不正相次ぐ「日本郵政グループ」 社長交代でも全く喜べない深刻な理由

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2025年07月31日 05:50  ITmedia ビジネスオンライン

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なぜ日本郵政で不祥事が相次いでいるのか(出所:ゲッティイメージズ)

 根岸一行新社長を選任した日本郵政の定時株主総会は、新体制歓迎ムードからは程遠い荒れた場となりました。直近で発覚した郵便配達員の不適切点呼問題をはじめ、一向に止むことのない不祥事に、業務管理体制への批判と共に抜本的改革を求める厳しい声が相次いだのです。


【画像】非常に巨大な組織を抱えている日本郵政(計1枚)


 間もなく2007年の民営化から18年が経過する中で、なぜ不祥事は止まないのでしょうか。巨大組織が抱える問題点を探ってみます。


 株主総会でも大きく取り上げられた直近の不祥事は、日本郵便の集配業務を担う約2400局で、運転手と管理者の間でのアルコールチェックなどを目的とした点呼業務を適切に実施していなかった、さらにその実態を偽る不実記録があったというものです。


 1月の近畿支社での点呼未実施発覚を受けて、全社調査をした結果、調査対象の約75%の局で不正があったという驚きの実態が判明しました。これは安全確保のための法令上の義務行為違反であり、職場ぐるみの不正行為でもあったことから、運送業務を管轄する国土交通省は同社の貨物輸送事業許可を取り消すという重い処分を科したのです。


●トラック2000台以上が使用停止に 影響は甚大


 この行政処分ではトラックなど約2500台の使用停止を命じており、この先5年間は許可の再取得ができず業務に大きな支障をきたします。日本郵便のトラック輸送は、中距離や大口集荷などで毎月約12万便の稼働があり、今後は子会社経由を含めその57%を外部委託し、残りを軽バン輸送などで代替するといいます。


 経費負担が膨らむことは確実で、今後は軽バンの使用停止も取り沙汰されており、もしそうなれば外部委託経費はますます増えるでしょう。。同社郵便事業は2025年3月期で42億円の赤字を計上しており、郵便料金値上げにより黒字化を見込んだ今期決算にも暗雲が垂れ込めています。


 日本郵政の不祥事は民営化以降、本件に至るまで断続的に表沙汰になっています。ここ数年に報道された不祥事だけでも、2023年に一時払い終身保険を国の認可前に違法勧誘していた件、2019年以前にも同様の保険勧誘事例があったとされる件。さらに2003〜24年にかけてゆうパックの配達業務委託先に対して不正な違約金を徴収していた件、2024年に発覚したゆうちょ銀行の1000万人分の顧客情報を本人に無断で保険販売に不正利用していた件などが挙げられます。


 今回の不適切点呼問題も含め、日本郵政の組織内におけるコンプライアンス意識と管理体制は一体どうなっているのかと、疑いたくなるばかりなのです。


●不正を生み出してしまう「組織風土」


 このような不正を生み出す組織風土の根源には、まず何より組織の規模があまりにも大きすぎるという問題があるでしょう。日本郵政は郵便、郵便貯金、簡易保険の3事業を扱い、全国に約2万4000局の郵便局を持って、グループ企業を含めた従業員数は約20万人を超えています。


 ただでさえ現場の隅々まで管理を行き届かせることが難しい巨大組織でありながら、現場では職員たちが少人数体制下で、郵便事業と金融事業という相互関連性の薄い複数業務を扱っています。この現実を踏まえれば、現場管理が粗雑なものになってしまうのはある意味でやむを得ないとさえ思えるのです。


●なぜ、この問題が放置され続けているのか


 このような根本的な問題が放置されている要因の一つは、自社ビジネスの現場である郵便局勤務経験のない旧官僚たちが、組織の経営および組織運営の中枢を担っているという点にありそうです。日本郵政の幹部職員は、その多くが民営化以前の公社時代に旧郵政官僚から転じており、現在も持株会社および子会社幹部層の相当数を占めています。


 上位下達の官僚文化に染まった人たちの配下では風通しなどないに等しく、机上論に偏った指示・命令が下されようとも、現場は反論・抵抗の余地がないまま指示順守優先の業務姿勢に陥り、不祥事を生む組織風土醸成の温床となっていくのです。


 この点に関しては、今般退任した日本郵政前社長の増田寛也氏が退任発表後のインタビューで、首脳陣の現場感覚が弱かったことを認めています。具体的には、本社の指示を現場に伝える「翻訳」が不足して郵便局の現場では「時代遅れの規範意識が薄い組織風土が常態化していた」。すなわち組織内における中枢と現場が分離した風通しの悪さが不祥事を生む組織構造をつくりあげていたと、自社分析しているのです。


 増田氏はかんぽ生命で顧客に不利益になる契約を乱発していた不祥事を受けて、その原因たる組織風土改革を最重要ミッションとして2020年にトップへ就任しています。しかしながら、前述の通りその後も組織風土に起因した不祥事は一向に止むことがなく、企業統治改革、風土改革は思うようにはかどらないままに組織を去ることになったのです。日本郵政の病巣の根深さを改めて感じさせられる限りです。


●国営時代から続く「全特」にも問題あり?


