「世界中の人たちが同じテーブルで食事を楽しむ」 料理僧の青江覚峰さんが目指す精進料理の未来

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2025年07月27日 22:00  クックパッドニュース

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クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」。食や料理に熱い思いを持ち活躍するゲストを迎え、さまざまな話を語ります。クックパッド初代編集長の小竹貴子がパーソナリティを務めます。今回は、浄土真宗東本願寺派湯島山緑泉寺住職・料理僧の青江覚峰さんがゲストの後編です。

精進料理の心掛けである“三心”とは?

小竹:精進料理は「精が進む」と書きますが、これにはどういった意味があるのでしょうか?

青江さん(以下、敬称略):精力的になるような感じに見えますよね。でも全く違っていて、仏教が最も大切にする修行に八正道というものがあるのですが、この中に正精進というのがあるんです。

小竹:はい。

青江:八正道には、穿ったものの見方ではなく正しく真っ直ぐ物事を見ましょうとか、正しい言葉遣いをしましょうとか、嘘や綺麗事などの二枚舌はいけませんといった教えが8個ある。その中に正精進というものがあって、一生懸命生き続けることを努力しましょうというものなんです。

小竹:うんうん。

青江:ここから作られたのが精進料理なんです。つまり、「料理を通して一生懸命生きることを考える」というのが、精進料理の語源になったと言われています。


お釈迦さまが衰弱していたときに食べて元気になったという「ミルクがゆ」

小竹:私と同じように「精が進む」と思っている人も多そうですよね。

青江:そうですよね。精が進むから鰻とかなのかな、と思っている人もいますよね。だから「うなぎもどき」があるのかな、とかね(笑)。

小竹:精進料理には「もどき」がありますからね。

青江:僕もよく魚もどきを作っています。つくね芋や豆腐を混ぜたものを麩に入れて、海苔をつけて形を整える。幽庵焼きにしたいときには醤油の味にして、西京焼きのときには西京味噌を入れて焼いていくんです。あと、魚の小骨を表現するために、セロリの筋を刻んでピンセットでつけていく。そうすると魚っぽくなって面白いんです。

小竹:精進料理における心掛けである「三心」についても教えてください。

青江:精進料理は肉、魚、特定の野菜を使わないので、それなら野菜料理とどう違うのかということになるのですが、その答えとして出てきたのが、三心や心遣いです。三心とは、大心、老心、喜心になります。

小竹:うんうん。

青江:料理をするときには心構えがすごく大切になります。例えば、大心。これは反対に小さい心、小心を考えるとわかりやすいのですが、すぐに動いてしまうのが小さい心になります。

小竹:私ですね。

青江:いや、みんなそうです。人間だもの。例えば、買ってきたにんじんが傷んでいたら、あそこには二度と行かないと思ってしまう。揚げものを油に入れた瞬間に電話が鳴ったら、なんで今なんだと思ってしまう。そういったイラッとする気持ちは、揺れ動きやすい小さい心です。それは同時に危ないんです。

小竹:危ない?

青江:電話が鳴って驚いて油をひっくり返しちゃったらとんでもないことになる。キッチンには油もあれば火もあれば包丁もある。だから、どんなときでもどっしりとした心である大心があることで、料理をミスなくこなすことができるんです。

小竹:そうですね。

青江:そして、イライラした状態で作った料理よりも、落ち着いた気持ちで作った料理のほうがおいしくできる。だから、しっかりと気持ちを持って料理をしていきましょうというのが、精進料理がただの野菜料理とは違うところだと思います。

小竹:小心がダメというよりも、それを受け入れた上で違うところを目指しましょうといった意味でしょうか?

青江:そうですね。私も気が短いのでイライラしたりもする。だからこそ、大心が大切だと思うことで、イライラしたときにグッと飲み込むことができるんです。みんなが超えられるハードルだったら、昔から言われ続けなかったと思うんです。みんなわかっているけどなかなかできない。でも大事だということを改めて教えてくれる。そんな教えがたくさん詰まっているのだと思います。

小竹:ダメな自分を責めるわけではないということですね。

青江:みんなダメなんですよね。そのダメな自分をちゃんと認識した上で、1歩先に進むための指標として大心といったものがある。できる人なら、できているから忘れていいものですが、これだけ大切にされているということは、みんなできないからだと思います。

