限定公開( 1 )
『猫と星屑』(駒草出版)が2025年7月に刊行された。本書は数ページのSF的漫画作品が39編も収録された短編集だ。
参考:【漫画】「ハルジオン」「宇宙一怖い本」ほか 『猫と星屑』を試し読み
宇宙大戦が起こる世界の平和と恐ろしさを描いた「宇宙一怖い本」、少し不思議な世界を舞台にしたおとぎ話「この物語にはどんでん返しがある」、頭の中に妹が住んでいる男の子の日々を描いた「妹の音」などーー。
それぞれに雰囲気の異なる短編が詰まった『猫と星屑』は、1冊の書籍としてどのようにつくられたのか。作者・猫オルガン氏に話を聞いた。(あんどうまこと)
ーー本書に収録された作品の選定について教えてください。
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猫オルガン:収録作品はpixiv(漫画などの作品を投稿できるSNS)で発表したものから選んでいます。候補となる作品は500本程あり、まずは約150本まで絞ってからとくに自分が好きな作品、読者からの感想が多く寄せられたものを選びました。僕は2022年までデジタルツールではなく紙とペンを用いて漫画を描いており、本書に収録されているお話はすべて紙とペンで描いた作品です。
また、「ハルジオン」「妹の音」「embrace」は今の自分に描けるかわからない作品なので、本書のラインナップに必ず入れたいと思っていました。
ーーなぜ「今の自分に描けるかわからない」?
猫オルガン:作品をつくるとき、まずアイディアを思いつきます。そして作品の最後で「こういうことだったのか」と読者を驚かせられるように構成します。
ただ「妹の音」などは最後に種明かしをするのではなく、最初にネタを晒した状態で始まる作品です。とてもシンプルすぎる作品と言いますか……。
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ミュージシャンはコードをたくさん覚えると、メロディーの幅も広がることでしょう。ただ少ないコードでつくったときの曲が良かったりすることもある。「妹の音」もそんな作品であり、知っている表現方法が少ないからこそ「当時の自分はどうやってつくったんだ」と思ってしまう作品です。
また自分の表現方法が少ない頃に描いた作品には、技術が乏しいからこそ自分の感情がとても乗っているので、今でも思い入れがあります。
ーー本書に収録される作品は世界観やその設定の緻密さもさることながら、現実とは異なる世界で暮らす人々の人間味も巧みに描かれていると感じます。物語のアイデアはどんな時に思いつきますか。
猫オルガン:例えば「宇宙一怖い本」は『三国志』を読んでるときに思いついた作品です。カッコいい武将や軍師がたくさん出てくる『三国志』ですが、調べていくなかで『三国志』の時代には歴史上でも類を見ないほど、多くの人が亡くなってしまったことを知りました。
今の僕らが『三国志』を俯瞰して見ると「武将がかっこいい」とか「戦略が素晴らしい」と思えますが、おそらく当時の人たちにとっては最悪の時代であり、かっこいい武将のことなんてどうでもよかったんだろうなって思って。そんな考えが作品の構想につながっています。
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ーー短編のタイトルには楽曲や文芸作品をオマージュしたものが数多く含まれていると感じました。
猫オルガン:おっしゃる通り短編のタイトルには好きな作品のオマージュなども含まれています。
39編の中でも個人的に「魔女旅に出る」「妹の音」「風が吹けば桶屋が儲かる」は好きなタイトルです。
とある本に書いてあった「タイトルはエンディングの後にくる」という言葉がすごくいいなと思って。タイトルだけ見てもどんなお話かわからない、けれど興味が惹かれてしまう、そして作品を読み終えたあとにタイトルの意味がわかるーー。そんなタイトルが好きです。
ーー本書のジャケット(表紙)をデザインするなかで意識したことは?
猫オルガン:僕の漫画を全く知らない人が、ジャケットを見ただけで買おうと思えるジャケットにしようと思いました。
僕自身、未だに音楽をCDで聞くタイプです。CDと同じように、たとえ本の内容を全然読まなくても、この本を飾っておきたいと思えるくらいかっこいいジャケットにしたいと思いながらつくりました。
本作に収録した作品はすべて紙とペンで描いた作品ですが、ジャケットのイラストも紙とペンで描き下ろしたものを採用しています。
ーー数ページの短編が数多く収録されている点もCDアルバムに近いですね。
猫オルガン:音楽が好きで、とくに4〜5分程のポップソングが好きなんです。そのため本書も短い作品がたくさん詰まったCDやレコードをイメージしてつくりました。
本書のあとがきには、収録作のタイトルの英語版が描かれたレコード風のイラストも掲載しています。まるでCD・レコードを手に取る感じで、本書を読んでいただけたら嬉しいです。
(文・取材=あんどうまこと)
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