 日本郵政の組織風土改革が進まない理由として、官僚支配とは別に、この組織特有の問題があります。それは、個々の現場の責任者たる中小規模郵便局長の集まりである、全国郵便局長会(全特)の存在です。


 全特は日本郵政の組織運営上、業務組織ではない私的団体であるものの、巨大組織の運営において強い影響力を持ち続け、組織の近代化を阻み続けている存在といえます。


 全特は民営化以前の全国特定郵便局長会が名称を変えた後も使われている略称で、中小規模郵便局長の集まりという点も変わっていません。そもそも特定郵便局は、明治時代に郵便網を整備する過程において全国津々浦々に郵便局を設置する国策展開の中で、各地の名士に私財を貸与してもらってつくられたものでした。名士たちに現場の管理職たる局長の地位が与えられ、基本的に世襲制で引き継がれています。


 この組織が大きな存在感を持っている理由は、局長が地域の名士であるという特性を生かし、昭和の時代から長きにわたって数十万票を握ると言われる政権政党の集票役として機能してきたことにあり、著しく政治色を帯びた団体であるからです。この組織の存在こそが、官営事業からの民営化を首尾良くランディングさせた、NTTやJR、JTと大きく異なる部分でもあります。


 先に触れた通り、郵政事業は民営化から18年弱が経過しています。この間、全特は選挙における集票力を盾に、自民党をはじめその時々に民営化の進展を遅らせる法案を上程し旧体制擁護を後押しする政党への支持を続けてきました。


 結果、小泉政権時に成立した2017年9月を完全民営化期限とする民営化法は、2012年に一部公有維持、民営化期限の削除を盛り込んだ改正法案となり、完全民営化計画は大きく後退したのです。これ以降、全特は自民党支援に回帰して今に至っています。


●通常の「民間企業」なら許されないことが起きている


 自民党も今回の参院選を前に、郵便局網の維持に650億円の公的資金を充て、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の民営化を先送りする改正法案を了承し、全特の集票への期待感を露わにしています。


 この全特が「政府=自民党」の集票役として存在することで、抜本的改革を先延ばしし続けているという構図、これこそが組織改革=組織近代化を阻む最大のネックになっていると考えます。通常の民間金融機関で、もし支店長たちが私的団体を立ち上げて特定の政党の集票活動をしたならば、経営はそれを黙っていないでしょう。公共性を帯びた機関として社会的な批判も免れ得ないはずです。


 このような一般的には奇異に映る全特の政治活動が風習的に脈々と続いている背景に、民営化以降「原則廃止」となっているはずの旧特定局長職の世襲が、暗黙裡に残っていることも見逃せません。


 この事実こそが実は、本稿の本題であるコンプライアンス面において重大な影響を与えているのです。世襲の郵便局長には、原則転勤がありません。一般の民間金融機関では、現場での与信業務の有無にかかわらず、責任者である支店長は2〜3年周期で必ず異動があります。これは、顧客との癒着回避、業務遂行および店舗・人事管理における緊張感の欠如やたるみ防止の観点から実施されるのです。


 全特局長のように店舗責任者の人事異動が半永久的にない状況下では、顧客との癒着や業務管理の緩みが必ず生まれます。保険販売の違反行為は顧客との近すぎる距離感がその根本原因にあると考えられ、不適切点呼問題は現場での業務管理の緩みが原因になっていることは間違いないのです。


 このように見てくると、結局のところ日本郵政で続発する不祥事の根源は、国営時代から変わることのない旧態然とした組織構造にこそあることがよく分かります。そしてその近代化を意図的に阻んでいるものが、政治的な色合いの濃い全特の存在であることも同時に見えてくるのです。


 今般日本郵政社長に就任した根岸一行氏は旧郵政省出身の官僚であり、時同じくして日本郵便社長にも旧郵政省出身の小池信也氏が就任しました。完全に民営化逆行といえる人事からは、組織構造改革への消極姿勢ムードが漂ってきます。株主総会での不祥事に対する大批判をよそに、再発防止に不可欠な対症療法ではない日本郵政の根本的改革は、まだまだ着手されそうにありません。


(大関暁夫)



このニュースに関するつぶやき

  • チョイ前まで「手数料二重取り」やってた所、業者手数料負担の振込用紙なのに振り込む客側にも手数料上乗せしてたんだよ、意見申し立て多かったのか無くなったけどね、客馬鹿にした経営は国営からの悪しき体質かな
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