限定公開( 1 )
“情報の価値が大きく高まると/相対的に物質の価値が低下した”
誰かが亡くなった際、土地や現金だけでなく記憶情報も相続されるようになった世界の物語『Angelcare』が2025年6月にSNSへ投稿された。行政職員のヨシノは地元の知り合いの記憶を相続することとなった。しかし、その子とヨシノの関係は意外なものでーー。
少し先の未来で実現しているかもしれない本作の設定や世界観について、それぞれに立場や価値観の異なる登場人物についてなど、作者・ひらめきさん(@hirahirameki)に話を聞いた。(あんどうまこと)
ーー本作を創作したきっかけを教えてください。
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ひらめき:本作は「COMITIA(同人誌の展示即売会)」で発表するために描いた作品であり、これまで「地方と中央」をテーマに描いてきた作品集の1本でもあります。
資本や資源の中央一極化によって、構造的な歪みを感じつつも一生懸命に生きている地方の人々を描きたくて、これまでは地方の話を描いてきました。「中央の連中は地方の現場をわかっていない」という描き方をしてきたので、今度は中央の人たちを描きたいと思い本作を創作しました。
ーー記憶が資産となる設定の着想はどこから得ている?
ひらめき:現代の延長線上として「情報化社会が行き着いた未来だとこうなるかな」と想像しながら本作を描きました。
AIの価値が高まると情報の価値も高まり、個人の記憶に資産価値が生まれてしまい、亡くなった人の記憶を相続するようになる。記憶の相続にはお金の相続と似たようなトラブルが起きやすいため、中央の人たちは相続の采配もAIに任せるだろうーー。そんな風に、順々に連想していきました。
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ーー登場人物・なずなを描くなかで意識したことは?
ひらめき:本作で描かれているなずなさんは、記憶を取り込んだヨシノさんが認識した姿として描いています。実際のなずなさんは社交的で希望のあるような明るい子ではありません。
両親もなずなさんを愛しているけれど、引きこもりがちのため十分なコミュニケーションは取れていなかった。家族としてはかなり不全な状態であったと考えています。
ヨシノさんになずなさんが記憶を託したのはあくまでもAIによる判断であり、ハルシネーションに近い判断です。ヨシノさんに関するほんのわずかな情報と、なずなさんの妄想に近い情報をAIが演算と推定を繰り返していくなか、ヨシノさんとなずなさんがつながってしまったというイメージです。
ーー本作の最後のページ、優し気なヨシノと対照的なミズスギの姿が印象的でした。
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ひらめき:物語を考えていくなか、はっきりとした結論は出なかったので、ヨシノさんとミズスギさんが対照的になるように本作を締めました。実際にはなずなさんとヨシノさんには美しい交流はなかったけれど、ヨシノさんはなずなさんの記憶を本物として受け入れました。ただヨシノさんの考えや言動は、なずなさんの本質や事実をないがしろにすることでもあると思います。
本作の終盤に出てくるヨシノさんは、他人のよくわからない記憶を植え付けられてしまった後のヨシノさんです。傍から見て「この人、ちょっと大丈夫?」と思える感じになるといいなと思いながら、序盤とは異なるヨシノさんの表情を描けたかなと思います。
ーー「地方と中央」というテーマで作品を描き続ける理由は?
ひらめき:私は今、どちらかというと地方寄りの地域に住んでおり、仕事を通じて農村で生活する方々と関わる機会が多くあります。仕事に従事するなか、地方は厳しい状況にあることを肌で感じる機会があり「地方の危機感を描けたらといいな」と思ったことが本シリーズの創作のきっかけです。
ただ感じたことをそのまま描くと、ただの体制批判になってしまいます。地方の中で私が感じたのは、地方で生きている人たちの美しさです。自分たちの土地を守るなど、悩みや苦しみを抱えながらも、役割を全うしている方々が地方には多くいらっしゃいます。地方に住む人々の生活や存在感を伝えられたらいいなと思い作品を描き始めました。
ーー今後の活動について教えてください。
ひらめき:再び「COMITIA」で作品を出展したいと思っています。ただ現在は「何を描こうか」と悩んでいるところで、本シリーズも「このまま描き続けていいのかな」という気持ちがあり更新を一旦ストップしていました。
ただ本作を「COMITIA」で頒布したり、SNSに投稿すると、読者の方から感想をもらえたりなど反響があったので、もう少し本シリーズの続編を描いてみようと思います。
(文・取材=あんどうまこと)
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