払ったタイミングでは管理組合にストックされている状態です。いくら高くても保管するお財布の場所が変わるだけ。もし仮にマンションが無くなるような事態になれば、残る金額はその時の所有者に返ってきます。
そのうち「管理費」は日々マンションを維持していくために使用され、「修繕積立金」は何年かに一度実施される大きな修繕工事の費用に充てられます。そして、日々マンションを維持していくために管理会社に支払うものが「委託費」です。こちらは明確な「支出」です。
マンション管理の3タイプ
1.委託費が高いけど管理が手厚い→財閥系・デベロッパー系など
2.委託費が安くて、必要最小限の管理→独立系など
3.ヤバい管理会社→委託費の高い安いに関係なくヤバい有象無象
「1.委託費が高いけど管理が手厚い」のは、一般的には財閥系やデベロッパー系と呼ばれる会社が運営しているケースでしょうか。同系列の商社の名前や電鉄系の名前が入っている管理会社が該当します。「委託費が安くて、必要最小限の管理」は、住民や所有者の方々が納得しているのであれば特に問題はないでしょう。委託費が高いため、徴収される管理費も高額になりがちですが、手厚く運営しているため満足度は高い印象があります。管理人さんが24時間在中で各種の対応をしてくれたり、マンション住民内でのトラブルが起きても収めてくれるケースもあります。
「2.委託費が安くて、必要最小限の管理」な管理会社は建物管理に特化したいわゆる独立系の企業が多いでしょうか。上記の管理会社よりも居住者の「お気持ちに寄り添う」部分では一段落ちるケースもありますが……。それでもマンションを維持するために必要な修繕の工事はしっかり行っている印象があります。
そして一番管理状態が心配になるのは、本当は委託費の高いか安いかよりも、実際には何もしていない「3.ヤバい管理会社」です。建物が劣化していくには長い時間がかかります。数年で簡単にボロボロになるのではなく、顕在化するのは何十年か先。何もしないで、ほったらかしにしておいても、すぐには問題にはなりません。そして、いざ「ヤバい」と発覚したころには、「もうこのマンションは駄目ですね」と管理会社は管理から撤退してしまうのです。長期的な修繕の話だけではなく、なかには、マンションで年1回行うべき重要な管理組合総会を開催しないような管理会社もあります(笑)。そもそも不動産の業界においては、なぜか建築や土地開発をする部門が上位に位置付けられ、建物管理は下に見られる傾向があるようです。ですから、耳にしたことのある建設会社の子会社が運営する管理会社でも「ちゃんとしているか?」と聞かれると微妙なことが多かったりします。
◆マンション管理の視点で管理会社選びのポイントとは
マンション管理における管理会社はどのように見極めて決めていくのがよいか。大前提として、発注側が「任せきりにしない」という意識を持つことが重要です。「任せて安心なほど他人を信じる」のはギャンブルでしかありません。相手が「ニーズをくみ取って、私の利益になるように振る舞ってくれる!」と期待するのは「愚かな行為である」と是非、認識しておきましょう。「投資は自己責任」であり「主導権は自分にしかない」というのは、投資における一丁目一番地です。
そのためにもまずは、管理組合の「ニーズ」を明確にして、組合内で意思を統一することが必要です。手厚い管理を求めているのか? それとも委託費を削って安さを求めるのか? 安くて手厚い管理はありえません。何を諦めるのか、失ってもいいのかは明確にすることが必要です。
その要望やニーズをまとめた上で管理会社とも相談して方向性を合わせましょう。相談しても要望に答えてくれない管理会社だとしたら……。それはそのマンションに住む住民にとっては「良くない管理会社」になります。となれば、管理会社を変えるプランが出てくるのもやむを得ないでしょう。
例えば、「お金が無いから修繕工事は最低限で済ませたい。ついては見積もりが高いから、他社にも相見積もりを依頼して欲しい」という住民からの要望があったとき、「いや、当社に工事を発注してくれないと管理業務から撤退します」いうような場合は、今すぐに管理会社の変更を検討したほうが良いかもしれません。
なお、なんだかんだと管理会社の良し悪しを述べても、結局はマンションを担当する「フロント担当」の質による部分が大きかったりします。立場や肩書よりも、最終的には「人」が最も大事な部分を占めるのは、仕事でもプライベートでも同じこと。住民の困り事をしっかり理解してくれて対応してくれる、優秀なフロントさんは是非とも大切にしてください。彼らは住民の文句のはけ口ではなく、決して御用聞きでもありません。管理業務主任者という国家資格を有した専門家です。
しかし「専門家が犯罪を侵さない、間違いを侵さない」ということはあり得ません。管理会社側に不正があったときには厳粛に対処すべきです。
大事なことは、決断の主体は決して管理会社にあるのではなく、マンションを保有している私たち自身にあることを忘れないことです。管理組合側も管理会社を御するだけの知識や考えをしっかりと持って、敵対するのではなく共存していく道を探すこと。それが、よりよいマンション管理につながり、最終的に資産を守ることに結びつくと思っています。
<構成/上野 智(まてい社)>
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【村野博基】
1976年生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、大手通信会社に勤務。社会人になると同時期に投資に目覚め、外国債・新規上場株式など金融投資を始める。その投資の担保として不動産に着目し、やがて不動産が投資商品として有効であることに気づき、以後、積極的に不動産投資を始める。東京23区のワンルーム中古市場で不動産投資を展開し、2019年に20年間勤めた会社をアーリーリタイア。現在、自身の所有する会社を経営しつつ、東京23区のうち19区に計38戸の物件を所有。さらにマンション管理組合事業など不動産投資に関連して多方面で活躍する。著書に『43歳で「FIRE」を実現したボクの“無敵"不動産投資法』(アーク出版)