
日本人メジャーリーガー後半戦の焦点【3】
奮闘投手編(菊池雄星・菅野智之・松井裕樹)
菊池雄星(ロサンゼルス・エンゼルス)と菅野智之(ボルチモア・オリオールズ)は、今シーズンの開幕を新天地で迎えた。
昨年オフ、彼らはそれぞれヒューストン・アストロズと読売ジャイアンツからFAになり、菊池はエンゼルスと3年6367万5000ドル(2025年〜2027年/約95億円)、菅野はオリオールズと1年1300万ドル(2025年/約20億円)の契約を交わした。
そしてふたりとも、開幕からローテーションを守って前半を終えた。
菊池は20登板で113.0イニングを投げ、奪三振率9.16、与四球率3.90、防御率3.11を記録。先発20登板は両リーグ最多タイで、ア・リーグは菊池を含む9人、ナ・リーグは8人だ。この17人のうち、防御率が菊池より低い投手は7人。ア・リーグに限ると3人しかいない。
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30チームのなかで唯一、エンゼルスは5人の先発投手だけで前半戦を乗りきったが、彼らのトータル防御率はリーグワースト4位の4.38と芳しくなかった。菊池に次いで防御率が低かったのは3.90のホセ・ソリアーノ。菊池がエースとして突出し、2番手と3番手は不在のローテーションという見方もできる(防御率6.03のジャック・コハノウィッツは前半終了直前にスリーA降格となった)。
ちなみに、エンゼルスからオールスターゲームに選ばれた選手は、菊池しかいない。マイク・トラウトはファン投票でフェイズ1からフェイズ2に進んだが、最終的に選出されなかった。
エンゼルスの前半戦は47勝49敗。ア・リーグ西地区1位のアストロズと9ゲーム差の4位。上にいる3チームが揃って失速しないかぎり、ここから巻き返して地区優勝を飾るのは困難だ。ただしワイルドカードレースでは、3位のシアトル・マリナーズと4ゲーム差の6位タイにつけている。こちらも容易ではないものの、ポストシーズン進出の可能性は潰えていない。
菊池が後半戦も変わらず好投し続けても、それだけでエンゼルスのポストシーズン進出は実現しないだろう。けれども菊池の好投がなければ、エンゼルスの浮上はまず望めない。
【制球に優れる菅野の価値は高い】
昨年7月下旬、菊池はトレードでトロント・ブルージェイズからアストロズへ移り、そこから10登板の60.0イニングで奪三振率11.40、与四球率2.10、防御率2.70という好成績を残した。今シーズンの後半戦もその再現、あるいはさらに上の投球が期待される。
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エンゼルスは現在、全30球団のなかで最長となる「10年連続ポストシーズン進出なし」を継続している。その不名誉な記録に終止符を打ち、菊池がその立役者のひとりになれば......。エンゼルスのファンの間で菊池の名前は永く語り継がれるはずだ。大谷翔平(現ロサンゼルス・ドジャース)とは違う意味で、エンゼルスの伝説になり得る。
一方、菊池と比べると、菅野の防御率は1点以上も高い。前半戦は18登板の99.1イニングで奪三振率5.35、与四球率1.99、防御率4.44という記録だ。
もっとも、メジャーリーグ1年目ということを踏まえると、及第点のシーズン前半戦ではないだろうか。ア・リーグで「チームの試合数×1.0イニング以上」の34人中、防御率と奪三振率は最下位ながら、与四球率は7位に位置する。
オリオールズで先発10登板を記録した5人のうち、菅野の防御率はディーン・クレーマーの4.17(リリーフ1登板を除く)に次いで低い。彼ら以外の3人は防御率5点台だ。また、6月20日に15登板目を終えた時点で菅野の防御率は3.55だった。その後は2登板続けて6失点以上(自責点6以上)を記録したが、前半戦最後の登板は6イニング3失点(自責点3)と持ち直している。
7月末のトレードデッドラインまでに、菅野はオリオールズから違う球団に移る可能性が高い。借金9を抱えて前半を終えたオリオールズは、まず間違いなくトレード市場で売り手に回り、今オフにFAとなる選手のなかに菅野も含まれているからだ。
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オリオールズから移籍すれば、菅野にはポストシーズンのマウンドに上がるチャンスが出てくる。制球に優れている菅野は、与四球を連発して試合を壊す「自滅」の心配がほとんどない。ここまで1イニング2与四球は、別々の試合で3度。3与四球以上のイニングは皆無だ。1試合に4人を歩かせたこともない。
【松井の課題は被本塁打の増加】
とはいえ、エースやローテーションの2番手として菅野を迎え入れようとする球団はないだろう。3番手以降、もしくは4番手か5番手の候補だと思われる。本命の先発投手を逃すか、その前に本命を逃した場合の保険として、菅野の獲得に動く球団もあるかもしれない。
ということは、移籍後の投球次第では、菅野がポストシーズンの前にローテーションから外されることもあり得る。ポストシーズンの場合、先発投手はレギュラーシーズンよりひとり少ない、4人が一般的だからだ。つまり、トレードによってポストシーズンに近づいた際には、菅野はその先発マウンドに立つ機会を自ら勝ち取る必要がある。
無論、35歳のオールドルーキーならではの、日本プロ野球での経験値を生かした投球術を発揮すれば、その道は開けるのではないだろうか。打者を圧倒して封じるのではなく、翻弄して手玉に取る投球だ。
一方、メジャーリーグ2年目の松井裕樹(サンディエゴ・パドレス)はリリーバーとして、シーズン前半戦でフル回転した。昨シーズンの64登板はパドレスの162試合の39.5%にあたる。今シーズンの前半戦は96試合中39試合に投げたので、その割合は40.6%となる。
昨シーズンと今シーズンの前半を比べると、3.73→5.05の防御率をはじめ、スタッツは総じて悪化している。なかでも、最近の登板で目につくのは、被本塁打の増加だ。開幕から32登板の被本塁打2本に対し、6月下旬以降の7登板は4本のホームランを打たれている。昨シーズンの被本塁打も、最初の51登板が2本、その後の13登板は6本だった。
この傾向に歯止めをかけることが、後半戦の課題だろう。パドレスは優れたリリーフ投手を数多く擁し、リーグ2位のブルペン防御率3.20を記録している。だが、マイク・シルト監督は1試合に何人ものリリーフ投手を注ぎ込むことが少なくなく、松井がきっちりとつなぐこともパドレスの勝利には欠かせない。
メジャーデビュー以来、松井は与死球がひとつもない。外角低目を突くことが多く、特に左打者に対してはそうだ。ぶつけることを推奨するわけではないが、打者をのけぞらせるような内角の球を織り交ぜても(その結果として与死球になっても)いい気がする。
ワイルドカードレース3位のパドレスと、4位サンフランシスコ・ジャイアンツの差は、前半戦終了時でわずか0.5ゲームだった。1〜2勝の差がポストシーズンに進めるかどうかを分けることになりかねない。これからの後半戦、さらにリリーフの重要性が高まるのは間違いない。