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教育のデジタル化を巡る議論を深めるためには、客観的なエビデンスに基づく議論が不可欠だ。OECD(経済協力開発機構)は国際的な教育政策に中立的な立場から調査を行い、データを提供する。
OECD教育スキル局就学前学校教育課(PISA担当)の小原ベルファリゆり氏へのインタビュー後編では、日本の教育のデジタル化の国際的な評価や、AI活用など教育デジタル化の今後の展望について掘り下げていく。
●日本の教育のデジタル化 国際的な評価は?
――日本では、GIGAスクール構想を通じて、教育デジタル化を推進しています。このような動きは他国にもありますか?
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日本のように教育のデジタル化を推進する動きは、各国でも起こっています。デジタル化は端末やネットワークの整備だけでなく、教材やコンテンツの充実、端末を活用したテスト(CBT)の実施、教育データの整備、政策への反映など多岐にわたります。何を重視するかは国によって、これらの中で、どこに注力しているかは差があります。
他国と比べた際、日本は端末やネットワーク環境の整備に力を入れている点が特徴的です。これは、ルクセンブルクやベルギーなどと共通しています。公平性を重視し、全ての生徒がICTインフラへアクセスできる環境の整備を、政府が主導している国々です。
デジタル教科書に関しても、日本のようにデジタルと紙を併用する国はいくつかあります。例えば、フィンランド、メキシコ、韓国などです。
アイルランドは、日本と同じくPISA(OECD生徒の学習到達度調査)で高い学力を維持しながら、デジタル化に積極的に取り組んでいます。日本にとって、参考になるのではないでしょうか。
また、小中学校ではなく大学の話ですが、国主導で大学レベルのオンライン学習プラットフォーム「JMOOC」の整備は特徴的です。多くの国が大学レベルのプラットフォーム整備を大学や地域に委ねる中、日本のように国が戦略的に取り組んでいるのは珍しい事例です。
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――日本の教育のデジタル化における課題はありますか?
OECDのデータでは、日本は導入が進んでいる割に使用率の低いことが示されています。例えば、デジタル教科書は小学校と中学校の英語などで一律導入されていますが、デジタル教科書の公立校での使用率は36.1%(2022年)にとどまります。この背景は、現場の準備不足や教員の理解不足、抵抗などが考えられます。
また、教育のデジタル化が進む国々では、国や自治体が主導してAIを積極的に導入するための戦略を策定し、学校現場での活用方法を検討しています。しかし、OECDのレポートなどを見る限り、少なくとも現時点では、日本のAI活用は他国に比べて慎重であるという印象です。
●今後の世界の教育デジタル化の方向は?
――AIに関して先行している国はありますか?
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エストニアは、教育でのAI活用に積極的な国です。同国では、社会全体のデジタル化が進んでいる背景もあり「AIとの共存」を前提とした議論が活発です。そのため、AIの導入やデータ提供への抵抗感が少なく、リスク管理への信頼感があります。
教育においても、AIを導入した際の懸念よりも「AIをいかに活用して子どもの学びを深めるか」という視点での取り組みが進んでいます。例えば、教育省がAIを活用し生徒の学習データを分析し、支援を行う方向性が議論されています。
一方、他の国々ではAIのリスクに焦点を当てています。特に、子どものデータ保護やAIのバイアスの問題が議論の対象となっています。OECDは、教育現場における効果的で公正なAIの利用に焦点を当て、ガイドラインや安全対策に関する指針を教育インターナショナルと共同で発表しています。このような指針を教育現場に示すことは、AIをはじめデジタル活用にはとても重要です。
――デジタルと関連して、今後のPISAはどのように変わって行きますか?
次回の2025年の調査では「デジタル環境における学ぶ力」が評価されます。これは、デジタルツールを使って学習活動を行う過程で、どれだけ自律的に学び伸びしろがあるかを測定するものです。学習成果とプロセス両面からの評価は、教育への新たな示唆を与えると考えられます。男女間や家庭の経済状況によって格差が生じる可能性もあります。
さらに、2029年のPISA調査では、AIとメディアリテラシーが調査項目となる予定です。具体的な内容は未定ですが、今後のデジタル社会における教育の方向性を位置づける上で重要な指標となるでしょう。
●教員のデジタル活用能力の底上げに課題
以上がインタビュー内容だ。デジタル技術やAI活用の度合いを考え効果的な実践をするには、教員のデジタル活用能力の底上げとその支援、あわせて利用ルール策定に教員に積極的な関与を促すことなどが重要と考えられる。
次回は、MM総研が実施した各国の教員へのアンケート調査を基に、現場が考える教育デジタル化の機会と課題について考えてみたい。
(MM総研の中村成希、正置彩花)
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