小竹:この教えは料理だけではなく、暮らしや生き方にも通じるものですね。

青江:おっしゃる通りです。例えば、老心というのは、さまざまなものを大切にしていくこと。お客様を大切にしたり、食材を大切にしたりしていく。にんじんの皮とかとうもろこしのひげなども全て無駄なく使っていくというのは、もったいないという気持ちもありますが、全てのものを命として捉えていくということ。人の場合なら、どんな人であっても、大切な命として1対1できちんと向き合っていく。食材なら、にんじんの皮でもナスのヘタでもピーマンの種でも、同じ命として、トリュフと同じくらい大切に扱っていくということですね(笑)。

小竹:どうしても華やかで高価な食材を大切にするような流れがありますが、精進料理は皮やひげなども全て含んだ上で大切にしようという考えなのですね。

青江:命に対しては重い軽いというのはない。大統領であれ、子どもであれ、どんな人でも同じ1対1の人間として大切に扱っていく。食材も同じで、トリュフであれ、にんじんであれ、安かろうが高かろうが関係なく、1つの食材として、1つの命として、ちゃんと向き合って使い切っていく。そういうことをやっていけば、おいしい料理も作れますし、知恵も絞っていろいろなことを楽しむこともできる。そうすれば、料理は楽しいという気持ちにもなってくると思います。

小竹:料理でもハレとケの料理がありますが、精進料理はハレのイメージがありますが、本当はケの部分を大事にしているのでしょうか?

青江:おっしゃる通りです。僕は柳田國男先生のハレとケを用いていますが、ハレというのはいいことだけではなくて、特別な日という意味。ケというのは普段の日のこと。冠婚葬祭がハレで、普段のそうでない日がケなので、コロナ前は毎日がどんどんハレになっていたと思うんです。

小竹:そうですね。毎日違うものを食べなきゃみたいな感じですよね。

青江:我々が子どもの頃って、そんなに外食をしなかったじゃないですか。でも、今は毎日外食が当たり前といった感じ。そうなると、ハレとケの差がどんどんなくなっていって、毎日がフラット化してしまう。それはそれで豊かかもしれないですが、フラットになっていけばいくほど、自分がどこで力を出せばいいか、どこを大切にすればいいかというのが、わかりにくくなると思うんです。

小竹:はいはい。

青江:そういった意味では、コロナがあったことで、自宅で料理を作るようになった。そんなときに僕もすごくお世話になったサイトがあるんです。クックパッドというんです(笑)。

小竹:ありがとうございます(笑)。

精進料理が海外で人気を集める3つの理由

小竹:青江さんはアメリカでMBAを取られて、最近もアメリカによく行っていますよね。精進料理は海外でも人気なのですか?

青江:おかげさまで海外の方にもすごく人気です。いろいろな方とお話をして気づいたのですが、人気の理由は3つあります。1つ目は、精進料理は、肉、魚に加えて、玉ねぎ、長ねぎ、ニラ、にんにく、らっきょうなど、特定の癖の強い野菜も使わない。そうすると、いろいろな文化の方が食べることができるんです。

小竹:宗教を問わずですね。

青江:イスラムの方は豚肉を食べられないし、ユダヤの方は牛と豚の合い挽き肉など、混ざっていると食べられない。そういったことがなく、どんな宗教の方でも大概食べることができるのが精進料理。だから、同じ釜の飯を食べることができるんです。

小竹:みんな同じものをストレスなく食べられるのですね。

青江:2つ目が、全てのものを最後まで使い切って無駄を出さない。これはヨーロッパでは特に言われていますが、フードロスの削減やSDGsなど、社会的に必要とされるものとの親和性が非常に高いことですね。

小竹:食べることだって、環境にいいことをしたいと思う方は多いですよね。

青江:そうなんです。ヨーロッパではそこに価値を見出してくださる方が多くいらっしゃいます。3つ目は、和食であり野菜中心なので健康志向であること。これに関しては私も専門家ではないので、どのくらい健康的なのかはわからないですが、そういったイメージも相まって、海外で精進料理の人気は非常に高いです。

小竹:青江さんの感覚では、特にどの国で人気が高いですか?

青江:アメリカならニューヨークなどの東海岸ですね。ヨーロッパだと国際会議が行われやすい国というか街ですね。ルクセンブルクとかフランクフルトなど。国際会議が開かれやすいところで興味を持つ方が多いのは、いろいろな方がお越しになった際に、みんなが食べられるものは何かということを常々考えている方が多いからかなと思います。

小竹:国や地域によって、精進料理の捉え方も多様になっている感じですか?

