小山宙哉による人気漫画『宇宙兄弟』がついに46巻で完結することが発表された。7月23日に発売された第45巻の帯には「次巻完結」の文字が刻まれ、2007年の連載開始から18年にわたる長い旅路が終わりを迎えることとなった。
参考:【画像】『宇宙兄弟』の名言、「もし諦め切れるんならそんなもん夢じゃねえ」を英語にすると?
弟・日々人は少年時代の夢を叶え、宇宙飛行士として月面に立つ。一方、兄・六太は会社をクビになり無職となるが、弟からの一通のメールに導かれ、再び宇宙を目指す。この物語は、兄弟の夢を描いた極めてシンプルな導入から始まり、人間の可能性と情熱、そして絆を深く掘り下げる、骨太の人間ドラマへと昇華していった。
連載誌である「週刊モーニング」(講談社)は、『働きマン』『ハコヅメ』『コウノドリ』『イチケイのカラス』『ナニワ金融道』など、職業をテーマにした作品を数多くヒットさせてきた実績を持つ。その系譜に連なる本作もまた、「宇宙飛行士」という特殊な職業を扱ってはいる。だが、ただの専門職紹介に終わらず、リアルな訓練過程や選抜試験、さらには国際協力や心理的プレッシャーなど、現代社会と地続きの課題を映し出しながら、壮大かつ緻密な世界観を構築してきた。
累計発行部数3100万部を突破している『宇宙兄弟』だが、最初から順調だったわけではない。連載当初、売上は芳しくなかったという。原因は明確だった。宇宙を舞台にした漫画はそれまでほとんどヒットの前例がなかった。とりわけ女性にとって「宇宙」は縁遠く、親しみづらいテーマ。売れる漫画は読者層の7割が女性だとも言われていた漫画業界にあって、それは致命的な弱点であった。
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内容の面白さには揺るぎがなかったが、問題は「読まれない」こと。では、どうやって本作はその壁を打ち破ったのか。そこで担当編集者が仕掛けたのが、美容院という場へのアプローチだった。都内400店舗に2冊ずつ単行本を配布。女性たちの目に触れる導線を作ったのである。この戦略は功を奏し、じわじわと女性読者が増加。安定した支持を得て長期連載へとつながったことは、業界の語り草となっている。
最新第45巻では最大の山場が訪れる。六太が宇宙空間で漂流し、帰還の目途が立たない状況に。NASA、JAXA、ロスコスモスの三者が連携して軌道を割り出し、日々人の乗るソユーズでの救出ミッションが決行される。しかし、六太の酸素残量は減り続け、わずかな誤差が命取りとなる緊迫した局面に突入。読者は、兄弟の再会が叶うか否か、手に汗握りながらページをめくることになるだろう。
『宇宙兄弟』の魅力は、そうしたストーリーテリングの巧みさだけでなく、作品に込められた哲学にもある。「俺の敵は だいたい俺です」「迷ったときはね どっちが正しいかなんて考えちゃダメ。『どっちが楽しいか』で決めなさい」「グーみたいな奴がいて、チョキみたいな奴もいて、パーみたいな奴もいる。誰が一番強いか答えを知ってる奴はいるか?」「本気の失敗には…価値がある」――これらの名言は、読者にとって単なるセリフではなく、人生の羅針盤のようなものだ。それぞれのキャラクターが言葉に込めた想いが、読み手の胸に真っすぐ届き、現実の生活に立ち戻ったときにもふと蘇るような力を持っている。
だからこそ、「宇宙兄弟に大事なことを教わった」という声は少なくない。夢を諦めないこと、失敗に価値を見出すこと、他人と違っていいという肯定の力。それらは読者の心に根を張り、時に背中を押し、時に寄り添ってくれた。最終回を読み終えた時、多くの読者が寂しさ以上に「ありがとう」という気持ちになるのではないだろうか。
(文=蒼影コウ)
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