
生涯ひとりで生きることが前向きに捉えられるようになってきた。ひと昔前は“孤独な老後”とネガティブに思われがちだったが、時代は変わり「ひとりで死ぬ」準備にいそしむ女性たちに話を聞いた。
生涯未婚率は男性が約28%、女性が約18%
コメディータッチで女性の終活について描くドラマ『ひとりでしにたい』(NHK総合)が話題を呼んでいる。
「綾瀬はるかさん演じる主人公の鳴海の叔母・光子(山口紗弥加)が孤独死するところからストーリーは始まります。憧れだった叔母が最期は悲惨な亡くなり方をして、鳴海も老後について真剣に考え始める。老後に不安を抱えている女性は多いと思いますが、綾瀬さんが明るく背中を押してくれるような作品で、元気づけられる視聴者も多いのでは」(ライターの津田春子さん)
'24年の生涯未婚率は、男性が約28%、女性が約18%と過去最高を記録。これは50歳時点で一度も結婚したことのない人の割合を示している。
過去20年間で急激に増加したという未婚者たち。50歳を過ぎた女性はどう老後を考えているのだろうか。楽しく終活をしている女性たちに話を聞いた。
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【ケース1】「選ばれる立場から“選ぶ私”に」佐藤舞さん(仮名・54)
「30代の中盤から婚活を始めて、好きでもない男に、なんで媚びなきゃいけないんだろうって。結婚相談所に10万円という高いお金を払って微妙な男たちに品定めされて……。そんなことまでして結婚したくない!と決めたら楽になったんです」
と、話すのは佐藤舞さん。30代に入ったころ、周囲の友人が続々と結婚していった。「35歳過ぎると羊水腐る」というタレントの発言が大炎上していたころだった。
「その発言はあながち間違っていないなと思ったし、私も子どもを産むのが当たり前だと思っていた。だから婚活を始めたんです。結婚相談所に10万円も払って。
でも好きでもない男になぜか1回会っただけでお断りされるという屈辱を数十回も味わって。彼らは選ぶ側なんですよ。それに気づいたとき“なんで私が選ばれなければいけないの? 私は選ぶ側でいたい”と思ったんです」
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気づきを得てからの佐藤さんは早かった。
「これからの自分の人生、すべて自分で選ぶんだ、と思ったんです。そう気づいてからは選択肢の一つひとつがとても大切になった。何げなく選んでいた帰り道も“森林浴ができるから、あの道にしよう”という小さなことから、風邪をひいたときに“何かあったら総合的に診てもらえる大病院にしよう”とか。今後生きていくために心地よい選択肢を考えるようになった」
50歳を超え猫とのご縁が。
「猫って長くて20年近く生きるっていうでしょう。51歳のときにこの子に出会って、71歳までは意地でも健康でいようと思いました。旅行に行くときは近くの友人に餌を頼んだり。責任感が生まれて逆に生きる気力が湧いたんです」
佐藤さんは前向きだ。
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「氷河期世代なので非正規雇用のままこの年齢。子どももいないからひとりで食べていくには十分だし、わずかだけど貯金もできている。ただ、年金に頼れないから働けるうちに少しでも多く働かないと」
と、現在3つの職場を掛け持ちしているというが、その瞳は明るかった。
年をとって大切なのは同性の友人
【ケース2】「友人2人を死守しています」武田ケイさん(仮名・61)
「ひとりで死ぬことと孤独死ってイコールじゃないと思う」
と話すのは、神奈川県在住の武田ケイさん。
公務員を昨年、退職。今は関連先企業でパートタイマーで働いているという。
「昨年、子宮筋腫が見つかって入院したんです。そのときに困ったのが入院保証人。親きょうだいはもう他界していないし、結局友人が保証人になってくれたんです。この先いろんな場面で保証人が必要になる。そのときに友人2人は死守しなければと(笑)。もちろん自分も友人の役に立ちたいし」
以来、友人とは積極的に連絡をとるようにしたという。
「友人が追っかけているアーティストのライブなどに付き合ううちに私も推し活の楽しさに目覚めたし、疎遠になっていた子育てしている友人とも、彼女たちの子どもが巣立ったことで付き合いが再開しました。60歳を過ぎてからまた友人との青春が始まった感じ。やっぱり年をとって大切なのは同性の友人だなと思いますね」
武田さんは60歳を超えてからの青春を楽しんでいる。
【ケース3】「60歳を過ぎてから近所付き合い始めました」吉野智美さん(仮名・66)
「マンションの管理組合のテニスサークルに入ってから人生変わりましたね」
と話すのは、千葉県に住む吉野智美さん。コロナ禍の’20年に近所付き合いを始めたと話す。
「フリーランスで仕事をしているので、自宅でできるリモート作業は苦じゃなかったんです。ただ、誰とも会えないのが寂しくてマンション内の会合に始めて顔を出したんです」
すると世界は一変したという。
「これまで顔を合わせても会釈する程度だったご近所の方のパーソナルな一面が見えて“意外と面白い人なんだな”とか、知らなかった一面が見えて」
吉野さんが住むマンションは1LDKの間取りからか、おひとりさまが多いという。
「同じような境遇の人が多くて親近感が湧きましたね。私は元夫の不倫で離婚して慰謝料としてマンションをもらったんです。私のようなバツイチからもともと独身の方まで幅広く、男女問わずみんなここを終のすみかにしようとしているから助け合いが必要だねって」
マンションの管理組合が運営しているサークルにも顔を出すように。
「階下の人も入っているんですけど、自分がひとりで死んだとして迷惑をかけるのは階下の住人じゃないですか。例えば死後何日もたつと溶けて下の階まで腐敗したガスや液体が漏れるとか。だから週1のサークルに連絡なく欠席したら鍵を開けて、と頼んでいます」
余計に明るさや前向きさが必要
ご近所コミュニティーは何よりの終活かもしれない。
高齢化が進むにつれて、ひとり暮らしの高齢者、特に女性の割合が増加している。それに伴い「おひとりさまの老後」への不安や関心が高まっている。
そんな中、孤独死、介護、終活という重くなりがちなテーマを底抜けに明るく綾瀬はるかが演じる『ひとりでしにたい』。
「ひとりで生きる女性が終活を前向きに捉える同作は、これからの時代にふさわしいかもしれないですよね。40代後半から50代前半の氷河期世代のおひとりさまが増えています。彼らは非正規だったりして老後の不安が多い世代。だから余計に明るさや前向きさが必要なんだと思います」(前出の津田さん)
内閣府の調査によると、2020年の時点で、65歳以上の単身高齢者の女性は約440万人。今も増加傾向にあるという。「ひとりでしぬ」ことが当たり前になれば、孤独死なんて言われない?
「人はひとりで生まれてきてひとりで死ぬことが当たり前なんだから、そもそも孤独死っていう言葉がおかしいんですよね」(津田さん)
最後までひとりで楽しく過ごせたら─。