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2億年前から姿を変えずに生き残ってきたことから、“生きた化石”と呼ばれる生き物「カブトガニ」。日本国内では絶滅危惧種となっているカブトガニをマレーシアで探し、合法的に食べてみた様子が、YouTubeに投稿されました。動画は記事執筆時点で55万回以上再生され、1万件を超える高評価を獲得しています(※集合体が苦手な人は閲覧注意です)。
動画を投稿したのは、生物系YouTuberの「うごめ紀」(@UgomekiMushi)さん。昆虫や冬虫夏草(虫に寄生するキノコ)を中心にさまざまな生物を探し、写真や動画でその姿を伝えています。
以前は海岸に打ち上げられた、2〜2.5メートルもある巨大な生き物を観察する様子を紹介しました。今回は日本では絶滅危惧種となっているカブトガニを、合法的に食べてみるようで……?
世界最大の花として知られる「ラフレシア」やさまざまな巨大昆虫を見るべく、生物探検家 外村 トノムラ(@Gaison64)さん、生物写真家の眼遊 GANYU(@ganyujapan)さんと、マレーシアを訪れていたうごめ紀さん。子どものころの夢を一気に叶えるような、まさに夢のような時間を過ごした一行は昆虫採取のメッカとも呼ばれるキャメロン・ハイランドから、広大なマングローブの中にあるクアラ・セペタンという小さな街にやってきました。
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この街ではなんと、カブトガニを合法的に捕まえて食べることができるのだとか。うれしいことにカブトガニを一度食べてみたいと思っていた一行に対し、地元の方が野生のカブトガニを捕まえるための船を出してくれることになったのでした。
うごめ紀さんによると、マレーシアに生息しているのは日本では絶滅危惧種になっている「カブトガニ」とは別種の、「ミナミカブトガニ」と「マルオカブトガニ」とのこと。2種とも東南アジアの沿岸に広く生息していますが、マルオカブトガニには毒があるため、食用にされるのはミナミカブトガニなのだとか。
日本で合法的にカブトガニを食べることは非常に難しいのですが、誤ってマルオカブトガニを食べて死亡した事故もあるため、カブトガニを食べる際はよく確認しないと危ないそうです。なおアメリカにはまた別種の「アメリカカブトガニ」が生息していて、世界には全4種のカブトガニがいるのだとか。
その後一行が到着したのは、野生のカブトガニの生息地……ではなく、カブトガニの養殖場でした。残念ながら地元の方に、うまく意図が伝わっていなかったようです。野生のカブトガニを見たかったと話しつつも、初めてカブトガニに触れてうれしそうなうごめ紀さん。なお、カブトガニはカニという名前がついているものの、実はクモやサソリに近い生き物なのだそうです。
うごめ紀さんによると、食べられるカブトガニ・ミナミカブトガニはしっぽを触ると角ばっているとのこと。しかしこの養殖場にいるカブトガニのしっぽは角がなくて丸いことから、猛毒を持つカブトガニ・マルオカブトガニのようです。
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カブトガニの性別を見分けたい場合は、第1歩脚と第2歩脚の形に注目するといいのだとか。メスの歩脚の形はまっすぐですが、オスの歩脚は曲がったフック状になっているため、ここを見ると性別が判断できるのだそうです。オスはメスとつがいになるためにこのハサミを使い、メスの後ろにくっついたまま産卵期まで一緒にいるのだとか。
マレーシアではカブトガニを食べる文化があるものの、平べったいカブトガニには食べる部分がほとんどないため、食べるのはメスの卵だけなのだそうです。そんな話をしつつこの養殖場には観光用のマルオカブトガニしかいないことが分かったため、いったん引き返すことに。
その後食べられるミナミカブトガニを自分たちで捕獲するべく、ペナン島に移動した一行。現地の方に案内してもらいながら夜中の砂浜を探し回りましたが、立派なムラサキオカヤドカリしか見つかりませんでした。
野生のミナミカブトガニを捕まえて食べるのはかなり難易度が高いため、一行はミナミカブトガニを提供している海鮮料理屋を探して入ってみることにしました。ここならミナミカブトガニがいるのでは? と店内を探し回ると、生きたメスのミナミカブトガニを見つけることができました。
早速ミナミカブトガニとともに、日本ではまずお目にかかれない、巨大なシャコもいただくことに。カブトガニはこれから頭胸部を切って蒸すということで、しばらくテーブルで待っていると……甲羅(頭胸甲)にぎっしりと詰まった卵の上に、野菜がたっぷりと盛りつけられた、なんとも衝撃的な見た目のカブトガニ料理が出てきました。こ、これは……! 一体どんな味がするのでしょうか……!
