宇野昌磨『IceBrave2』インタビュー前編(全3回)
7月18日、東京都内。宇野昌磨はアイスショー『Ice Brave2』開催に関する取材を受けるため、昼過ぎには東京ミッドタウン日比谷内にある「LEXUS MEETS」のラウンジに入っている。「トヨタイムズスポーツ」のYouTube生配信で、ファン向けに発表した直後だった。各メディア30分弱のインタビューで、周りのソファには各紙の記者やテレビ関係者が順番を待っていた。
「見どころは全部です」。そう語っていた『Ice Brave』は大盛況で、初のプロデュース作品は大好評だった。結果、続編開催が決定した。それは彼の作品がファンに届いたことを意味していた。
ラウンジで取材を受ける宇野は、とても落ち着いた様子だった。仕立てのいいグレーのスーツ上下で、なかに黒いシャツを着こみ、首元には金色のネックレス、鮮やかにふわりとした金髪でカラーコーディネートがされていた。眉も髪の色に合わせ、エキゾチックな雰囲気だ。
競技者時代も会場の熱気を自らの力に還元できるタイプだったが、プロになってからは意識的に自己表現への注力が増した。観客との対話が感じられたショーは、じつに熱っぽかった。
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【ファンと呼応してつくり上げるショー】
ーー今年11月〜来年1月に『Ice Brave2』開催が発表されました。京都、東京、山梨、島根、宮城と全国での公演が決定。新しいキャストも加わりますが、それもひとえに『Ice Brave』の成功によるものしょう。本当におめでとうございます。
宇野昌磨(以下同) ありがとうございます。
ーー宇野さんは、「観客が入って完成する」と『Ice Brave』について話していましたが、まさに観客との呼吸が感じられ、その熱が舞台を盛り上げ、最高のパフォーマンスをつくり出していました。
自分が現役だった時代も、応援が力になる瞬間はあったんです。競技中、ダイレクトに、タイムリーに応援が励みになるんですが、それは緊張にもなり得るんですよ。それがアイスショーに関しては、応援が大きければ大きいほど、スケーターのボルテージが高まるところがあって。
僕たちがつくっているアイスショーがよいものなんだ、楽しんでくれているんだというアンサーが返ってくる感じです。お客さんが歓声をくださったからこそ、いいショーができたという気持ちで、「もっと、もっと」って気持ちになるんですよね。
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ーーショー冒頭の『Great Spirit』で、宇野さんがリンクサイドのファンに向かって猛スピードで駆け寄り、指を差してポーズを決めるところで一気に会場の興奮が高まったのが印象的でした。つかみから"演出"をしているなと......。
競技と違ってショーはファンの皆さんのためにやっているものなので、会場に足を運んでくださるファンの皆さんに少しでも楽しんでもらいたいという一心です。僕たちが最高のパフォーマンスをすることで大きな拍手をもらって、それでいいものを届けられているという一体感が会場全体に生まれて、自分たちも「いいショーだった」と思える。だからこそ、「みなさんのおかげです」と何度も言わせてもらっていますね。
【つくりものではないスポーツを伝える】
ーー個人的にフィギュアスケートは底知れない力を持っていると思っています。自分は過去にスペイン・バルセロナに住んでいて、2005年に初めて浅田真央さんのGPファイナルを取材した時、感動して涙が出てきました。当時はフィギュアを何も知らず、背景も知らなかったのに、それは衝撃的でした。そんなフィギュアスケートの力をどうエンタメとして変換しようとしていますか?
僕の場合は、選手としてフィギュアスケーターをやっている間も、その界隈にはあまり溶け込めていない部類だったので(笑)。言い方は難しいんですけど、SNSで発信している自分のほうが考え方は近いかもしれません。スケートそのもので感動するよりも、その人の努力やストーリーを見て感動することのほうが多くて。
だからこそ、プロになって僕自身が知りたいのは、どうすれば皆さんに感動してもらえるのか。感動って最高のリアクションだと思う。そのためにどうするか。自分の場合は努力することじゃないですけど、熱量をこめればこめるほど、感動に直結するのかなって。
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フィギュアスケートの力についての解答にはなっていないかもしれませんけど......スポーツってつくるものだけど、つくりものではないところがあって、労力や熱意が垣間見える瞬間に人は感動するんじゃないかって。そういうショーを僕はつくりたいし、『Ice Brave2』で構成のひとつに入れてもいいかなって思っています。
ーー『Ice Brave』はフィギュアスケートとエンタメを両立させたものでしたが、その点、若々しいスケーターたちの躍動のなかに、現役時代のコーチであるステファン・ランビエールがいたことが、ショー全体に重みを与えているように感じました。ランビエールのスケートは大人の色気があり、それもショーが好評を博した理由のひとつだと思います。『Ice Brave2』では残念ながら不在(競技活動のコーチをするため)になりますが......。
ステファンの代わりは想像しきれてないですね。ステファンは師匠というか、関係性も特別じゃないですか? そもそもコーチであれだけ滑れる人なんてなかなかいない(笑)。今は、「こんな挑戦したい」というのはいくつか考えているんですが、ステファンが抜けて、何をすることで「1」よりいいと思ってもらえるか。そこはプロデューサーとして考えないと......。
ーー個人的には、今回、『Gravity』や『Timelapse』を滑っていたランビエールは芸術の域で、インスピレーションを与えるような手本にも見えました。スローな曲はスケーティングの粗(あら)が出やすいのに完全無欠の滑りで、彼の世界に人々を引き込んでいました。
現役時代、『Gravity』は振り付けもステファンだったので振り付けをしてもらっている間も、僕よりもこの人が滑った方が絶対にうまいだろって思っていました(笑)。そこで『Ice Brave』では、『Gravity』はステファンにやってもらうかと思ったんです。だから、僕よりもうまいんだから当然じゃんって驚きではなかったですね。『Gravity』は(デュエットで)一緒に滑ろうかとか、いろいろ案はあったんですけど。
中編につづく
【プロフィール】
宇野昌磨 うの・しょうま/プロフィギュアスケーター。1997年12月17日、愛知県生まれ。現役時代には全日本選手権優勝6度、世界選手権連覇、2018年平昌五輪銀メダル、2022年北京五輪銅メダルなど華々しい成績を残す。2024年に現役引退し、現在はアイスショー出演などプロスケーターとして活躍している。2025年6月〜7月に自身が初めて企画プロデュースしたアイスショー『Ice Brave』を名古屋、新潟、福岡の3都市で開催。同年11月〜2026年1月には『Ice Brave2』を京都、東京、山梨、島根、宮城で開催予定。