青江:僕の肌感覚で言うと、和食とかフレンチとかイタリアンというようなカテゴリーの1つとして精進料理があるのではなく、カテゴリーが縦だとしたら横。イタリアンの精進料理とはなんだろうというように考える方が多くいると思います。

小竹:それぞれ人によって宗教があるじゃないですか。その中に横軸で入り込むものというのはすごく珍しいですよね。

青江:そうですね。もちろん精進料理も宗教がベースにはなっているのですけどね。「Spiritual But Not Religious」という言葉が世界で今流行っているのですが、宗教だけど、それは信じるという意味の宗教ではなく、もう少しふわっとしたスピリチュアルな感じで捉えていくということなんです。

小竹:うんうん。

青江:宗教にドボンと入りたくはないけれど、宗教には大切なところもあるから、そこはしっかりエッセンスを捉えていきたいというような考え方が、ここ10年程でアメリカを中心にどんどん広がっていっているんです。その一環として捉える方が非常に多くなっているのではないかと感じています。

小竹:宗教というより哲学みたいな考え方ですかね?

青江:そうですね。そもそも仏教自体が、信じるか信じないかというよりも、リスペクトに近いものだと思います。

小竹:ほかの宗教とは少し違いますよね。

青江:仏教というよりも、日本の宗教観がこちらに近いと思います。例えば、日本人はクリスマスには教会に行ってメリークリスマスと言って、その後31日には除夜の鐘をお寺でつき、年が明けたら神社に行く。これがとんでもないとはならないわけです。

小竹:うんうん。

青江:各々の神様、仏様に対してのリスペクトがある。ビリーブは択一になるので信じるか信じないかになりますが、日本人の宗教観はビリーブではなくてリスペクトなんです。ジーザスクライストもリスペクト、仏様もリスペクト、八百万の神様もリスペクトする。だから、いろいろなところに行って、真摯な気持ちでお参りができる。それと同じことが、料理の中でも行われているのだと思います。

小竹:インターネットなどで見ると、マインドフルや精進料理を面白い表現で捉えている方もいますが、そういったユニークな捉え方も青江さんはオープンに受け入れる感じですか?

青江:そうですね。結局、仏教の歴史はそういったことのくり返しだと思うんです。インドから始まった仏教が中国を経て、朝鮮半島を経て、日本にやってくる中で、いろいろな民族、いろいろな時代によって変遷されているし、それが日本の歴史の中でさらに変わっているので、その時代時代、考え考えで、いろいろなものが組み合わさっていくわけです。

小竹:うんうん。

青江:現代ではまたそれにいろいろなものが積み重なっている最中なので、そこを否定はしないし、面白いと思って捉えていくことが肝要かなと感じます。

小竹:日本の中の精進料理も変わっていったりするのでしょうか?

青江:変わっていっていると思います。僕の知っている大きなお寺で、乳製品がNGというところがあります。牛乳は動物性たんぱく質なのでダメだと。とはいえ、乳製品は昔の文献を紐解くと飲んでいたので、朝は毎日ヤクルトが精進料理の後に出るというお寺もあったりするんです。

小竹:おもしろい!

青江:そのあたりは考え方の違いで、どの時代の精進料理なのかによって、物事の考え方は違ってくるので、どちらも僕は正解だと思っています。ダメだというのもわかるし、この時代は飲んでいたのだからいい。それを現代風にアレンジするのならヤクルトだというのもありだと思います。

小竹:三心の心がありますね。

青江:思考停止をしたらダメだと思うんです。考え続けた挙句、最終的にヤクルトを出してみようというアップデートをし続けるところにすごく価値があるし、だからこそ、これから先も価値が伸びていくのではないかと思っています。

精進料理で世界を平和にしたい!

小竹:青江さんには3人の娘さんがいらっしゃいますよね。精進料理の中にある、命をいただくという感覚をこれからの未来に伝えていくには、どういったことが大事だと思われますか?

青江:まず、うちの子育てで一番大切にしているのは、ちゃんとおいしいものを出すということ。食べることが嫌いになったら、そもそもダメだと思うんです。食べることは明日の自分たちの体を作ること。それをちゃんと認識するためにも、食べることは楽しいしおいしいというのは必ず担保しないといけないといつも考えています。


お子さんのために青江さんが作るお弁当

小竹:そうですよね。

青江:その上で、食前のいただきますなど、当たり前のことだけを伝えていく。いただきますという言葉の背景までちゃんと考えてほしいんです。いただきますを食前の言葉として使うようになったのは、実はここ70年くらいなんです。昭和26年頃です。

小竹:それを最初に聞いたとき、びっくりでした。

青江:昭和26年というと、日本でラジオ放送が始まって、それが各家庭に広がった頃なんです。戦前、戦中くらいだと、街頭ラジオがあったのですが、各家庭に1台ラジオが広がった。そして、ラジオを通していろいろなニュースが流れたんです。

