
都心で暮らすHさん(東京都・30代)は、生活の合理性を重視して自家用車を持たない選択をしてきました。必要なときにはタクシーを自由に使うという前提で暮らしていましたが、ある日、夫の何気ない“ひとこと”をきっかけに、タクシーを使うことに「罪悪感」を抱くようになります。
【漫画】「タクシーって、もったいなくない?」夫からねちねち責められて…(全編を読む)
自家用車ゼロという「合理的」な選択
Hさんの住むエリアは、電車やバスが充実しています。都内で生活するのに、車を維持するのは大変です。駐車場代、保険、車検、ガソリン代…そうした負担を考えれば、「必要なときだけタクシーを使う」ほうが合理的であると、多くの人が感じ、Hさん家族もそう思っていました。
実際、その方針は夫婦で共有していて、「必要ならタクシーを使えばいい」「そのほうが結果的に安く済む」そういう前提で、子どもができるまでは自家用車を欲しいと思ったことはありませんでした。しかし、子どもが2人になり、理屈だけでは済まない現実に直面することとなります。
「今こそタクシー」のはずが、まさかの一言
ある雨の日、Hさんは未就学の2人の子どもを連れて、外出しなければなりませんでした。電車とバスを乗り継いでいく外出先までは距離があり、バスも10分に1本。子どもたちにレインコートやレインブーツ、傘を持たせたとしても、濡れてしまいます。ましてや子ども2人の濡れた雨具は屋内に入ると大荷物となります。考えただけでぐったりするような光景が目に浮かぶ状況でした。Hさんは、ここはタクシーしかないと判断し、スマホで配車アプリを立ち上げました。
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そのとき、夫から飛び出したひとことが状況を一変させます。
「えっ?そこって結構遠いよね?タクシーって、もったいなくない?」
一瞬、聞き間違いかと思ったHさん。自家用車がないからこその「タクシーOK」ではなかったのか。むしろ、こんなときに使わなければ、いつ使うのでしょう。
心の中で夫への不満を飲み込みつつも、結局タクシーを利用しましたが、乗車料金に加えてアプリ手配料や予約料金が重なり、予想以上に高額になってしまいました。すると、夫からねちねちと責められる結果となったのです。
歩けば地獄、乗れば罪悪感。真夏のジレンマ
また別の日、今度はHさんひとりでの外出でした。子どもはいなかったのですが、気温は朝からぐんぐん上がり、超真夏日で35度以上。歩けない距離ではありませんでしたが、汗だくになるのは確実で、その後会う相手にも不快な思いをさせたくありませんでした。普段頑張っている自分へのささやかなご褒美として、タクシーに乗ってもいいのではないか。そう思ったとき、またもや“夫の声”が脳裏に響きました。
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「え? そのくらい歩けるでしょ?」
直接言われたわけではありません。ただ、前回の「タクシーもったいない」発言と、結果的に料金が高くて責められた記憶がよみがえったのです。実際、しばらく迷った末に、Hさんは歩きました。ふき出す汗をハンカチでぬぐいながら、駅までの道を無言で歩いたのです。
「節約」と「抑圧」は紙一重
タクシーに乗る自由を選んだはずなのに、いつの間にかHさんの中には「乗ってはいけない」という強迫観念が芽生え始めていました。必要なときは使っていいという合意だったはずが、いつの間にか夫のひとことが“戒め”のような基準へと変わっていったのです。
夫は言いました。「必要なときにはタクシーを使えばいい」と。ですが、「必要なとき」の定義が食い違っている限り、それは自由とは言えません。「車がないからこそ、タクシーでカバーできる」という建前が、夫の一言で一気に揺らぐと、選択肢が自由ではなく試練になってしまいます。
合理的なライフスタイルの中で、思わぬストレスが生まれることもあります。Hさんは、自家用車の維持費よりも、タクシー代よりも、もっと高くついていたのは、夫の一言で心が揺れる自分の精神コストだったと気付いたのでした。
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車のある生活、ない生活。それぞれの思いを聞いてみました。
▼神奈川県・50代
うちの夫はケチなので、一番下の子が小学校に上がるタイミングで自家用車をやめて2年になります。家の近所にはカーシェアが増えたので、車が必要なときには利用すればいいということになっているのですが、夫が、カーシェアが安いかタクシーが安いかを、いちいち計算するので、はっきり言ってめんどくさいです。
▼東京都・40代
都心のマンションに住んでいるのですが、最初マンションの敷地内にある立体駐車場を契約していて、家族が増えて大型車に車を買い換えると、それに伴い駐車料金も値上がりし、駐車場が高くなりました。なので敷地内の駐車場を解約し、自宅から離れた駐車場を旦那が契約してきました。でもそこまで車取りに行くのが不便!しかも乗りたいのは雨の時が多いし、取りに行く間に濡れるしで、便利な車の意味ないじゃん!と思っています。
▼東京都・30代
うちはタクシー派。都内だと維持費も大変だし、タクシーのほうが便利だと思います。でも、もっというと旦那も私もお酒を飲むのが大好きなので、車を運転できる場面が限られていて、タクシーにしようってなってます。
(まいどなニュース特約・松波 穂乃圭)