大谷翔平の言葉に見る人生観の変化とドジャースのワールドシリーズ連覇へ重要な局面となるトレード期限

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2025年07月29日 18:10  webスポルティーバ

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後編:大谷翔平2025の進化と変化

メジャーリーグも後半戦に突入し、ポストシーズンに向けての戦いが本格化してくる時期になった。7月31日にはトレード期限が迫っており、21世紀のMLBで初のワールドシリーズ連覇を狙うロサンゼルス・ドジャースも、現有戦力の課題を解決すべく、動きに出る可能性は高い。

そんななか、大谷翔平はポストシーズンに向けて「リアル二刀流」完全復帰への階段を着実に登っている。一方で、どれほど比類なき成績を残しても、決して驕ることはない。毎日、無事試合を終えることへの感謝の意を表わすなど、2度の手術の経験も含めてその人生観も変化している様子がうかがえる。

前編〉〉〉大谷翔平「本塁打」への意識の変化

【迫るトレード・デッドラインにドジャースは?】

 7月31日のトレード・デッドラインが迫ってきた。今では、優勝をあきらめたチームから主力選手が放出されるのは当たり前となったが、すべての始まりには物語がある。かつて、メジャーリーグでは春のキャンプで整えた陣容で1年間を戦い抜くのが常識だった。そんな慣習を打ち破るきっかけとなったのが、ちょうど100年前の出来事だ。

 1922年、ア・リーグではニューヨーク・ヤンキースが、ナ・リーグではニューヨーク・ジャイアンツがペナントレースの真っただなかにいた。どちらも優勝を争うライバルは、セントルイスを本拠とするブラウンズとカージナルス。だがヤンキースは7月23日、ボストン・レッドソックスから三塁手のジョー・デューガンを金銭込みで獲得。さらに7月30日にはジャイアンツも、ボストン・ブレーブスから先発投手のヒュー・マクウィランを買い取った。どちらの補強も即効性があり、結果、両チームはリーグ優勝を果たしてワールドシリーズで激突する。

 敗れたセントルイス側からは怒りの声があがった。「ニューヨークの奴らを止めろ! 金で優勝を買っているぞ!」と。これが契機となり、メジャーリーグは補強の期限を設け、最初は「6月15日」を締め切りとするルールが導入された。これがトレード・デッドラインの起源である。

 それから1世紀。トレード・デッドラインは定着し、多くの選手が移籍するのが当たり前になっている。今、その渦中にあるのがロサンゼルス・ドジャースだ。オールスター明けにミルウォーキー・ブルワーズに3連敗、ミネソタ・ツインズとのシリーズも落としかけたが、なんとか第3戦の9回裏に逆転勝利。しかしボストンでのレッドソックス戦は再び1勝2敗と負け越し、勢いを欠いている。

 そんななか、編成本部長のアンドリュー・フリードマンが動く時が来た。彼は昨オフ、「デッドライン直前のトレードは買い手にとって不利になりがちだから好きではない」と語っていた。だが、今のドジャースはブルペンが明らかに手薄で、加えて強打の外野手も必要な状況球界関係者の間では「確実に動く」というのが共通認識だ。

 もっとも筆者は、この時期に負けが込み、弱点が露呈すること自体は、決して悪いことではないと考えている。

 ちょうど1年前、ドジャースはオールスター前に4勝8敗、7月末には2勝5敗と苦しんだ。だが、それがかえって補強ポイントを明確にし、先発、リリーフ、さらにベンチを整える絶好のタイミングとなった。首脳陣はベンチの選手を競わせ、そこで生き残ったベテラン、キケ・ヘルナンデスが9月以降も躍動し、プレーオフでも存在感を示している。今季もまた、チームが一段ギアを上げるための転換点が必要なのだ。

【ポストシーズンの「リアル二刀流」と大谷の胸中の変化】

 そんなチームの柱として揺るぎない存在感を放っているのが大谷だ。連敗中でも焦る様子はない。「連敗が続くと気持ち的には落ち込むと思う。ただ、切り替えることが大事ですし、集中するゲームのなかでリラックスするのも大事だと思う」と冷静に語った。

 昨年7月、大谷は不振のチームと同様、打撃で月間6本塁打と勢いに乗れなかったが、決して慌てることはなかった。8月は12本塁打15盗塁、9月には10本塁打16盗塁。特に9月はOPS(出塁率+長打率)1.225という驚異的な数字を残し、パワーとスピードの両方で躍動。MLB史上初の「50本塁打・50盗塁」を成し遂げた。

 そして今、大谷は「リアル二刀流」復活へ着々と歩みを進めている。7月21日のツインズ戦では、3回46球を投げ、4安打1本塁打を許したが、「球数はかさんだけど、スプリットの反応はよかったし、全体として一歩ずつ前進している」と前向きに振り返った。

 次回は7月30日、初の4イニングを予定している。デーブ・ロバーツ監督は「水曜日(30日)に投げて、その次も水曜日。自然と6人ローテーションに移行するだろう」と説明。過去6試合の登板のようにロングリリーフ役を用意しておく考えはなく、「木曜がオフで、通常のブルペンで十分カバーできる」との見立てだ。

 ペナントレースの最終盤、そして10月のポストシーズン。ドジャースの命運は、大谷の「リアル二刀流」がどれだけ機能するかにかかっている。そしてそれはMLB全体が注目する一大ストーリーだ。プレッシャーをどう受け止めるかと問われた大谷は、静かにこう答えた。

「若い頃はプレッシャーを強く感じていたと思う。でも今は、手術も何度か経験して、こうしてプレーできるだけでありがたいという気持ちが強い。1試合1試合、何事もなく終えられたことに感謝する気持ちのほうが勝っていると思います」と説明した。

 その言葉の裏には、リハビリの苦しみを知る者にしか見えない景色がある。「2回目の手術をしても、こうして投げられているのは本当に幸せです。痛みなく投げられる、それだけで喜びを感じる」。そして、力強くこうつけ加えた。「どちらか一方をやっていたとして、どこまでできるかはわからない。二刀流を長く続けていきたい」。

 大谷は常識に挑戦し続ける野球選手だ。かつては「ホームラン狙いは邪道」とされ、「二刀流は夢物語」と言われたが、大谷はその姿勢ゆえにファンを熱狂させ続ける。

 一方で、大谷の心の内には、どこか静かで穏やかな時間が流れている。「感謝」という言葉を繰り返し、結果よりも「無事であること」を何よりも大切に語るその姿は、勝利至上の世界にあって異彩を放つ。しかしそれこそが、極限の世界でしか生まれ得ない心の境地なのかもしれない。そこにあるのは単なる成績ではなく、生き方としての野球――。

 終盤戦が楽しみだ。

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