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まずは大きなシャコを食べてみると、甘みが強いカニのような味がして非常においしかったとのこと。シャコは日本ではもうほとんど獲れなくなってしまっていて、東南アジアに来ない限り新鮮なシャコを食べることはできないのだとか。
続いて本日のメインディッシュ・カブトガニを食べることに。卵の粒はしっかりとした食感で、レバーのような風味がするのだそうです。卵というより肉っぽく、豆っぽい味もして、その風味がクモの味に似ていると語ります。野菜と一緒に食べると血生臭さもさっぱりして、おいしく感じるのだとか。
卵の歯ごたえは表現しづらいものの硬い粘土のようで、とにかく人生で初めて味わった感覚だったとのこと。思わずお酒が欲しくなるような味で、総合的においしかったそうですよ。
カブトガニの卵を“これこそが生物多様性の恵み”と称しつつ、かつては日本にもカブトガニがたくさんいたことを考えると、こういった食文化を日本でも楽しめた可能性がある、と話すうごめ紀さん。しかし日本ではカブトガニは絶滅危惧種となり、地域によっては繁殖地が天然記念物に指定されているため、現在の日本でカブトガニを食べることは非常に難しいです。
日本のカブトガニが激減した主な原因は、生息地である干潟が埋め立てや干拓によって物理的にほぼ消滅したこと。現在その姿は瀬戸内海のごく一部や九州の一部の砂浜でしか、安定して見ることができないそうです。同じ干潟の海産物では日本産のアサリやハマグリも壊滅していて、現在流通しているものの多くが中国・韓国産に頼っているのが現状です。
またカブトガニの青い血液は細菌の内毒素の検出薬の原料となるため、医療界で重宝されているそうです。そのため中国やアメリカではカブトガニが乱獲され、数を減らしているといいます。住みかを失ったり、乱獲されたり……カブトガニの置かれた状況は、明るいものとは言えないようです。
日本ではシャコが乱獲の末に激減してほぼ獲れなくなったほか、ウナギやスルメイカも獲りすぎで激減しているなど、“生き物がいなくなるまで徹底的に獲りつくし、開発しまくっている”という現状がある、と語ったうごめ紀さん。「そういった姿勢を見つめなおさないと生物多様性の恩恵に預かれず、だいぶ悲しい未来になると思う」と話していました。
最後はほんの少しだけ取れたカブトガニの肉のひとかけらも、卵の1粒さえも残さず、1匹のカブトガニの丸ごと全てを余すことなく完食した3人なのでした。
動画には、「すっげぇぇぇぇ…生物って未知やな〜」「やっぱうごめきさんの動画はおもろいなぁ、普通に生きてたら体験できないことを届けてくれるのはありがたい」「この人にはこれからも未知の食の探求を続けてもらって人生のフルコースを完成させてほしい」「ここまで見てる人に味が伝わらない食レポはなかなか聞けない笑」「クモの味と言って同意を得れる仲間と食べさせっこするっていい画だわぁww」「めちゃくちゃ良い動画だ…10分の尺に旅と食事と生き物(学問・研究)の3要素がバランスよく含まれている…」「うおー! 相変わらず面白い!!」「最高です」といった反響が寄せられています。
うごめ紀さんは世界中を飛び回り、撮影した昆虫や冬虫夏草などの動画や写真を同チャンネルとX(@UgomekiMushi)で公開しています。
画像提供:YouTubeチャンネル「うごめ紀」
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