「なんだか、AIみたいですね」 ロジカル上司が部下に嫌われる理由

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2025年07月22日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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なぜ分かりやすく話しているつもりなのに嫌われるのか?

 「分かりやすく説明しているつもりなのに、なぜこんなことを言われるんだ……」


【画像】部下の表情は冴えなかった


 データを使って論理的に説明したはずなのに、部下から「なんだか、AIと話しているみたいです」といわれてしまった。他の部下からも飲み会の席で、「課長には心を開くことが難しいです」と言われる始末だ。


 なぜ、データを使って理路整然と話すことが、逆効果になるのか。


 実のところ、コンサル出身者やロジカルシンキングを学んだマネジャーほど陥りやすいわながある。


 今回は、コンサル風の話し方がなぜ嫌われるのかについて解説する。部下とのコミュニケーションに悩んでいる上司は、ぜひ最後まで読んでほしい。


●AIと話しているようだと言われた上司の衝撃


 その課長は、もともと大手コンサルティングファームで5年間働いていた。MBA取得後に事業会社へ転職し、念願だった管理職のポジションを手に入れた。


 コンサル時代に培った分析力と論理的思考力を武器に、部下の指導に力を注いだ。定例会議では必ずデータを用意し、KPIの推移をグラフで可視化。商談の進捗も数値化し、成約確率を算出して優先順位を決めていた。


 「このアプローチなら、部下も納得して動いてくれる」


 そう信じて疑わなかった。しかし、状況は一向に改善しなかった。「分かっているか?」と確認すると、部下たちは口をそろえて「分かっています」と答える。そう、課長の話す内容は、部下にはしっかり理解されていたのだ。


 そして3カ月後、若手部下との1on1ミーティングで衝撃的な一言を聞くことになる。


 「課長と話していると、まるでAIと対話しているようです」


 最初は褒め言葉かと思った。論理的で効率的だという意味だろうと。しかし部下の表情は冴えなかった。詳しく聞いてみると、こう続けた。


 「とても分かりやすいです。課長の話し方は……。ただ、それだけなんです」


 課長は困惑した。「分かりやすい」と感謝されているのに、だからといって行動は変えないというのだ。追い打ちをかけるように、飲み会の席で別の部下からも言われた。


 「課長には、心を開くことが難しいです。お酒の力を借りないと……」


 ショックだった。部下のためを思って、客観的なデータに基づき、論理的に説明していたつもりだった。それが、まさか逆効果だったとは。


 コンサル時代は、クライアントから「分析が鋭い」「説得力がある」と高く評価されていた。しかし、部下との日常的なコミュニケーションでは、その強みがむしろ弱みになっていたのだ。


●相手の行動を変えられない話し方に価値はない


 私自身、20年近くコンサルタントとして働いてきた。職業柄、客観的なデータを使い、ファクトベースで話すことを徹底的にたたき込まれてきた。その癖は簡単には抜けない。


 「分かりにくい」と言われることはほとんどない。しかし、相手が本当に納得し、行動に移すかどうかは別問題だ。


 例えば、ある営業部長に戦略を説明したときのこと。私はこう語った。


 「こうした結論に至ったのは、次の3つの根拠があるからです。図表にもそれが表れています。ご納得いただけますか?」


 「とても分かりやすく説明していただき、ありがとうございます」


 「本当に……?」


 「え?」


 「いや、本当に、ご納得いただけたのかと……」


 このように念を押したのには理由がある。ある課長に「部長は、横山さんの話を聞いても、まったく分かっていませんよ」と言われたからだ。


 実際に本音を聞いてみると、部長は「分からない」と言うのが恥ずかしかったのだという。


 一方、私の先輩コンサルタントは違った。


 あるクライアント企業を訪問した際、ドラゴンズが好きな部長だと分かると、先輩は10分でも20分でも昨日の試合の話で盛り上がる。そして本題に入ると、「ま、こんな感じでやっていきましょう」と、図表を軽く見せるだけで終えてしまうのだ。


 「あんな説明でいいんですか?」


 私が尋ねると、先輩は軽く笑って言った。


 「これまでと行動を変えてもらえるなら、それでいいんだよ」


 そしてくぎを刺すようにこう続けた。


 「目的は何だ? 俺たちが“正しい”話し方をすることか? それとも、経営のために“正しい”行動をしてもらうことか?」


 その言葉は、私の胸に突き刺さった。私は自分の話し方に酔っていたのかもしれない。相手のためではなく、自分の満足のために話していたのではないか、と。


●なぜコンサル風の話し方は嫌われるのか


 私の経験から断言できる。コンサル風の話し方は、多くの人に好かれない。好かれないどころか、相手の行動を変えることもできない。


 根本的な原因は、「相手視点が足りない」からだ。


 データや論理で武装した説明は、一見正しそうに見える。しかし、相手の感情や価値観を無視して正論を押し付けても、人の心は動かない。専門用語やグラフを次々と提示されても、相手が本当に理解しているとは限らない。


 相手によって読解力や理解スピードは異なる。


 それでも多くの人は、「分からない」と言うのが恥ずかしい。細かいデータを見せられると、反射的にうなずいてしまう。その様子を見て話し手は「理解された」と勘違いし、どんどん話を進めてしまう。これでは、独りよがりな説明になってしまう。


 「AIと話している」と言われても仕方がない。人を動かすには、論理だけでなく感情に寄り添うことも必要なのだ。


●アリストテレスが教える説得の3要素


 古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、こう語った。


 「人は論理的に話す者に従うが、感情に訴える者にはさらに心を開く」


 彼は説得の3要素として、ロゴス(論理)、パトス(感情)、エトス(信頼)を挙げた。コンサル風の話し方は、ロゴスに偏りすぎている。


 数字やデータで理路整然と説明するのは確かに有効だ。しかし、相手の心に訴えかけるパトスや、話し手への信頼感であるエトスが不足していると、相手は動かない。


 例えば部下に新しい業務を依頼する場面。データだけで必要性を説明しても、部下の不安や期待には応えられない。「なぜこの仕事が大切なのか」「どんな成長につながるのか」など、感情面での配慮が求められる。


 信頼関係も欠かせない。どれだけ論理的でも、信頼できない相手の話は受け入れがたい。日ごろから部下との関係を大切にし、人間味のあるコミュニケーションを心掛けることが重要だ。


 ピラミッドストラクチャーのような構造的フレームワークを使えば、「分かりやすい」説明はできる。しかし、それで人は本当に正しい意思決定ができるのか。その人の行動を変えることができるのか。答えは「ノー」だ。


著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)


企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。



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  • …家電の操作方法ならそれでいいけど。コンサルさんが自分に言ってくれた事のコピーを部下に伝えるしか出来ないならそれ自分の仕事をその権利のない部下に振ってるだけだから意味ないわよ;
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