小竹:うんうん。

青江:「昨今、学校では給食というものが始まりました。今まではお母さんがお弁当を作って持たせていました。でも、これからは学校側が給食を用意して、子どもと先生が一緒に食べる。食べる前にはいただきます、食べた後にはごちそうさまでしたという言葉を唱和いたします」みたいなことが、ラジオを通して全国のお茶の間に流れていく。そして、お茶の間のみなさんもいただきますとごちそうさまと言おうという流れになった。

小竹:それまでは言っていなかったというのも驚きですけどね。

青江:言っている方もいらっしゃいました。ただ、多くの家庭では、そもそも一緒に食べるという文化がなかった。家長制度が昔はあって、例えばおじいちゃんが家長なら、おじいちゃんがご飯を食べて、食べ終わってからほかの人が食べる。あとは、1〜2口食べて、「みんなどうぞ」と言ってから食べる。そういった食事の仕方が多かったと言われています。

小竹:家族団らんは最近の話なのですね。

青江:そうなんですよね。あとは、文化的にも各々で食べていたんです。お盆に乗っていて、各自が出されたものを食べていく。それが戦後に物が減ったこともあり、大皿で取り分けるようなスタイルが始まった。そういったものが相まって、食事の風景が変わってきたのが、昭和26年頃だと思っています。

小竹:そのようにお子さんが育っていたら、やはりおいしいものが好き?

青江:食いしん坊ですね。最近は長女がコーヒーにはまっていて、コーヒー屋さんでバイトも始めました。バイト代が貯まったら、コーヒーミルを買おうかと話していますね。

小竹:そういった会話を家族みんなで楽しんでいるということですね。

青江:食い扶持を稼ぐという言葉があるように、食べるというのは、やはり生活の中心になる。人生の中で一番長く行う行動が呼吸。赤ちゃんは生まれた瞬間にオギャアと声を出して泣き、息を吐いて吸う。次に行うのが、お母さんのおっぱいを飲む。これがずっと一生を通して行う活動なわけです。

小竹:うんうん。

青江:呼吸から食事、そして最後、食事が摂れなくなって、文字通り息を引き取る。だから、人生で一番長く行うのが呼吸。そして、呼吸に対してちゃんと向き合っていこうというのが、座禅とか瞑想になっていく。その次に長く行うのが食事なので、すごく大切だと感じますし、その大切な食事とちゃんと向き合うために、いただきますとごちそうさまという言葉は大事だというのは家族や子どもたちに対して常々伝えるようにしています。

小竹:これからやってみたいことは?

青江:世界の人たちがみんな笑顔で同じものを食べるテーブルを作っていきたいです。精進料理ならそれを8割は達成できると思うんです。精進料理を出せば、どんな方でも同じテーブルにつくことができるので、そこでみなさんが楽しくご飯を食べる。

小竹:うんうん。

青江:でも、精進料理は宗教がどうしても出てくるので、残りの2割は宗教的にそれはちょっとと思う方も絶対にいらっしゃいます。そこをちゃんと対話をしながら解決していくと、本当に世界中の人たちが同じテーブルで楽しくご飯を食べることができる。これができると、絶対に世界は平和になると思います。

小竹:そうですね。今、世界中でたくさんの争いが起こっているのでね。

青江:みんなが仲良く食べればいいのですが、それができないから争いにもなる。そこを目指すための一助に精進料理を活用するのが、僕が一番やりたいことですね。

(TEXT:山田周平)

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【ゲスト】

第36回・第37回(7月4日・11日配信) 青江覚峰さん


浄土真宗東本願寺派湯島山緑泉寺住職・株式会社なか道代表取締役・料理僧/1977年生まれ、東京都出身。米国カリフォルニア州立大学フレズノ校にてMBA取得。料理僧として料理、食育に取り組む。日本初・お寺発のブラインドレストラン「暗闇ごはん」主宰。超宗派の僧侶によるウェブサイト「彼岸寺」創設メンバー。著書に『お寺ごはん』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ほとけごはん』(中公新書ラクレ)など。海外での精進料理公演などの実績も多い。『世界一受けたい授業』をはじめ、テレビ・ラジオ、Webなどメディア出演多数。2023年5月に開催されたG7広島サミットにおいて精進料理のプレゼンテーションを行う。

HP: 緑泉寺
Instagram: @kakuhoaoe_nakamichi0316

【パーソナリティ】 

クックパッド株式会社 小竹 貴子


クックパッド社員/初代編集長/料理愛好家。 趣味は料理🍳仕事も料理。著書『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』『時間があっても、ごはん作りはしんどい』(日経BP社)など。

X: @takakodeli
Instagram: @takakodeli

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