「国勝訴の判決文を書くほうが無難だしラク」生活保護費引き下げ違法判決の裏側で輝いた“2人の裁判官”

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2025年07月23日 09:20  日刊SPA!

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写真/時事通信社
6月27日、最高裁は’13年より生活保護費を国が段階的に引き下げたのは違法とし、処分取り消しとする判決を下した。同様の裁判は全国で起こされており、今回、統一的な判断が示された格好だ。今後は約200万人とされる受給者への対応をどうするかが焦点となる
“白ブリーフ判事”こと元裁判官の岡口基一氏は、この「生活保護費引き下げは違法(最高裁)」の判決について、独自の見解を述べる(以下、岡口氏の寄稿)。

◆国に忖度した名古屋地裁判断が2人の裁判官により覆された

生活保護バッシングが吹き荒れた時代があった。’11年の年末、自民党は「給付の適正化」を訴えるなど、事実上の生活保護費引き下げを選挙公約に掲げ、民主党から政権を奪還。厚労省は安倍新政権に忖度し、合理的とは言えない理由で給付削減を強行した。

これを受け、全国の裁判所で31件の裁判が提起される。申立てたのはすべて生活保護受給者だった。全国で同じテーマの裁判が提起されることはよくあるが、その場合、最初に出された判決が、後続で審議している裁判所に強い影響を与える。裁判官はどんな問題にも精通しているわけではなく、とりわけ専門性の高い論点については自信を持って判断できるわけではない。前例があれば、それにそのまま従うのが無難と考えるのだ。

また、国の責任が問われる裁判では、裁判官にはもう一つ大きなプレッシャーがかかる。最高裁事務総局は政治部門とケンカしないことを最優先事項としており、下級審裁判官はその辺のお家事情を忖度しなければならないからだ。

◆国勝訴の判決文を書くほうが無難だしラク

生活保護引き下げ訴訟でも、「ファーストペンギン」である名古屋地裁は国の責任を否定した。給付引き下げは行政の裁量処分のため、裁判所は大雑把な判断にとどめることでこれを適法とすることができる。わずか1000円の横領での退職金不支給処分を最高裁が適法にできたのも、それが裁量処分だったからだ。

ところが今回の訴訟では、「セカンドペンギン」である大阪地裁の裁判長が森鍵一判事であったことから、俺は「雑な判断はしないだろう」と確信していた。俺と森鍵判事は東京高裁時代、部は違ったものの民事部全体の懇親会などでよく語り合っていたからである。俺が新潟水俣病訴訟で被害者全員を救済する判決を主任裁判官として出した際も、森鍵判事は「これこそ司法がその役割を果たした判決である」と高く評価してくれた。司法の本質をきちんと理解する森鍵判事が、名古屋地裁のような結論ありきの判断をするはずがない。

森鍵裁判長率いる大阪地裁合議体は、俺の予想どおり一審の判断を覆した。そして、その判決は、ファーストペンギンがつくりかけた流れを見事に断ち切ることになる。もし大阪も国の責任を否定していれば、ほかの裁判所も引っ張られることになったのは間違いない。

その後は、この大阪の判断にならって国の責任を認める裁判官が少なからず現れ、そして、次第にそれが優勢になっていった。下級審裁判官からすれば国勝訴の判決文を書くほうが無難だしラクなのだが、森鍵判事が司法の本来の役割を気づかせてくれたと言ってよい。

そうなると、あとは最終決定権者である最高裁である。しかしこの訴訟は、大変にラッキーであった。「最高裁の良心」と言われた宇賀克也判事が裁判長を務める第三小法廷に係属したからだ。宇賀判事はこれまでも、多くの事件で国を敗訴させることにまったく躊躇しなかったが、この事件でも市民の側に寄り添う決定を下した。今回の事件は2人の裁判官の存在が大きい。司法の本質を理解している裁判官が少数ながらも存在している。そんなかすかな希望を見いだせた判決だった。<文/岡口基一>

【岡口基一】
おかぐち・きいち◎元裁判官 1966年生まれ、東大法学部卒。1991年に司法試験合格。大阪・東京・仙台高裁などで判事を務める。旧Twitterを通じて実名で情報発信を続けていたが、「これからも、エ ロ エ ロ ツイートがんばるね」といった発言や上半身裸に白ブリーフ一丁の自身の画像を投稿し物議を醸す。その後、あるツイートを巡って弾劾裁判にかけられ、制度開始以来8人目の罷免となった。著書『要件事実マニュアル』は法曹界のロングセラー

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  • 弾劾裁判にかけられ、制度開始以来8人目の罷免となった元裁判官なんかに聞いてんじゃねえぞ馬鹿が。 奴の罷免はもう犯罪レベルだぞ。
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