東京ヴェルディ・アカデミーの実態
〜プロで戦える選手が育つわけ(連載◆第9回)
Jリーグ発足以前から、プロで活躍する選手たちを次々に輩出してきた東京ヴェルディの育成組織。この連載では、その育成の秘密に迫っていく――。
プロになれるかどうかを見極めるポイントは、メンタル、フィジカル、技術、戦術の総合点。長く育成年代の指導に携わってきた小笠原資暁(東京ヴェルディユース監督)はそう語るが、18歳の時点でその条件をクリアするのは、簡単なことではない。
そこで近年、日本でトレンドとなってきているのが、大学経由でのJリーグ入りだ。三笘薫、守田英正など、大卒選手の活躍は日本代表でも目立っている。
もちろん、東京ヴェルディも例外ではない。
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今季のヴェルディには、自前のアカデミーで育った選手が10人登録されているが、そのうち3人はユースから大学経由でのトップチーム入りである。
ユースチームから直接トップ昇格する選手と、大学を経由する選手。そこには、どんな違いがあるのだろうか。
小笠原の言葉を借りれば、ユースチームに所属していた選手が大学へ進むケースは「3つぐらいのパターンに分かれる」という。
まずは、「もうプロは無理だから、大学へ行く選手」。次に、「大学へ行ったら、プロになれそうな選手」。そして最後に、「ユースからプロに上げてもいい。だけど、彼の場合は大学へ行かせたほうが、その後、選手としての伸びが来そうな選手」の3パターンである。
はじめのふたつはわかりやすい。いずれも、少なくとも現時点ではプロになれるレベルには達していない。だから、大学でプレーしてもらう。
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だが、判断が難しいのは、最後のひとつ。大学でプレーしたほうが選手として伸びる、というケースだ。
小笠原が解説する。
「今、プロに上げても悪くはないけど、そこで本当に成功するかと言ったら、『壁にぶち当たって折れちゃう可能性もあるな』っていう選手もいる。たとえば、能力的にはプロに行けるけれど、ジュニアからずっとヴェルディで育ってきているので、よそでサッカーをしたことがない。ここでやってきたことがサッカーのすべてだと思っているので、要するに"世間知らず"なんです。
そういうマインドの選手には、外を見せたほうがいい。大学にはいろんなカラーがあるので、『この選手の場合は、こういう大学でこういうことを身につけておいたほうが、今後の彼のためにはいいだろうな』っていうことです。
これは、ジュニアユースからユースに上げる時も一緒です。チーム的にはいてくれたら助かるから、本当はユースに上げたい。でも、その選手個人のことを考えると、外に出して、高校1年生からバリバリ試合に出たほうがいいだろうなって。そういう選手も結構いますし、実際、そういう話もしますね」
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もちろん、プロになれる可能性を秘めた選手については、大学へ進学したあとも、それぞれの動向を追い続ける。
アカデミーのヘッドオブコーチングを務める中村忠によれば、「大学へ行くにしても、基本的にはほとんどの選手がプロになりたい。行く大学もお互いに話しながら決めて、大学へ行ったあとも結果を出している選手は練習参加に呼んだりします」とのことだ。
とはいえ、一度手放してしまえば、仮に大学でプロになれる選手にまで成長したとしても、ヴェルディに戻ってきてくれる保証はない。
小笠原が「そうですね......、心のどこかで、戻ってきてくれるだろうって楽観的に思ってはいるんでしょうけど。でも、そんなことはわからないんでね」と言って苦笑するように、契約を結んだうえで大学へ行かせでもしない限り、あとは選手の気持ち次第だ。
そもそも、大学経由がひとつのトレンドになっているからといって、そのルートでプロになりたいと望む選手がすべて夢をかなえられるわけではない。
常に難しい判断を迫られる中村の言葉には、選手への期待と同時に、自戒の念もこもる。
「(大学へ行って)本当にメンタリティが変わった時には、その他の要素までガラッと変わる。もともとうまい選手がサッカーへの取り組み方から変われば、それは変わりますよね。でも、変わらない子は変わらない。だから、もったいない選手もたくさんいるんです。それを変えられるかっていうのが、指導者の役目だと思っています」
(文中敬称略/つづく)◆東京ヴェルディ・アカデミー「うまいフィルター」の弊害>>